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265話 王者達の協奏曲 49(主人公視点ではありません)


【Time's up! Winners クロウ!】



「ふぅ……」

 二本目の試合が終えるブザーが鳴り、同じタイミングで目の前に(正確には選手の間に)薄い半透明な壁が出来る。


 一応、これが出来ることでブザーと共に試合終了の合図になるというのは参戦者の常識となっている。ちなみにこの壁は対戦システムによって作られた壁なので、薄くても強度は最高というか破壊不可になっているわけだが……



 ゴンッ!



 単純な打撃音というより、それこそ空間を軋ませたような異音があたりに響く。



「打っても当たらないよ?」

「……半歩届きませんでした」


 足元の床から煙のようなものが発生するほどの強い踏み込みをしながら放った彼女の突きは、半透明な壁によってダメージ自体は発生していない。ただ、ある種の圧に似たものが激音とともにボクの横をすり抜けていく。


「届いても一撃で体力差を逆転出来ないでしょ」

「それはそれ、です」


 結果など関係なしに拳を振り抜いた彼女はそう言ってから振り返ると、拳を二度三度と振ってから自陣へ戻っていく。



『とりあえず、ってところかな』

 二本目の試合、ボクの残HPは七割。相手の残HPは三割だから時間切れの試合とはいえ、それなりの差がついた結果に軽く安堵する。


『最後の突きが当たっていたとしても、あの攻撃なら一割ぐらいしか減らなかっただろうに』

 とはいえ、最後の踏み込みが捉えきれていなかったのは事実だな。


『気配は感じられたけど、正確な位置把握が出来ていなかったか……あきらかに最初よりもベースのステータスが上がっている?』


 うーん、試合が終盤になるのに比例してステータスが向上するタイプの自動能力上げ(オートバフ)は他の格闘系と戦った際に体験しているけど、彼女も一本目よりも二本目、それも二本目の中盤以降のスピードは最初と比べればかなりのものだった。

 しかも途中でスピードを上げるようなバフを使った素振りもなかった。



『彼女が身につけている緋蒼流も似たようなものがあるという考えで良いかな、たぶん』

 もっとも、緋蒼流とは関係なく個人として身につけた闘技の可能性もあるから、あくまで緋蒼流の対策というより、格闘レベルの高い相手に対しての考えとして収めておく。それにしても……


『彼女の動き、その全般がこちらの予想よりも速かったな。

 想像していものの倍とまではいかないけど十分速かったし、あれだけの動きを最後まで継続して出来ていたということ自体も厄介なことだよね』

 あれだけの動きを“速った”という一言で片付けるには、ちょっと納得いかないというのが本音。しかも戦っていた時の手応えからは、その動き方にレベル以上の熟練度も感じられた。


『熟練者となれば誰でもあれだけの動きをしてくるのだということを、ここで知識と経験として得られたのはラッキーだったよ』

 緋蒼流の使い手であれば、あれぐらいの動きをデフォで出来るというのは良い収穫。そしてそれは次の機会に活かされるので狙った結果でもある。



『しっかし、あれでレベル20って言うんだからなぁ……どう考えても倍のレベル40か、それこそボクと同等と言ってもおかしくない強さなんだよねぇ』

 マギーさんというより、冒険者ギルドが彼女のステータスを聞き間違えているとか? もしくは冒険者ギルド(彼ら)がボクに“敢えて間違えたステータスを教えて油断させた”とか……うーん、そんなはずはないよなぁ。


 それこそ、この世界の住人であればボクも含めた異邦人(プレイヤー)と違った強さを備えているから単純なレベル差としてカウントできないものがあるけど、彼女が異邦人(プレイヤー)であることは間違いがない。

 とすると、もしかしたら彼女はイレギュラーな存在なのかもしれない、特異点を持つ異邦人(プレイヤー)……一時期噂に上がった狭間人(ハイ・プレイヤー)か、もしくはこの世界の住人に認められ、新たな命を得られる存在となった、特別な異邦人(プレイヤー)か……



『ま、とりあえず今は考えるのをやめておこうかな。そんな事を言い訳にしても仕方がないし、そもそもそんな話をしたところで“レベル差に油断したからだ”なんて言われても癪だしね』

 一本目、予想外という言い方はしたくはないが、僅差とはいえギリギリの内容で落としているのは正直なところ面白くないし、自分にイラつくところもあった。


『確かに普段戦っている顔見知りと比べ、より深いレベルで彼女の戦い方を見て感じようとしてこともあったから、稀にこちらの行動でワンテンポ遅れたことはあったかもしれない。だが、それと負けるということをイコールにするのはダメだからね』

 とりあえず、一本目の内容を二本目の大差的な結果で勝利したということで、少しは負けた結果を活かせたというふうには出来たから、感覚としてチャラにしたと思うことにしておこう、うん。



『あと、彼女は勁を用いた攻撃が多かったのも特徴だったし、軸を上手く利用した攻守の迅速さも面倒だったなぁ。

 まぁ、勁を通してくる技名が“鎧通し”とか、ちょっとおかしな名前だったけど……』

 “千枚通し”も現実では個別の名称だし。今まで戦った緋蒼流の使い手、それほど強者がいなかったとはいえ、ここまで技術(スキル)の高い技を使いこなせる人はいなかったから、鎧通し(それ)が固定の技名なのか彼女が技を出すイメージとしてやりやすくする為に、そういう名前を付けているのかまではわからないけど。


『勁系はガードしても貫通するから厄介だから、なるべく当たらない間合いまで下がるか、もしくは通さないように流す(パリィ)しかないから面倒でしかないんだよね』


 近距離に詰められ、パリィでしか逃れられないような戦いはなるべく避けるべきだと思う。こちらが絶対的に優位な距離を保つことは戦闘のイロハだし。

 まだ彼女だからまだなんとかなっているものの更に上位の相手との戦いともなれば、そんな間合いにまで詰められたらこちらが仕留められることになるのは明白だし。


『失敗は出来ない。失敗はこちらの死だけではなく、その先の可能性を閉ざすことにしかならないからね』 

 面倒だけど、色々と考えさせられる戦いを経験できるのは実に有り難い話だよ。



「三本目、そろそろ始めますよ」

 インターバル用にセットされた個室へギルド職員が呼びに来る。


「はい」

 扉を開き、闘技場までの通路を歩く。


『三本目かぁ』

 一本目と二本目が時間制限があるのに対し、三本目は時間無制限でどちらかが倒れるまで戦い続ける仕様になっている。故に相手を色々と“視る”戦いをしようとすれば、先の二本分にも劣らない経験が得られるとは思うけど……


『危険だね』

 ある程度彼女の戦い方から技の技術や力、そしてスピードも把握は出来た。出来たけど……


「きっと、まだ何か隠している」

 それが何かはわからないけど、何か彼女の裏側に気持ちの悪い何か(・・)があるとボクの第六感が訴えている。とはいえ、


『まぁ、受けてみたい、感じてみたいという思いは嘘ではないけどね』

 もしそれが緋蒼流のものであるとしたら……敗れてなお得られる経験を惜しんでしまう。



「珍しいですね、クロウさんがブツブツと呟きながらそんな顔するなんて」

「ん? そんなに変な顔だったかな」

 というか独り言が出ていたのは恥ずかしい。


「変というか」

 ギルド職員は少しだけ躊躇ったあとに口にする。



「歪んだような笑顔でしたよ。

 対戦者から見たら物凄い威圧になったでしょうね、それこそ逃げ出したくなるぐらいの……」



いつも読んでいただきありがとうございます。

次回は3/29(月)と二週間後にさせていただきますのでよろしくお願いいたします。


また、ちょっと面白いと思っていただけたら、ページ下部の☆マークをクリックして、ポイントをいただけたら幸いですm(_ _)m


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