251話 王者達の協奏曲 36
※ 20/9/21 すみません、最後が抜けていたので追記しました。
「すみません、お言葉に甘えさせていただきます」
他の選択肢も無いわけではないけど、ここは一先ず向こうの意向に沿ったほうが無難と考える。
『……わたしがトリガーとなって何か問題が起こることだってあるかもしれないし』
【あら、少しは“常識破りの女”と呼ばれる自覚が出来てきたのね】
『あ、あれはイレギュラーだし!』
っていうか、なんで“もう一人のわたし”が現実世界で呼ばれている名称を知っているのよ!?
「とりあえずリアも色々とお疲れみたいだし、今日の所はもう遅いからこの場は解散としようか。リシュはリアに部屋を案内してやってくれないか」
「わかった。リアの部屋は二階の角部屋で?」
「……そうだな、あそこは来客用として使っていたけど、当面の間は使うこともなさそうだし、それで良いと思う。
リアも自分の部屋だと思って休んでくれれば良いよ」
「はい、ありがとうございます」
わたしは部屋の中に残る三人に改めてお礼を言うと、リシュさんの案内に従って部屋に移動する。
「じゃあ、何かあればベッドの横にあるベルを押せば私かキールの部屋に繋がるから。ここでしてもらう仕事については、明日来る通いの使用人に聞くと良い」
「はい、ありがとうございます」
これだけ大きく、そして独立都市の元首として他国と渡り合わなければならない人が住むのに、住み込みで働く人がいない?
「逆よ、国というレベルに満たない都市に安定して住もうとする人なんていないの。このビ・ディンの根幹にあった公国も滅亡した以上、この都市が次に狙われると思う人の方が多い。
いま、この都市に残っているのは一攫千金を狙う冒険者と商人、そしてそれらの人々の生活を回して儲ける人達ぐらい」
「なるほど」
……っていうか、まーた心の声が読まれてますよね!?
『うーん、考えると頭が痛くなりそうだからやめとこ』
【そうね】
『じゃあ、悪いけどわたしがログイン出来るまでお願いね』
【ま、やれる範囲のことしか出来ないから】
そんな他愛もない会話を少ししてから、わたしは現実世界に戻るのだった。
・
・
・
「色々と危ない弾を懐に入れるなんて、堅実主義なお前らしくねぇじゃねぇか」
相変わらず煙管を加えたままのリスドが呆れた表情で俺を見ながらボヤく。
「そうか? リアが外に出れない以上、ウチに囲うのが一番妥当だしリスクを抑えられるさ。
それこそ俺達の目が届かない場所で賞金稼ぎを生業にするような奴らに見つかってみろ。下手をすれば大規模な『異邦人狩り』が起こりかねんよ。
俺としてはそっちの方が面倒だし、もっと言えば敵に付け入る隙を与えるようなものだろ」
「まぁ、確かにそれはあるだろうな。
端的に言えば、あの嬢ちゃんがココいるという話がアレの耳に入ろうものなら、いよいよもって面倒なこと……いや、都市の存在を賭けたクソみたいなことになるか」
リスドはただただ『面倒クセェな』とい言いながらダルそうに煙を吐く。
「いっそ処した方が早くねーか? それこそオレ達以外に嬢ちゃんを見たものはいないし、嬢ちゃんの話が本当で二度と生き返られないっていうのであればよ」
「ジジイ、アホなこと言ってるとその間抜けなド頭砕くぞ?」
今まで黙っていたキールがワンドを右手に本気で構える。リスドはリスドでそれを見て『面倒クセェな』と言うが早いか、瞬時に幾つものバフを自分に重ね掛けする。
「二人ともいい加減にしておけ。
リスドの言うこともわからなくは無いが、特殊な状態になった異邦人に手を出したら、色々と厄介事になりかねない。それにキールもリスドが本気でそんなことを言わないことをわかっていて挑発するな。
リスドとキール、そしてリシュの三人が俺の元にいるからこそ、出来ることがあるということを忘れないで欲しい」
「すまんな」
「はーい」
本気だったかどうかはわからないが、二人の間に高まっていた気が収まっていく。
「正直、厄介事に代わりがないのは正しい。だからこそ、リアがビ・ディンから出られない原因を早急に突き止め、ビ・ディンから出られるようにして欲しい。
……色々と調べる必要があるから面倒ごとが嫌いなリスドには申し訳ないが」
リスドの性分として、あまりこういうのは好きでは無いだろうが……
「構わんよ。実際、嬢ちゃんのことは面倒だが、ああなった原因に対し探究心を刺激されているのは間違いないからな。ま、嬢ちゃんの本体が戻ってくるまでは資料庫にでも籠もるとしよう。
あと、キールは神殿から神に関する資料を借りとけ。あー、キールが調べられるならそれでも構わんが」
「……しょうがないね、借りておいてあげるよ」
素直にやりとりが出来ないものかな。
「とりあえずリアが次に来るまでに何も起きないことを祈るか」
一応、リア自身は存在しているものの、あくまでそれは自動生活のリアだから大したことは聞けないだろうし、何かしらアクションを起こすことも無いはず。
『妙な話も聞こえ始めている……次の動きも考えておかなければな』
公国が滅び、父をはじめとした一族の大半も既にこの世にはいない。
「限られた手駒、そして大きくも脆い戦力か」
相手は帝国だけでなく、祖国を滅ぼした臨時国家も虎視眈々とビ・ディンを落としに来るはず。
『なるべく早めに次策を打つか……』
誰もいなくなった部屋でただ一人、様々な情報が書き込まれた地図を見て、俺はボヤくだけだった。
―――◇―――◇―――
【朽ちた神殿跡】
「何か見つけた? それとも」
「それらしいものがあれば連絡をしている。とりあえず、この荒れ果てた森から何か見つけられなければ一旦戻るべきだろう」
自分の調査範囲を調べ終えたサクラが俺の前に現れる。
アルブラに向かって魔物暴走を向かわせる事に成功した俺とサクラは、もう一つの目的を完遂するべく、彼女を見つけることに。
だが、話を聞いたポイントから進んだ先に彼女はおらず、代わりにあったのは押し倒された木々と、派手に破壊された旧時代の遺跡の残骸。
「遺跡って言っても蔦が絡んで折れた柱とか、土に埋もれた石畳ぐらいじゃん。お宝の一つでもあれば評価変えるけど?」
「あくまで過去の歴史、その残滓だからな。金目のモノなどあったとしても、既に荒らしつくされているものだ」
『過去に何があったかなど、誰にも興味などないさ』
そこに何か重要な情報でもあれば別だが……
「こっちは更に酷いな」
少し開けた場所になったかと思えば、そこにはかなり威力のある魔法かなにかで抉られた地面と炭化した大木、そして……
「これは」
「あら、隠しダンジョン? ……って訳でも無さそうね」
「既に入口が開いているからな、誰かが入ったあとだろうが……」
割れた石畳。そこに一箇所だけ人が一人入れそうな隙間があり、そこから下に行けそうな空洞が続いている。ただ、割れた石畳がずらされ、瓦礫が移動されている様を見る限り、既に誰かが入ったとみて間違いはない。
「とりあえず入ってみるか」
「そうね、もしかしたらここに隠れているかもしれないし。
ま、いなかったら一度戻りましょ。こちらが想定していないルートでアルブラに戻っている可能性もあるから、アルブラに行くのとシリュウへ報告と二手に別れて動けば良いわ」
「それが無難だろうな」
そんなやり取りをしてから数分後。
「……どうやらここに居たみたいだな」
俺は手にしたランタンで照らされた部屋を見て確信する。正確には、部屋に残っていたアレを見つけてだが。
「あら、何かあった?」
「ああ、そこの壁に付けられたランタンを見つけてな」
「ランタン? なるほど、あなたが持っているものと一緒ね」
「このランタンは特注品でね、ウチの人間しか持っていない。そして刻まれた番号から誰が用意したものまでな」
故にわかる。
「これは我が主が渡したものだろう」
アルブラから出発する際に用意した用具に入っていたものだろう。
「ふーん。で、それを持っていた本人はどこへ?」
「さぁ、そこまではわからないさ。ただ、ここに来てあのランタンをそのままにして居なくなっているということは、何かここであったのだろうな」
彼女が借りたものをそのままにして去るというのは考えにくい。
「とりあえずこれ以上探すのは無理だろう。さっき話した通り、一旦報告すべきだろう」
「オッケー、じゃあ二人とも行くで良いのね」
「そうしよう、まずはビ・ディンに向かい、そこで報告と次の指示を仰ぐとしよう」
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回は9/28(月)アップ目指して頑張りますが、草稿状態なので厳しいかもしれません。
なんとか間に合わせられるようにしますので、よろしくお願いいたします。
また、ちょっと面白いと思っていただけたら、ページ下部の☆マークをクリックして、ポイントをいただけたら幸いですm(_ _)m




