261話 王者達の協奏曲 46
「私はリシュの見る目を信じるし、私自身としてもあなたが簡単に負けないと思っているわ」
「二人そこまで言われたら負けられないですね」
マギーさんと、マギーさんの信じるリシュさんのためにも。
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『とはいえ……』
貰った対戦相手のプロフィール、そしてマギーさんが纏めていたクロウ選手の対戦スタイルや戦績などの資料を見てから、闘技場の控室でシミュレーションを何度かしていたものの、大体はストレート負けな結果に溜息しか出ない。
『スピードで勝てても魔法剣士の独特な攻守が厄介すぎるのよね』
纏うバフで威力は増えるし、範囲魔法でこっちの行動が限定されるっていうのが実にイヤらしい。あと空間というか、攻撃範囲外だと思っていたところに不意打ち的な攻撃を置かれたりと、今まで対戦したことがない戦術に悩まされていた。
「結局、相手が警戒しているのを承知の上で接近戦に持ち込むしかないってことに変わりはないってことか……」
相手のことを考え、苦手としている所へ攻撃を集中出来ればベストなんだろうけど、明らかに戦い慣れした上位ランクの異邦人ともなれば、そんな簡単に攻めさせてくれるような隙を求める方が間違っている。
故にわたしとしては“わたしが出来る最良の手段”で攻め続けることしか出来ないし、それこそが勝ち筋を狙える唯一の攻め手……だと思う。
『はぁ、それしかないとはいえ大変というか、厳しい戦いよね。マチュアさんならどうやって戦うのかな?』
自分よりも上位の異邦人と戦うのだから、「今の自分よりも上位となるマチュアさんならどう戦うか」と考えていると、冒険者ギルドの人が「始まりますよ、準備してください」と話しかけてきた。
……うーん、時間が足りない。
「あれっ、そういえばマギーさんに準備してもらった装備は着ないのですか?」
側にいたギルド職員が思い出したかのように話しかけてくる。
「さすがに、アレを着て戦う勇気はありませんよ」
そう言いながら少し前の事を思い出す。
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「大丈夫、痛くしないから……」
「それ絶対に痛いか、痛いに等しいことがある時に使う言葉じゃないですか!?」
と、足が何かで固められたかのように動けなくなり、逃げられない状態に混乱していると、指をワキワキと動かしながらマギーさんが近づき、指をパチン鳴らす。
パチン!
「ほ〜ら、痛くない」
「た、確かに痛くないですが妙に肌が風を感じるというか……」
そう答えながら自分の姿を見た瞬間、
「ふぇっ!?」
あまりのことに自分の出した声と分からないぐらいヘンな声が出る。
「な、な、な、な……」
「チッ」
ニヤニヤとしながら舌打ちするマギーさん。というか、今はそれどころじゃない!
「なんでわたしの装備が戦闘神官の衣装から水着になっているんですか!!」
しかも水着っていうのも合っているのか怪しいデザインに、両手両腕を使って隠せるだけ隠すけど……
「似合っているわね〜ムカつくぐらいに。っていうか色々と隠しきれてないし?」
「一生懸命隠そうとしています! というより水着にのサイズがおかしいんですって!」
マイクロビキニとかまでは言わないまでも、胸の部分は谷間を強調しつつ、胸の下を出すようなデザインにより、胸の上下ともにかなり顕になっているし、下は下で脚長に見せる為か、太腿の付け根部分がしっかりと食い込むようになっていることから、お尻も半分以上露出している状態……いや、もう本当に勘弁してください。
「……はぁ、フリーサイズなのにハチ切れんばかりの胸とお尻って何よ。ちょっとコレには嫉妬しかないかも。
もしかしてリシュよりもスタイル良くない? あの“ダークエルフ最高のスタイルを持つ”と長年言われ続けてきた彼女よりスタイルが良い人間がいるとはねぇ〜
しかもそれが神様とかじゃなく異邦人って言うのが……ホント、世の中色々と間違っているわ」
「いや、ヘンに拗らせて嫉妬するぐらいなら勝手に着替えさせないでください! しかも本人の了承も得ずにってなんですか!?」
「聞いたら了承してくれたの?」
「しません!」
『じゃあ、やっぱりダメじゃないの〜』とマギーさんは拗ねたまま椅子に座る。
「でも、その衣装で出たら勝つ確率も一割ぐらいは上がるかもしれないわよ?
その装備、“ハイレベルアーマー”は見た目とは違って防御力もかなり高いし、魔法や異常化への抵抗値も大幅に増加させるから魔法剣士との戦いには特に有効よ?
それに露出により発生する【魅了効果】がオート機能で発動するから、異性者に対して優位に立てられるし。正直、あなたのその“ワガママ大爆発なスタイル”なら装備の魅了効果を更に爆上げするだろうから、もしかしたら勝つ確率を一割どころか三割以上あげられるかも?」
「それは……いえ、やっぱりそれでも前のままで良いです」
勝てる要素が高くなるのは捨てがたいけど、試合前から色々な人に注視されることで生まれる羞恥心に自爆することが否めない。
「って、ハイレベルアーマーって名前も意味不明ですよね」
「そう? 色々と“ハイなレベルになれる”アーマーなんだけど。レベル的な意味でも、気持ち的な意味でも?」
「なんで疑問符がついているんですかねぇ……」
着せた人の説明に疑問符がつくような装備ってなんですか? というか、
「マギーさんが使ったスキルって何なんですか?」
身動きは取れなくなるし、装備も本人の許可なく変えられるとか……
「あ〜、どっちもギルド職員、それも管理者クラス限定のスキルよ。この建物内ならギルド職員が入場者に対して上位者となる仕組みがあるの。その仕組みの中で設定された上位者が、対象者に対して権限を行使すると色々出来るっていうこと。
ま、抵抗可能にはなっているけど、抵抗値がバケモノ級じゃないと無理だから、ほぼ抵抗不可に近いわよ?」
「なるほど……でも、説明もなしに使うのはやめましょう」
「はーい」
『これ反省してない奴だ……』
まぁ、今後気をつけるべきことが出来たというポジティブ的な考えで一旦この話は置いておくとして。
『装備しているイヤリングの効果で耐性や抵抗値はかなり高いはずなのに……ちょっと考え直さないとダメね』
一応、絶対安心とまでは思っていなかったとはいえ、どこかで“毒や麻痺や状態異常には強い”と決めつけていたのは否めない。
【こういう特殊な施設と仕組み、そしてその管理者というのは特別なモノだから。普段はそんな特別なのを
相手に喧嘩を売らないから大丈夫でしょ? それとも売る予定があるとか?】
『ありません、やりたいとも思いません』
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結局、そんなこんなで元の装備に着替え直すまでに何度かあったマギーさんからの障害も無事に乗り越え、最終的にはいつもの戦闘神官の装備に戻ることが出来た。
「え〜っ、似合っていましたよ。それにあの装備はかなり性能も良いのに」
「性能が良くても、羞恥心で身動きが取れなくなりますから!」
常に自分の状態を気にかける必要がある装備で戦うって無理でしょ!?
「ま、そう言いながらもコレだけは使いますけどね」
そう言ってわたしは自分の顔に優しく触れる。
「さて、そろそろマギーさんに呼ばれますよ!」
「オッケー、頭の準備は出来てないけど心の準備は出来ているわ」
タンッ!
椅子から立ち上がり床を軽く踏み込むと、体の中で固まっていた気が準備万端とばかりに活性化し始める。
『うん、悪くない』
ギルドの人に話しかけられマギーさんとのやりとりを思い出したことで、ヘンな緊張感は上手く抜けたのかいつも通りに手足が動く。
「続きまして、青コーナより【ヒソウ(仮)選手】の入場です!」
「「「「「「オォォォォォォォォォォォォォォォォォー!!!!」」」」」」
マギーさんの呼び出しに会場の歓声が爆発的に上がる。
「さて、行きますか」
『わたしがアルブラに戻る為の最初のミッション』
ここでしっかりとした戦績を残し、腕に覚えのある冒険者に声を変えてパーティーを組む。
そしてリシュさん達に協力してもらい、リスドさんが言っていた『勾玉のエネルギーを充填する』ためにダンジョンの奥にあると聞かされた、ダンジョンを構成している神器のある場所へ向かうのが次のミッション。もちろん、勾玉に充填することが出来た後には、わたしにかかった【所在固定】を解除するのもミッションとしてあるから……
『はぁ、前途多難よね』
【出口が見えただけマシと考えなさい】
『……そうね、うん』
『大変なことに変わりはないけど、とにかくやるしかない』
もう一度気持ちを入れ直すように深呼吸をすると、わたしが会場に向かって歩き始めるのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます!
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もう二月ですか、早いですね……
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