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246話 王者達の協奏曲 31


「ようこそ、迷宮(ダンジョン)都市ビ・ディンへ。

 そう言えば自己紹介がまだだったね。僕はこの迷宮(ダンジョン)都市を形式的にとはいえ預かっている、シュルトス・ランド・ラクルーレだ。気軽にシュルツとでも呼んでくれれば良いよ、落下姫(お嬢さん)


「……はぃ!?」

 さすがにこの紹介というか、言葉には驚くばかりだった。ただ、それよりもこの後に起こった事の方がさらに驚くというか、言葉を無くしたというか。


 ・

 ・

 ・


「で、着替えを貸していただいたのは大変うれしいのですが」

 とりあえず『濡れたままではよろしく無いね』という話になり、わたし達は近くの更衣室へ移動した。



『更衣室!?』

『そう、更衣室。

 ……って、もしかして更衣室が何かわからない? それとも風呂に更衣室が無いとか!?』

『大丈夫です、異邦人(プレイヤー)の世界でも同じ意味で通じますし、ありますから!』


 “更衣室”というワードに対し、『なぜここに更衣室が?』という疑問から思考停止していたのを『更衣室が何かわからない?』という誤った解釈をされかけてかなり焦ったというか……

 とにかく、いきなり出てきたワードに驚いたのと、落ちた場所を聞いて二度驚いた。



『というか、あの遺跡から飛ばされた先が旧公国の都市、公国が滅亡した後も独立都市として残っていたビ・ディンであり、しかもその中にある露天風呂とか……正直、訳がわからないわ』

【ビ・ディンにある遺跡に露天風呂があるなんてね、なかなかユニークな話じゃないの。それとも露天風呂は好きじゃなかった?】

『いや、まぁ、露天風呂というかお風呂は好きよ? ただ、目まぐるしく変わったこの状況に思考が追いついていないってこと』


 ま、落ちたのがお湯が張られた場所にだったから、怪我をしなかったという意味ではラッキーな話だと思う。思うけど……


 そんなことを考えながら濡れた服を脱ぎ、リシュさんが予備で持っていた服に着替えていた。ただ、この服って……



「いやぁ、リシュに買った服が入って良かったよ。というか、天然ダークエルフの抜群なプロポーションに合わせた服を、着崩すことなくピッタリ着ることが出来る人間がいるとはねぇ……異邦人(プレイヤー)とはいえ、素直に賞賛するよ」

「褒められているとは思いますが、発言には注意した方がよろしいかと……リシュさんが今にでもシュルツさんを斬りつけそうですが」


「あはは、そんなことは……ってリシュ、マジで剣を抜くのを止めないか!?」

 シュルツさんがわたしに説明をしながら、リシュさんが繰り出す斬撃を紙一重で躱す。


「どうしてリシュさんにメイド服を?」

「似合いそうだたったからぁぁぁ!」

 シュルツさんはリシュさんの素早い斬撃を見事に避けながら答えてくれた。

 ……リシュさんの攻撃、本気レベルな気がしますが。



『リシュさんの攻撃、かなり本気に見えるけど』

【私も同感よ。ただ、攻撃している方も凄いけど、それを避ける彼もかなりのレベルね。

 余分な動きもなく、最低限の動きだけでキッチリと避けきっている……あの動きなら、あなたの師匠と同レベルと見て良いでしょうね】


『マチュアさんと同じことレベルって……』

 わたしが知っている中で最も強いと見ているマチュアさん(ひと)と同じというのは、驚きと……ほんの少しだけ妬ましいと思ってしまう。


「いや、でも本当に似合って、るって、リシュ、それ以上加速されるとヤバいから!」

「一度斬られて痛い思いをするべき」

「斬撃を飛ばすのは禁止だぁぁぁ!」


 うーん、大変そうではあるけど、二人のやりとりがちょっと楽しそうに見えたり。



「楽しそうやなぁ」

「そ、そうですね」

 いつの間に!? っていうか、


「……止めなくて良いのですか?」

「あんな夫婦漫才みたいなもん、ほっときゃええねん」

 目の前で繰り広げられる二人の攻防を見入っていたわたしの横には、いつの間にかキールさんが立っていた。


「で、気配とか全くしなかったんですが」

「神官職とはいえ、生粋の草原人(グラスランナー)やからな」

草原人(グラスランナー)?」

「ま、エルフやドワーフに比べればネームバリューは負けるが、それでも人間に比べれば長寿やし、いろいろと負けない能力を持っていたりするわけよ」

「なるほど」


 実際のところ草原人(グラスランナー)がどういった種族で、どんな特徴があるかはわからないけど、気配を一切させずにわたしの真横に来ていたのも特徴の一つなんだとは思う。


【本来は森や草原に住む種族よ。優れた器用さや俊敏性を持つ反面、魔法とかを使うのは得意じゃなかったはずなんだけど】

『使ってたわよね、戦神落鎚(トールハンマー)っていう魔法。あと自分のことを“神官職”だってさっき言ってたわ』


 戦神落鎚(トールハンマー)と呼ばれた光の束を、対象に振り下ろす魔法。てっきりその派手さや威力から魔法使いが習得する魔法だと思っていたけど、神官職って言っていたから……


【あれは信仰する主神から習得を許可された者だけが使える魔法ね。

 戦神落鎚(トールハンマー)を習得できる神となると、“戦神フレリア”か“風神カシオス”、あとは“魔神マルガレオス”になるけど、“魔神マルガレオス”を信仰するってことは人側ではあり得ないから、“戦神フレリア”か“風神カシオス”を信仰する神官だと思うわ。

 でも、ビ・ディンに“戦神フレリア”や“風神カシオス”を祀った神殿は無かったはずだけど】

 “もう一人のわたし”はそう言って小首を傾げる。


草原人(グラスランナー)の神官職っていうのに興味津々みたいやけど、確かにウチが知る限りは他に同じように神官職についているのはおらんなぁ。ま、変わっているというのは、その分レアな存在ってことやからな」

「確かにレアな感じですが、それって目立ちません?」

 わたしとしては常日頃から『それほど目立ちたくないな~』と思っているので、キールさんの思いに対し、共感するのがなかなか難しい。


「人生なんて目立ってナンボや!

 他人と同じに甘んじて、しみったれた思考に凝り固まったら人生なんて楽しくない訳やで」

「は、はぁ……」

 力説しているキールさんからすごい圧を……



「しかしまぁ、ホンマにメイド服(それ)似合ってるなぁ。リシュが着てもスタイル的には同じやろけど、キミが着ると艶っぽさちゅーか、思わず脱がしたくなる気がわいてくるわ」

「え、えぇぇぇ……」

「あはは、そんなに引かんでも」


 いや、さすがにその発言は同性でも引きますよ。というか、そこまで言われると早くさっきまで着ていた服に戻りたい……


『まぁ、服が乾くまでだし』

 乾燥機なんてないので、濡れた服は暖炉の近くにかけて乾かしてある。あと一時間もすれば着れるぐらいまで乾くとは思う。


【そうね、どちらかと言えば“作業服(ツナギ)”とか汚れても良い安価な服ばかりなあなただって、偶には高い服を着るのも悪くないでしょうね】

『高い服?』

 わたしの目には普通のメイド服にしか見えないけど。裾が長いから、確か“クラシックタイプ”のメイド服って言うんだっけ?


【素材も良いし、所々にある刺繍も丁寧なつくりだから……少なく見ても数千ゴールドはすると思うわよ】

『数千ゴールド……』



 ジジーッ……



「おぉ! なんや、いきなり脱ぎだして。脱いでもお小遣いあげれへんよ?」

「リアさん、どうしたのですか? 急にファスナーを下ろして」

 隣にいたキールさんだけでなく、シュルツさんを追い回していたリシュさんまで不審そうな目でこちらを見る。


「すみません、数千ゴールドの服を着る自信がありません。っていうか、この服を汚したり何かしてしまった際に代金をお支払い出来ないので」

 わたしの手持ちは百ゴールドぐらいしかありませんから!


「ああ、気にしないで。それは私がそこのバカ領主から貰ったもので、着る気も無い以上、ただのゴミと大差ないから。

 それにその服は私がリアさんに差し上げたもの。所有権もリアさんだから、何か気にする必要も無いわ」




「……会ったばかりの人に数千ゴールド相当の服を貰うというのはさすがに」

 まぁ、知り合いから『数千ゴールドの服をあげるから』と言われたとしても貰わないかな……後が怖いしね。




いつも読んでいただきありがとうございます。

毎日暑いです! 今回は本当にギリギリでした……あぶない。


次回は8/17(月)アップ目指して……頑張ります。

次回もけっこう厳しい状態ですが、なんとか頑張ります。



あと、ちょっと面白いと思っていただけたら、ページ下部の☆マークをクリックして、ポイントをいただけたら幸いですm(_ _)m


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