242話 王者達の協奏曲 28 vs幻影愚者人形 2
【ダメよ!】
その瞬間、“もう一人のわたし”がわたしに向かって叫ぶ。
バンッ!
「う、そ……」
わたしの蹴りは幻影愚者人形に届かなかった。いや、正確には届く前に幻影愚者人形が下段からアッパー気味に放った打撃技……【通天崩モドキ】によって迎撃されていた。
……ううん、モドキなんかじゃない。それは紛れもない【通天崩】であり、マチュアさん以外の相手に、しかも魔物である幻影愚者人形に出された衝撃に思考が止まっている。
グンッ
『マズい!』
【通天崩】をカウンターで喰らったわたしは、場に発生した力の奔流に流されて数メートルほど弾き飛ばされる。
本来【通天崩】はカウンターで当てれば相手の武器を弾き飛ばす強制武器解除の効果が得られる闘技。ただ、わたしは武器を持っていないから……
「くっ……」
少し前、武器を持たないヘルベアに当てた際に発生させた“あの硬直”がわたしに発生している。
しかも空中で受けたこともあり、態勢も完全に崩れた状態になって……
『なんとか、なんとかしないと』
間違いなく、幻影愚者人形から見た今のわたしはノーガードに近く、どんな攻撃でも当て放題な状態に見えるはず。
勿論、幻影愚者人形もそんな隙だらけなわたしを見逃す訳もなく、間合いを詰めずに右腕に矢を浮かび上がらせると、躊躇う間もなく放とうとしていた。
『とにかく矢を躱さないと』
幻影愚者人形が放つ、あの強力な矢に体を貫かれたら死に至る可能性はかなり高く、よしんば射られた後に生きていたとしても、そこから逆転することはかなり厳しくなり、その後容易に追い打ちをされて死ぬ……そんな最悪な未来しか見えない。
『動け』
そんなことを考えても体の硬直は解けたりしない。でも、いまのわたしに出来ることは一秒でも早く体の自由を取り戻すことしかない。
チリッ
『動け!動け!動け!』
頭が割れるほどの強い思いを、手繰り寄せたい望みを言葉に変え、全身へと走らせる。
チリチリッ……
『動け動け動け動け動け動け動け動け動け!』
ただ『動け』という命令だけを、頭の中で何かが焼き切れそうになるほど何度も何度も浮かび上がらせ……
ピィン!
『あ……』
その思いが通じたのか、頭の中から耳を劈くような音が響くと全ての時が止まる。
そしてその音が鳴ったタイミングと同時に、前にも聞いたアノ声がわたしの中で静かに響いてくる。
『フタタビ、ノゾムノカ。タトエソレガ、キサマジシンヲケズルコトニナルトシテモ』
どこかで聞いたことがあるような無いような……それでいて懐かしくも冷たくも感じる不思議な声。
『……削る?』
何のことかはよくわからないけど、わたしが望むことで代償や痛みが必要だということ? だったら……
『望むわ!』
このまま幻影愚者人形の攻撃を受ければ間違いなく死ぬ。
『何もしなければ死んでしまうのなら、わたしの何が削れて無くなろうとも構わない!』
この状態を打破できるなら、どんな代償でもわたしは受け入れる!
『イイダロウ、キサマガモトメニコタエヨウ』
その声はまるで何かに満ち足りたような、それでいて何かに悲しむような複雑な声で……
《クロススキル:【独走する世界】が発動、タイプは【界II】です。また、【界II】の開放により【創】の使用も可能となりました。
なお【界II】開放の影響により、魄の濃度が五パーセント“開”へ傾きます。
【界II】発動時間は残り20秒、19、18……》
『んんん!?』
以前、シリュウと戦った際にも聞いたカウントダウン。ただ、その時よりも複雑というか色々と情報が多すぎて……
「あぁ、もぅ! 考えるのはあと!」
思うところはあるけど、今はそれよりもすべきことがある。
クンッ
「動けるし、見える!」
まるで、わたしの周りの時間だけがスローモーションのようになり、幻影愚者人形から放たれた矢がゆっくりとこちらに向かってくるのが見てとれる。
そして、少しづつだけど手足に力が入るのが確認できた。
『体が動くなら』
瞬時に次の行動に移る!
《羅刹の息吹》
このスローモーションで流れる空間において、わたしだけを超高速で無理やり動かせる為に、【修羅の息吹】を【羅刹の息吹】に切り替える。
「うっ……」
真っ赤に染まる視界。何度か使っているのにも拘わらず、体が焼ける感覚に慣れる気がしないし、効果というか空間の圧に息が詰まりかける。だけど……
『ここからが大事、なの。だから負けるわけにはいかない!』
ヒュン! ヒュン!
わたしの体を貫こうと向かってくる数本の矢をギリギリのところで躱す。しかし、
ビシュ!
「!!」
最後に向かって来た一本の矢を避けきることが出来ず、わたしの左腕に命中する。ただ、威力があり過ぎた矢は腕を容易く貫通し、そのまま背後へ抜けていく。
ザッ
「腕一本なら、まだ戦える!」
実際のところは痛くて痛くて泣けるほどだけど、歯を食いしばって痛みを我慢して体勢を整えた瞬間、
ドカン!
背後に抜けていった複数の矢が派手に爆発する。そして、その爆発で生じた爆風はわたしを取り込むと、無理矢理幻影愚者人形の方へと押し出そうとする。
『チャンスがあるとすれば、このタイミングだけ』
既にさっきまでのスローな時間は終了している。そしてあたり一面は矢の爆発した際に発生した煙に覆われ、薄暗い状態に。
視界が遮られるほどの煙じゃないとはいえ、若干といえど邪魔していることに変わりはない。
たぶん、それはわたしだけというわけでなく、幻影愚者人形にも同じ状態を与えているはず。
『……まぁ、向こうは目も鼻もなかったように見えたから、別の機能というか特別な能力でこちらを正確に把握している可能性があるとは思うけどね』
ただ、この状況が少しでもこちらにチャンスが見込める状態と考えるなら、とにかく出来ることをやってみるしかない!
「ここで……行く!」
【羅刹の息吹】で上がった超加速も使い、幻影愚者人形にダッシュする。
しかし、相手はこちらほどではないにしろ動くと、次にわたしが出す闘技を先読みした動きを見せる。
『こちらの動きなんて織り込み済みだろうけど、速度の面では比べ物にならないレベルで上がっている以上、そう簡単にはカウンターで【通天崩】を当てるのは難しい……はず!』
躊躇う暇なく、思い描く行動に移る。
ダダッ
わたしは次に出す闘技をギリギリ当てられる間合いまで一気に詰め寄ると、軸足に目一杯力を入れて踏み切る。
『きっちり見えてるわね』
やはり幻影愚者人形は、そんなわたしの動きを見透かしたように構えを弓士から戦士のそれへとチェンジしていくけど、わたしが出す闘技に変わりはない!
《飛燕脚》
幻影愚者人形をしっかりと視界に入れた状態で【飛燕脚】を出す。そして幻影愚者人形もまた、こちらの【飛燕脚】に対して迎撃の体勢へと変わると、
ガッ!
わたしの足が対象を穿つ音が鳴り響く!
「ヲ」
どこに口があるかはわからないけど、わたしの【飛燕脚】が命中したタイミングで幻影愚者人形から変な声が漏れる。
ただ、それは幻影愚者人形がダメージを受けた声ではない。たぶん、わたしがした予想外の行動に対し、単純に驚いた声だと思う。
「驚いてくれて……ありがとう!」
わたしが狙い、【飛燕脚】を当てたのは幻影愚者人形ではなく、幻影愚者人形の目の前に落ちていた“ただの小石”。
故にカウンターで【通天崩】を当てようとした幻影愚者人形は、その予定が崩れたのか若干動きがおかしくなる。
『とはいえ、ここからが問題なんだけどね』
ちなみに【飛燕脚】については単純に出しただけでなく、放った【飛燕脚】に対して『小石に当てるまで』の間に【闘技強制キャンセル】という、無茶苦茶な技も出している。
勿論、これは本来普通に使うべき技ではなく、どちらかというと緊急回避的な使用を目的としたもの。これにより技を出した後に発生するはずの硬直すらも、技をキャンセル化することで同時に発生しなくなっている。ただ……
『動けはする、けど』
ブチブチッ
『痛っ!』
技をキャンセルした反動、即ち本来動くべき力を無理矢理止めたことによって生まれた、行き場の無くなった力が高負荷体へと変貌し、凄まじい量のエネルギーとなって全身に伝播された。
勿論、そんなレベルのエネルギーが通れるような訓練なんてしていないから、負荷に慣れてない肉体は力を入れると耐えきれず破損していく。
ブチッ
「くぅぅ……」
何かをする度に、体内の至るところから破損する音が痛みとなって伝わってくる。
『が、我慢!』
今は痛みに引きずられる暇はない。次取るべき行動は
ブンッ
『これっ』
幻影愚者人形が出した【通天崩】はカウンターとして決まらなくても、目の前で止まった状態のわたしに叩き込むのは難しくない位置まで迫っている。
「一発勝負!」
体の中からイヤな音が聞こえてくるけど、完全無視の状態で体を無理やり動かし続け、両足に力をかけた!
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回も7/20(月)にアップ出来るように頑張りますので、よろしくお願いいたします。
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通常の勤務体制に戻ったので話を考える時間が戻ってきはずが消えました…… orz




