252話 王者達の協奏曲 37(主人公視点ではありません)
―――◇―――◇―――
【水上都市 アルブラ】
「やっと着いた〜、長かった〜」
「……それはそうでしょ。
城塞都市ベルツを出てアルブラに向かう途中で『レイドイベント発生したから参加しなきゃ!』とか、『謎湧きした魔物ハンティングで経験値ウマー』とか、寄り道しまくったのは誰だったかしら」
「うぐっ……」
ベルツを出てからかれこれ十日目。当初の予定から大幅に遅れたものの、なんとかアルブラに到着することが出来た。ただ、出来たものの……
『なんだか嫌な空気』
街に活気はあるし、往来する人達もいたって普通なんだけど……妙に息苦しさというか、重たい何かがまとわりついてきて……
「不快ね」
「ルナっち、そこまで怒らなくても……」
ん?
「あぁ、ニーナのことじゃないのよ。ただ、アルブラに入ってから妙に……こう、空気が」
「あ、なんかわかるかも。この大型レイドイベントが始まる前のジワジワッとした、密度の高い空気みたいな奴だよね。
確かにここにきて随分と圧を感じるかも?」
「そっか、ニーナにも感じるんだ」
気のせいじゃなかったか。
「うん、大型レイドの時に感じる感覚って言ったけど、正直なところ、ちょっと比較出来ないレベルで今のほうが高いね」
「でも平気なのよね?」
どちらかと言えば気合い入ってなくない?
「フフッ、百パーセント平気かって言われたら違うかな? ただ、この感じる圧の分だけワクワクするからプラマイがゼロになっているだけだから」
「うーん……わかるような、わかりたくないような」
「ええ〜っ」
「とにかく行きましょ、居るとしたらここの神殿かしら?」
本来なら事前に手紙の一つも送ってからアルブラに来るべきだったけど、ニーナの『サプライズで!』という一言でアポ無しの訪問に。
『ま、あとはリアを探してってことだけど』
なんだろう、街の中にいるだけでイヤな感じが収まるどころか更に大きくなってきているような気がする。
「そういえばさっきの早馬、なんだっだろ?」
「まぁ、早馬って言うより伝令? 何にしても気にはなるわね」
全身というか馬共々ボロボロになった人が数名、馬に乗ってアルブラに着いていた。遠目から見ても、かなりヤバい傷を負っていたように見えたけど……
『大規模な戦闘があったのかな?』
『アルブラはちょっと前に侵略されていたからね、それと関連したことがあったのかもしれないけど、どうもそんな感じじゃないのよね』
人と人との戦闘であれば、もっと騒がしくなっているはず。
『うーん、確かにあの人達をパッと見た限りだと、人じゃなく魔物にやられたように見えるかな』
『魔物ねぇ……』
矢傷を負った人であれば、何らかの意図を持った集団と戦い、そこから仲間を盾にしてでもアルブラに知らせなければならないという事が想像出来るけど、魔物となると……
『アルブラに至急連絡しなければならないような人や物、そういったモノに問題が発生したってかとなのかな』
この地で絶大な権力を持つ人の関係者が魔物に拐われたとか、大事な商品を運ぶ商隊が襲われたとか?
『そうねぇ……』
そういったこともあるだろうし、もっと別の……それこそ、緊急イベント的な何かがあったりとか。他にも……
『……はぁ、ダメね。色々な可能性があるから下手な想定は視野を狭くするだけだわ』
考えても答えが出ない以上、推測だけで考えるのは危険すぎる。とりあえずは何が起きてもすぐに動けるようにしておくぐらいしか出来ない。
「ルナっち、神殿に着いたよ。何か考え事していたみたいだけど?」
「ん? あ、ゴメンね、ありがと。で、ここが」
「機械神メテオス様を祀った神殿、メテオス神殿だって。機械神っていうから、もっとゴツゴツしたというか、メカメカした建物を想定していたけど」
「いや、さすがにそれは……」
機械神、端的に結びつけるならPAってことになるからイメージとして湧くのは否定しないけど、建物がメカメカしてたら流石に引くでしょ?
ガチャ!
そんな会話をしていた所、神殿の扉が勢いよく開くと、中から慌てて人が出てくる。
「あら、あなた達は」
「あ……」
神殿から出てきた内の一人は初期村でリアとよくいた神官、
「マチュアさん、でしたね。その説は色々とお世話になりました」
笑う人形。元々は帝国にいた化物級の戦士であり、今では王国に在籍する神官拳士になったとはいえ、その実力が変わったわけでもないので、結局の所は簡単に喧嘩を売ったらいけない人だと言うことに変わりはない。
『ま、そんなヤバい相手と知りながら、逆にニーナはヤル気満々なのよね』
……戦闘狂の考えていることって、本当に理解出来ない。
「別にそれは構わないけど、リアに用事があったのならアルブラにはもう居ないわよ?」
「「えぇっ!」」
私とニーナ、二人の声が見事にハモる。
「って言うか、リアにも関係してくる話だから、あなた達二人も私と一緒に来てもらった方が良いわね」
そう言うマチュアさんから受けた圧は私達に向けたものではないはずなのに、まるで痛みを感じそうなイヤな感覚を覚える。
「何があったのですか」
「話を聞きたいのなら一緒に来なさい」
マチュアさんはそう言いながら用意してあった馬車に乗り込む。
「行こう」
「……そうね」
さっきまでとは別人のようなニーナに促されると、神殿の外に停まっていた馬車へと移動する。
・
・
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「行き先は?」
街中とはいえ、かなりの速度で走る馬車の中で端的に質問しながらマチュアさんの様子を見る。
「領主の館よ。理由は」
ビビーッ! ビビーッ!
「うえっ!?」
聞きなれない、それでいてちょっと聞いただけなのに不安に感じさせる警報音が、街中にこだまする。
【緊急速報! 緊急速報!
現在、アルブラ北部より多数の魔物が南下中。二時間以内にアルブラに到達する可能性が高いことから、混乱を避ける為、一時的に全ての門を閉ざします。
街外へ出たい方々は早急に。なお、街外へ出た場合ついてはアルブラでは責任を取りませんのでご注意ください】
「多数の魔物が南下中って……」
「今の放送はかなり控えめにしているわ」
「控えめ?」
「ええ、『魔物が多数』って言っていたけど、数は少なく見積っても千体以上、下手したら二~三千体レベルよ。しかも奴らは魔物暴走の状態って話」
マチュアさんはそう話しながら『困ったものよね』とため息をつく。
「……それ、場合によればアルブラが滅びませんか」
ダンジョンではなく、外で魔物暴走が起こるという話なんて聞いたことがないけど、こんなことで嘘をついたところでどうしようもない。
「私か聞いた限りでは魔物暴走で狂った魔物は規定の数倍近い能力に変化するって話でしたけど」
「そうね、私が以前にダンジョンで戦った際にも、ただのオークが魔物暴走で狂化してハイオーク……いや、あれはオークナイト級にまで強化していたかしら。
しかも戦うことしか頭になくって、腕一本が千切れても戦意が劣らず、死ぬまで戦ってきて大変だったわ」
「それって大変とかいうレベルじゃないですよね!?」
マチュアさん大変とかいうのって、どう考えても異常なことですよね!?
「幸いにも魔物暴走はアルブラに向かっているから、ここで奴らのタゲを全てこちらに向け、全滅させるわ」
「出来ますか?」
アルブラも巨大な湖に浮かぶ島を利用した水上都市と呼ばれるだけあり、地理の面では侵攻を防ぐのには適してはいる。
ただ、あくまでそれは対人でのことであり、魔物が相手となった場合に話は変わる。
「そうね、飛行する魔物がいるから城壁とか関係なくなるし、正気を失った魔物がお行儀よく湖にかかる橋から来るとは限らないわね。
……でも、やるしかないの。
敢えて道沿いに来てくれている以上、ここで魔物の侵攻を受けないと魔物暴走で狂った魔物達が周りの村々に広がっていくかもしれないわ。
そうなれば一瞬で村は壊滅、住民も全滅するでしょうね」
そう話すマチュアさんの表情からは、強い覚悟を決めた思いを感じるのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回は10/5(月)の予定でしたがリアルの繁忙から難しそうなので、一週間ずらして10/12(月)にさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
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