253話 王者達の協奏曲 38(主人公視点ではありません)
「そうね、飛行する魔物がいるから城壁とか関係なくなるし、正気を失った魔物がお行儀よく湖にかかる橋から来るとは限らないわね。
……でも、やるしかないの」
そう話すマチュアさんの表情からは、強い覚悟を決めた思いを感じる。
『かなり厄介なことになりそうね』
私から見て屈指の強さを誇るマチュアさんがあれだけ厳しい表情をするということ。それだけこの件の問題レベルが高いということ。ただ、
「それとリアがどう絡むの?」
空気を読まない、いや、彼女の覚悟よりもリアを優先するニーナがマチュアさんに話しかける。
「この魔物暴走の件を報告してくれた商隊の人達と一緒にアルブラから出発しているの。商隊の一員としてね」
「商隊の一員って、まーた何をしてるのやら」
その話を聞いたニーナが軽くため息をつく。
「ま、神代の映証で全土に放送された以上、アルブラに長居するのを避けたかったんでしょうね。
そこにタイミング良く話があったから動いたってことじゃない?」
「……あー」
そういう動きをするのは考えていたけど、リアの性格を考えたら、もう少し先の行動と予測していた。
『今までのリアなら、たぶん色々と悩んで時間がかかっていただろうに……ゲームの中の話とはいえ、良い意味で成長してるじゃないの』
私の中にあるリアの評価を上方修正すると、再びマチュアさんに話しかける。
「それでリアは」
「商隊の所属が共和国だから、王都経由で共和国の首都に向かうって話だったわ。
リア自身は彼らと一緒に共和国まで行くか、それとも共和国には行かず王都で途中下車するか決めかねていたわね。とりあえず行ってから考えようって話になっていたけど」
「なるほど……」
「アルブラに戻ってきた商隊の人達の話だと、商隊全員分の馬が無かったから、その商隊長の女性とリアが現場に残り、魔物暴走を避ける為に大回りしてアルブラに戻って来るって話よ。
勿論、生きて戻って来られた人達としても女性二人を残して来るのはかなり抵抗はあったみたいだけど、商隊長の女性はかなり強くて多才なスキル持ちだからって話だったのと、リアについては」
「異邦人だからってことですね?」
「ええ、彼女自身の状態は知られていないから、そう判断されたとしても仕方ないわね」
『リアがゲームの中において異邦人であれば死ぬことは無い。異邦人は死んだとしても代償を払うことで強制戻りの力で生き返ることが出来るから』
リアの事情を知らない人達がそう考えてもおかしくはないだろう。だから捨て駒とは言わないまでも、生き残りをかけた場面となった場合、ゲームの中の人達は状況によって異邦人を盾にすることを私は知っている。
『誰だって死にたくないものね……』
ゲームの中の人達は、ゲームの仕様によって命を縛られ、いとも簡単に死亡するし、私達のように復活するにはハードルが高すぎる。
『完全な死の状態でも、規定時間内なら蘇生魔法で生き返ることが出来る分だけ、現実よりかは良いけどね』
もし、自分がゲームの住人であったなら、正直なところ同じ判断をしていたと思う。
とはいえ、
「リアも“自分がこの世界の人達と同じ状態”なんて言わない以上、損な役回りを引いていますね」
「そうね。だから私達が出来るのはリアが戻って来るのを信じ、魔物暴走を撃退しキッチリと撃退してアルブラを守り抜くこと」
「その為に手伝えってことですね」
「あなた達のことだからリアを迎えに行くって言いそうな気もしたけど、リアがどのルートでアルブラまで戻ってくるかわからない以上、素直に防衛戦に加わって欲しいわ。
使える戦力が限られるし、名が知れたあなた達が戦闘に加われば士気の向上にもなるから」
「戦力が限られる?」
アルブラも前線の一つだったのに……
「少し前にアルブラであった戦闘の話は?」
「正体不明……ということにして、実は旧独立国家が手を回していたっていうアレですか?」
王国も完全な証拠を掴めていないが故に、国家間の問題として出せず、ゴシップ誌が噂として
「ええ、わりと機密性の高い話にしてあったのによく知っているわね。ちなみに最近出来た臨時国家が全て裏で糸を引いていたっていうのは」
「それは知りませんでした」
旧独立国家と臨時国家の今の関係から考えれば、その可能性は無くはない。でも、それが本当だった場合、話はかなりややこしい話になるわけで……
「それが本当だとしたら、アルブラが実際に受けた被害は少なく見積っても世の中で流れている情報の倍以上あったと」
私の問にマチュアさんは静かに頷く。
「ま、なかなか信じられない話かもしれないけど、実際にこの件で暗躍していた男を私は見てるし、倒したのはリアだから」
「……そうだとしたら信じない訳にはいきませんね」
勿論、今の話が真実だったらという話にはなるかな。
『今回の防衛戦、参戦しない選択肢はないっぽいね』
『あら、ニーナは素直に信じるのね』
マチュアさんが私達を巻き込みたいからという線も、一応見ておいた方が良いと思うけど。
『この人がリアに絡む話で嘘をつく必要はないと思うから』
『あくまで真偽の判断基準はリアってことね』
ま、しょうがないか。
「防衛戦の件、ニーナと私も手伝います」
「ありがとう、助かるわ。
じゃあ、簡単に説明だけするけど……」
そう言うとマチュアさんは対魔物暴走の作戦を話し始めた。
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「なるほど、単純ですが確実な作戦ですね」
「そうね、この場合奇をてらった作戦よりも確実に相手を止め、他に魔物が流れないようヘイトの管理もしなければならないからね」
マチュアさんから聞いた作戦は突進してくる魔物暴走をアルブラの北門及び湖にかかる橋で撃破していくシンプルなもの。
「橋を落としたら魔物達って湖を泳いで来るのかな? 泳いで向かってくれたら狙撃しやすいのに」
「そうね。でも、猪突猛進でやって来る魔物がどう動くかは読み切れないから難しいわね。
万が一魔物達が湖を渡らずここで魔物暴走が散開されたら、この辺りにある町や村への被害は想定できないレベルになるわ」
「……そうですね」
ただの魔物達ならまだしも、魔物暴走の厄介な点は魔物にかかっている狂気が他の魔物に伝播することだから、周りに散った魔物の狂気が伝播し続けるような事態が起きたら……
『被害は計り知れないわね』
村の壊滅なんて可愛いもので、国中がズタズタにされかねないか。それにしても
「あの、気になったのですが」
「何かしら?」
「マチュアさんって神殿に属する神官拳士ですよね?」
「ええ、そうだけど」
「言い方が悪いかもしれませんが、今の話を聞いた限り作戦の指揮に関したり、アルブラという巨大都市の防衛に呼ばれたりと重要な役割を……それこそ神官という肩書以上なことを担っていませんか?」
この人がとても強いのは知っているけど、強さと役割が比例するとは限らないし、神官とはいえ民間人が作戦の中心にいるのは違和感を感じてしまう。
「そうね、確かに一神官としてはやっていることが範疇の域を超えているわね。ま、あくまで役割をこなすうちの一人でいることに間違いはないけど、実際の総指揮は別の人間が執っているから気にしなくて良いわよ。
とりあえず私としてはその人に借りがあるから返すために働いているし、魔物暴走を止められなかった場合の被害を考えたら、神官としてやれることはやっておきたいと思っている……そんなところかしら」
『嘘はついていないと思うけど、何かが少しだけ引っかかる』
ただ、それが何かわからない以上は無闇に聞くことは出来ない。
「大変なんですね色々と」
「ええ、色々と大変なの」
『何かがあるのは確定。とりあえずそれだけがわかれば良しとしておく』
今の私にはここまでが精一杯、そう考えることにした。
いつも読んでいただきありがとうございます。
10月一発目です! ギリギリすぎですが、なんとか間に合いました。
あと、久々にたくさんの誤字修正ありがとうございました!
相変わらずの多さですみません、ご指摘いただいた方、本当に感謝です。
さて、次回は10/19(月)アップ目指して頑張ります。
間に合わせられるようにしますので、よろしくお願いいたします。
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よろしくお願いしますm(_ _)m




