249話 王者達の協奏曲 34
【面倒なことになったわね】
『面倒なことというか、訳がわからないのだけど……』
こちらに向かってくるシュルツさん達を前にわたしは頭を抱えるしかなかった。
「いや〜おもろかったわ〜」
「……全然面白くないのですが」
あれから色々試してみたけど、結局わたしは城外へ出ることは出来なかった。
「そんなムス〜っとした顔してても何も無いで? ここは前向きに考えておかんと。
せやなぁ……『私を連れて外へ出れたら一万ゴールド』とかやったら儲かるんちゃうかな? 一回百ゴールドぐらいの手数料取ったら間違いなく儲かるで!」
「儲かるって……出れないことが前提になってますよ? というか、一万ゴールドなんて持ってませんよ!」
「じゃあ、『外に出れたらおっぱい揉み放題』でも集まると思うで。元手がかからない分、こっちの方が儲かりそうやな」
「……そういう問題じゃありませんから」
どこから取り出したのか、キールさんはわたしの横でソロバンをパチパチと弾いて何かを計算している。
そもそも、そんなことしたら運営ならアカウントが凍結されますから。
……されますよね? 自分の今の状態があやふや過ぎて、色々なことに判断できなかっ
たり。
「まぁ、でもウチのシュルツがリアちゃんの問題解決に積極的になるとはね~」
「意外ですか?」
「うーん、意外っちゅーか、あんま外のモンに積極性を出さないもんやったからな。珍しいというか、どういう風の吹き回しかって思ったのは事実やな」
「……そうなんですね。で、キールさんの考えとしては」
「わからん」
ズコッ
「えぇ!?」
「しゃーないやん、シュルツの近くにいて三十年近くになるけど、あんな風に動くのは殆ど見たことが無いっちゅーか……初めてちゃうか? ま、おもろいリアがいたからとは思うけどなぁ」
「お、おもしろいって……」
聞いたわたしとしても、どう応えたら良いのか困るじゃないですか。
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少し前。
「とりあえず色々試してみようか」
混乱状態で立ち尽くしているわたしに近付いてきたシュルツさんに話しかけられ、なんとか落ち着くと、三人と話しながら門の外へ出ようといくつか試してみたものの、やはり城外へ出ることは出来なかった。
「わかったことは、リアと一緒にいるということがキーになり、城外へ出ることが出来ないってことだな。
パーティーは元より、手を繋いだりしてもダメだったし、とにかくリアという存在と同じと認識されたらダメだということか……」
「せやな〜判断基準はリアちゃんだとして、何がそれを判断してるんやろな?」
「確かにそうですよね、ビ・ディンに来たことも無いわたしの何がキーになり、何を持って判断されて出れなくなっているのか……」
もしかしたら手持ちのアイテムが何かキーになっているかもしれないということで、装備を全て外し、作業着だけを着た手ぶらの状態でも試してみたけど、結果としては変わらず。
「となると、わたし自身に何か問題が? 例えば呪いとか……」
「いや、ウチかて神官やからリアちゃんに呪いとかかかってたら直ぐに分かるで?」
「そうですよね」
うーん……
カシャ
「リシュさん!?」
首を捻って考えていると、少し離れていたリシュさんがおもむろに剣を抜き、その剣先をわたしに向ける。
「一度死んでみたら変わるかも。
リアは異邦人だから、死んでも直ぐに生き返られる。大丈夫、痛みを感じる前に一振りでラクにするから」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「こ、こら! ウチを盾にしたらあかん!」
ゆらりとした歩みから構えたリシュさんに対し、キールさんの後ろに隠れようとするも、キールさんは神官と思えない身のこなしで、わたしから距離をとって遠くへ逃げる。
『ヤ、ヤバっ!?』
確かに普通の異邦人なら死に戻り出来るけど、今のわたしにその能力は無い。
「目を瞑って三秒数えたら」
「本当にダメなんですって! 死んだら本当に死んじゃうんです!」
自分でもよくわからない説明をしているとは思うけど、きちんと説明する時間をくれるかどうかもわからず、とにかく必死でリシュさんに留まってもらうようにアピールし続け、なんとかリシュさんの剣を収めるのに成功する。
「そこまで言うからには説明を?」
「あ、はい、わかりました。ただ、ここだとちょっと……」
説明をすること自体は大丈夫というか、ある程度割り切っている。とはいえ、門の近くであるこの場所だと、知らない誰かに聞かれてしまう可能性がなくもない。それはちょっと避けたいかな。
「オッケー、じゃあ俺の部屋で話そうか。あそこなら室外に話が漏れることはないしな」
「すみません、色々と気を使ってもらって」
「なに、構わんよ。それにリアは面白そうな話をいくつか持っているみたいだから、それらも聞かせて貰えれば部屋代をチャラにしよう」
「えぇぇ……」
聞いて面白いと思うような話なんてあんまり無いけどなぁ。ま、しょうがないか。
「わかりました。シュルツさんがわたしの話を聞いてどう感じるかはわかりませんが?」
「リアの話は自分が思っているより価値があると思うぞ。魔物暴走にしても、まだ話の続きがあるようだからな」
「まぁ、確かに色々とありましたが……とりあえずそれらについても話しますので、よろしくお願いします」
情報が漏れない、安全な場所で話したいとわたしが思う以上、向こうの希望することにはある程度応えないとねぇ……あんまり話したくはないけど。
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【そして今に至るわけで】
『結果として、こうなる訳なのね』
いま、わたし達はシュルツさんの私室にいます。私室とはいえ、この部屋で重要な話などをすることもあるらしく、特殊な魔法陣を床や壁の内側に刻むことで、盗聴や覗き見を完全に塞いでいるとのこと。
『パッと見だと魔法陣があるなんてわからないものね』
ちょっとした教室よりも大きな部屋なのに、一切情報が漏れないよう色々と仕掛けがしてあるなんて全く見えないけど、やっぱり偉い人が使う場所なら当たり前なんだろうなぁ……
「悪いね、客人にお茶を淹れさせてしまって」
「あ、いえ。こんな大きな部屋にいると、何かしていないと落ち着かないので」
シュルツさんの部屋は想像以上に広く、何もせずにいるには居心地が悪いというか、落ち着かないというのが正解だったり。
ちなみに服装は戦闘服から貰ったメイド服に変わっています。
『なるべくこの部屋には近づかないようにしてもらっているが、どうにも戦闘服や作業服では目立つというか、変に思われる可能性があるから』
『えーっと、アレに着替えれば良いのですね』
メイド服を着ることに抵抗がないと言えば嘘になるけど、わざわざこうやってシュルツさんの部屋まで招いてもらっている以上、部屋主の言うことには従わざろう得ないというか……ねえ?
『でも、さすがに高級な素材を使ったっていうだけあって、着心地も良いし、何より色々と捗るのよね』
【そりゃそうでしょ、服にあしらわれた刺繍や装飾品に様々なバフがかけられているもの。しかもバフの力が互いに阻害しないよう、適切な位置で仕込んであって……正直、これだけ手が込んだモノを作ることが出来る技術者なんてそうそういないわよ。
ま、モノ的には随分と昔のものだから作った人は既に他界しているだろうけど】
メイド服自体の価格だけでなく、技術者というか製作者が有名どころとか、どう考えてもわたしのような一般人が着ていて良いようなモノじゃないと思うのですが……はぁ。
『とりあえず、それよりも今は』
この部屋にまで来た理由を、目の前にいる三人にしっかりと話す必要がある。
「わたしのことなんですけど、実は……」
信じてもらえるかどうかはわからないけど、わたしが何を望みどういう存在になっているかを三人に説明をした。
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「アホかな?」
「バカですね」
「うぐっ……」
キールさんとリシュさんからは、開口一番で呆れというか、ダメ出しを頂きました。ただ、シュルツさんだけは
「それはまた厳しい選択をしたな」と言うと、わたしの頭をポンポンとしてくれた。というか、
「三人とも信じてくれるんですね」
会ってからまだ半日も経っていないわたしのことを信じてもらえたのが素直に嬉しかったり。
いつも読んでいただきありがとうございます。
9月です! 台風とかで大変ですが、なんとか間に合いました。
次回は9/14(月)アップ目指して頑張ります。
なんとか間に合わせられるようにしますので、よろしくお願いいたします。
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よろしくお願いしますm(_ _)m




