259話 王者達の協奏曲 44(主人公視点ではありません)
ドン!
闘技場の中央に生まれた竜巻に巻き込まれた対戦相手が、地面に叩きつけられるとそのまま量子化して消えていく。
【Battle End】
「クロウ選手、本日も安定した強さで九連勝! やはりその強さは別格だぁぁぁ!」
ワァァァァァ!!
場内が割れるような歓声の中、ゆっくりと闘技場の観客に挨拶をしてから、選手用に用意されている控室へと移動する。
「圧勝でしたね!」
「そうでもないですよ、若干ボクの方が冴えていただけです」
控室へと続く廊下でギルド職員が興奮した状態で話しかけてくる。
『いや、ボクが強いっていうより相手がね……』
とは言えないので心の中で思うだけにしておくかな。
間合い・駆け引き・反応。
戦った感覚としてはそれなりに経験があるのはわかったが、そのレベルは一般の相手に対してのものであり俺を含めた、所謂トップランカーによって研鑽されたものではなかった。
『ま、たぶんビ・ディンに来てまだ日が浅かったんだろうなぁ……しばらく闘技場に通い詰めて対戦レベルを上げたら、トップランカーは無理でもセカンドグループには来れるんじゃねーかな』
もちろん、本人の気持ちが折れなきゃっていうのが前提だけど。
『相変わらずね』
『ん? マギーさん?』
『よくわかるわね、こんなにも歓声で騒がしいのに』
エリアチャットは煩いから切ってあるし、今日は特定のメンツとパーティーを組んでいないからパーティーチャットが飛んでくることもない。
『闘技場の歓声っていうのも、慣れたら聞こえなく出来るって教えてくれたのはあなたでしょ?』
『それはそうだけど、それを簡単にやっちゃうクロウちゃんが怖いわー』
『怖がっている感がゼロです』
それよりも、戦いが終わった直後に話しかけてくるなんて珍しい。
『普段から“公正にある為に特定の冒険者に声をかけない”っていうあなたが秘密会話で話しかけてくるとは……面倒事が起こる予感しかしませんが』
『ん〜面倒事というより、あなたと一戦やってもらいたい冒険者がいるの』
『はぁ、それは別に構いませんが……今日はあと一戦したら上がりなので別の日なら』
『悪いけど今日でお願いしたいの』
『今日って……今九連勝中なんですが?』
基本的に対戦相手はエントリーからのランダムにしている。誰とやるかわからない対戦の方が楽しいし、予測なく相手が決まる方が、フィールド上で起こるアクシデントにも対応出来る対応力が身に付くから、自分にとってもプラスになる要素が高い。
そしてランダムだからこそ感じることが出来る様々な情報を自分の中で整理する時間を作るため、一日の対戦数は十戦までと決めている。
ちなみに九連勝したあとの十戦目はランダムとは言ってもそれなりの強敵と当たる確率が高くなる。それはそれで経験値の貯まりが良くなるし、何より自分に賭けられるオッズも高くなることから、賞金を稼ぐのにはもってこいになるわけだけど……
『その人のレベルはカンストですか』
『レベル20よ、あなたの半分以下ね』
『だったら伝説級の武器や防具を持っているとか』
『戦闘神官だから素手よ。まぁ防具はレア物だけど、さすがに伝説級じゃないわ』
……は?
『レベルは低いし装備もイマイチな相手とか、どう考えてもボクがやる意味がないような相手じゃないですよね?
勝って当然、万が一負けたら“イカサマしたんじゃないか”って言われかねないような試合はしたくありません。別を当たってください』
これと言って自分に旨みがない相手と戦っても意味が無い。
『確かにあなたのようなリアリストから見たら、パッと見では彼女から大したものを感じられないかもしれないけど、彼女の中にあなた自身が戦ってみたいモノがあったととしたら話は別、だったと記憶しているのだけど?』
『ええ、まぁ』
そんなレベルの相手に何かがある? というか、今“彼女”って言ったか?
『“緋蒼流格闘術”……あなたが一番戦いたい流派じゃなかったかしら?』
『その人は冒険者……いや、異邦人ですか』
『ええ、正解よ。でもその異邦人は帝国籍じゃないし、“脱帝”でも無いわ。
そのくせマスターランクとまでは言わないけど、その域に近しいレベルになっているのよ?
一体全体、彼女はどこでどうやって誰に教えてもらい、そこまで強くなれたのかしらねぇ……私も興味あるわ』
異邦人で“緋蒼流格闘術”を習得、しかも帝国に与してきていないとなると……良くも悪くも気になるプレイヤーであることに間違いはない。
『ボクの記憶では……“緋蒼流格闘術”は帝国の兵士なら必須スキルとして身につける必要があったのでそれなりに広がってはいるものの、全土的には、“冒険者は素手格闘を重要視しない”ということもあってか、メインに使う人は殆どいないというイメージでしたが』
この世界の冒険者ですらそんな状況である以上、異邦人ともなれば存在がスーパーレア扱いされてもおかしくはない。
『まぁ、単純に武器を使った方が手軽に強くなれるってこともあるしね。ま、あとは初期レベルじゃメイン職として使いづらいから“趣味の領域“って言われているぐらいだし?
もちろん、マスタークラスになればヤバすぎる強さになるけどねぇ……ま、習得した人のうち、何人がそこまで行けるのかしらね』
長くそして多くの冒険者と関係を持つ、ギルドの職員であるマギーさんでもそんな評価でしかない。
『実際に覚えるまでのフロー、そしてマスタークラスとは言わないまでも実践で使えるまでにかかる時間や経験……リターンとして得られる結果がどれだけ優れていようとも、異邦人が職業・闘技として覚える理由がボクには見えない』
覚えることに否定はしないが、自ら覚えたいとは思わないし他人に推奨もしない。ただ、
『その異邦人、マギーさんから見てどれぐらいの強さを有しているのですか?』
それらを全て覚悟した上で覚える。しかも身につける必要の無い国を所属として選んでいたのにも関わらず、敢えて素手格闘を選んだ異邦人……普通に考えれば【異常】だとしか考えれない。
『そうねぇ、見た目の感想ならミスコンでも上位に入るような容姿かしら。そのくせ、内に潜む力の圧は……油断していたらあなたでも狩られるレベルかもしれないわね』
“あくまで、かもしれないだからね”とマギーさんは言うが。
『それは本当に“圧”ですか、もしかしたら“狂気”だったりしまんか?』
マギーさんはボクの質問に薄っすらと笑うのみ。
普通なら戦いたいと思うことも無いようなレベル差。それをわかってなお挑むのは勇気というより、狂気の沙汰としか思えない。
『……はぁ、自分でその答えを見ろということですか』
まぁ、そういうのも嫌いではないですけどね。
『わかりました、その話受けましょう。でも、数秒で試合が終わってしまった場合、間違いなく場は荒れますから、その場合には対応してくださいよ。
あと試合形式はいつものじゃなく、アレでお願いできますか?』
『ええ、構わないわ。私としてもその方が色々とやりやすいから問題ないわ。
じゃ、あとはこっちで手続きしておくから』
そう言うが早いか、マギーさんから一枚のレポートが届く。主に対戦相手のことが書かれているが、その内容は殆ど白紙に近い。
「といか、名前が“ヒソウ(仮)”で性別が“女性”とか、わかっても仕方がないようなことをレポートにまとめられたところで……いや、違うな」
【名前:ヒソウ(仮)】
【性別:女】
【職業:戦闘神官】
【戦闘タイプ:格闘“緋蒼流格闘術”】
「緋蒼流格闘術、これが書かれているということは、冒険者ギルドとしても偽りないモノと証明しているということか」
今のボクにとって、ビ・ディンにいながら“緋蒼流格闘術”の使い手と戦えることはありがたい話であり、必要なこと。
「どんな人かは分かりませんが、全てを見せてもらいますよ。それこそ、あなたが「もう戦いたくない」と言っても止めませんから、覚悟して下さいね」
出来ることなら一戦と言わず、何十何百と戦いたいところですが……出来ないのなら、その一戦で全て見えるまでやるのみ。
『ボクの、いや、ボク達の願いを叶えるためにも……ね』
いつも読んでいただきありがとうございます。
年内最後の更新です、久々の二週連続アップです!
……誤字脱字を今回も大量に出していると思われます、すみません。
※毎週ご指摘をいただきました、ありがとうございます
次回は1/4(月)にアップできるように頑張ってみます、よろしくお願いいたします。
※年末年始は家のことが色々とあるので微妙ですが
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