263話 王者達の協奏曲 48 vsクロウ 1
「試合は二本先取で二本目までは一試合十分としますが、二本目で決着がつかない場合には三本目を時間無制限で行います。なお、ダブルノックダウンについては両者に一本づつ入ります」
マギーさんからの試合の説明。
改めて大勢の観衆の前でルールなどを聞かされると、緊張からか少しだけ足が震える。だけど……
『心というか、気持ちの方は意外に落ち着いているのよね』
以前にアルブラでラルさんと戦った時はもっと小規模だったから、慣れっていうことはないんだけどなぁ……まぁ、マギーさんから色々と聞いていたからだと思うけど。
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「向こうからの提案は“二本先取制での対戦”ってことだけだったわ。ま、これはこれで結構ツライけどね」
「でも、戦ってくれるだけでわたしとしてはありがたいですよ」
時間をかけたくないわたしにとって、すぐに試合が出来るのというはありがたかった。しかも、対戦相手はこの闘技場で戦っている冒険者の中でも指折りの強者。
通常であれば何者かわからないような相手との試合なんてなかなか受けてもらえないという話だったので、そういう意味でも二重でありがたいという見解なわけで。
『それなりの結果さえ残すことが出来れば、例え負けたとしてもその後の強者勧誘には箔がつくはず』
……とはいえ、最初から負ける気なんてないけど。それにしても、
「物凄く強いですね、クロウさんって」
マギーさんから手渡されたクロウさんの戦績やスタイル、得意技などを一通り読んでみた感想としては“どんな相手とも戦えるオールラウンダーであり、とにかく隙がない”って感じ。それに剣技もさることながら、より厄介なのは魔法の方だとマギーさんが教えてくれた。
「近距離なら長剣で攻撃、中距離から遠距離なら魔法で攻撃をしながら、自分が戦いやすいフィールドへと変えていく。特に相手の行動を阻害するような魔法やデバフを使う様は、さながら狩猟するハンターみたいな感じだと思えば良いわ」
「ハンターですか」
「ええ、しかも自分で追い込みからとどめを刺せるタイプだから厄介なのよ」
なるほど。じゃあ、わたしとしては……
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【Fight】
「疾っ!」
戦闘開始の合図が鳴った瞬間、クロウさんとの間合いをゼロ距離近くまで詰めると、勢いを殺さずに突きを放つ。
ガキンッ
スピード重視で出したわたしの攻撃。開幕直後ということもあり、それなりに当てる自信はあったもののクロウさんはそれを苦もなくガードしていた。
「速いね、想像以上だ! やはりモンクや武道家は普通の剣士よりも格段に速い。その中でもキミの速さは今まで経験した相手の中でも特に速い!」
「……その割にはしっかりとガードしていますよね。しかも拳に剣を当ててガードってバケモノですか」
先手必勝。正確には相手の出鼻を挫くためのだけのシンプル攻撃。そういう意味ではある程度ガードされることは想定内と言えば想定内。ただ、それを盾でガードされたのならまだしも、クロウさんは手にしている長剣、その刃の部分で突きを受けてガードしていたので思わず愚痴をこぼす。
「それを言うなら、強化も無しでエンチャントが付与されたボクの長剣と互角に打ち合うキミの拳も同様、人外の部類に入りますよ。普通なら刃の部分に触れた拳にダメージがあってもおかしくはないのだけど」
「褒められているのかもしれませんが、ちょっと人外の部類には入れてほしくないですね」
人外なんて、うちの師匠まで行ってないと名乗れませんよ? それにわたしの方は強化かけてありますから。まぁ、劇的に威力を上げるような強化じゃなく、常時型の能力向上の強化ですけど。
『それにしても』
ガッ、ガガガッ
「チッ、厄介な」
「どっちが厄介ですかっ!?」
拳が届く範囲から一歩も引かずに左右からの連打でクロウさんを攻撃し続けるも、それらの攻撃は器用に長剣や手甲でガードされる。
『マチュアさんみたいに攻撃を避けまくるってことがない分まだマシだけど、これはこれでショックかも』
威力よりも速度重視な攻撃である以上、完璧にガードされ続けるのは精神的にだけど地味に効く。っていうか、手数もだけどフェイントも絡めた攻撃にチェンジしてみようかな。
「!」
そんなことを考え始めた瞬間、不意にクロウさんから徐々に威圧的な気を感じ始める。この感じ、どこかで感じたことがあるような……
「ふぅ、お互い強化もかけられない状態だと見ている人達も面白くないだろうし、ボクとしても楽しくないんだよね、だから」
「逃しませんよ」
変な感じを受けることに対してすぐに対処ができない以上、とにかく今の攻めを続けるしかない。
『隙を与えず、相手に自由に動ける間を与えない』
わたしの作戦の一つとして、とにかく間合いを離されないようにしながら相手に魔法を使わせる隙を与えないこと。勿論、それは相手だけじゃなく自分自身にもより強力な強化がかけられなくなるから、一撃一撃の重さが不足することにはなる。
その分手数の多さで勝負!
「そっか、でもそれはボクの本意じゃないから……悪いけど流れを変えさせてもらうよ」
そう話すクロウさんが長剣をわたしの攻撃に当てる。それはさっきよりも速く鋭い振りで……
バンッ!
「なに!?」
拳と長剣がぶつかる音。ただ、さっきまで響いていた音とは異なるもので、その音と一緒に長剣と当たった拳が大きく弾かれ、体勢が一瞬だけど崩れる!
『これって、強制武器解除!?』
以前にわたしがタウラスさんとの戦いで使った闘技、それと似ていた。もっとも、あの時わたしが出した攻撃はタウラスさんから武器を強制解除していたのに対し、今のわたしは体制が崩れただけ。だから強制武器解除というよりも……
「弾撃。相手の攻撃をいなすのではなく相手の攻撃と自分の攻撃を利用した技なんだけど、さすがに素手格闘に使ったのは初めてだったよ」
クロウさんはそう言いながら、わたしの攻撃を弾いたモーションの流れから空いている左手を下に向けると、
《氷層塊》
ゴゴッ
「えっ、ちょ!?」
崩れた体勢から急いで防御しようとしたわたしの足元、正確にはわたしたちが立っている床から大小幾つもの氷の塊が隆起する。
「あっぶな……」
わたしの足元には一メートルぐらいの氷塊が。そしてクロウさんの足元には三メートルほどの氷塊が現れていた。幸いにもわたしの足元に現れた氷塊の先端は尖っていなかったからか、バランスを取って立ち続けることが出来たけど、バランスを崩していたら横に生えてる逆氷柱みたいな尖った部分に刺さっていたかもしれない。
「一応ダメージ判定もある氷塊なんだけどノーダメージか。いいバランスしてる」
「横の氷柱に刺さったらそれなりにダメージ受けてましたよ」
高い場所から褒められたような発言って、どっちかって言うと見下されているような感覚になるものなんですが。
……っていうか、
『間を開けられた』
クロウさんに与えたくなかったものを与えてしまった以上、お互い次の段階に移るしかない。
「さて、しっかりと強化をかけて再開しようか」
「仕方ないですね、残念ですが」
クロウさんが強化を使う前に割り込むのはこの位置から無理な状態。だったらこちらとしてもしっかりと強化魔法を使って対抗するのみ。
「では、再開といこうか」
「ええ」
『とにかくやるしかない』
まだ試合は始まったばかりなのだから。
いつも読んでいただきありがとうございます。
そして今回も誤字脱字のご指摘、ありがとうございます!
次回は2/22(月)、猫の日?に向けて仕上げます。
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