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240話 王者達の協奏曲 27 vsヘルベア 3


『えっ』

 ヘルベアの間合いに近づいた瞬間、イヤな感覚にがわたしを襲う。


「ガァァッ!」

「!」


 けたたましい吠え声と共に強烈な振り下ろしがわたしを狙う。



 チッ



『あっぶな!』

【本当にギリギリだったわね】


 間合いの外と思っていた位置にいたのにもかかわらず、ヘルベアの攻撃はわたしがいる場所まで届いていた。

 直前に動いたことで直撃はしなかったものの、装備している服の裾にダメージがはいったようで、若干とはいえ生地が裂けている。


『動けて良かったけど、今のは』

【身に纏った黒い鎧、あれがヘルベアの攻撃と連動した動きをしたみたいね】


 ヘルベアがツメでこちらを攻撃した際、黒い鎧の一部が、ヘルベアの腕からわたしに向かって伸びてきた。



「鎧がヘルベアの間合いより遠くまで伸びるとかって、どう考えても反則でしょ!」


 不意に襲ったイヤな感覚により『とにかく動かなければ』と数歩下がったことにより、ヘルベアの攻撃 (正確には黒い鎧が伸びた部分)が当たらずに済んだ。

 

『鎧が勝手に伸びるとか……ふざけたオプションじゃないの。って、黒い(オーラ)の方がメインでヘルベアの方がオプションなんだっけ?』

 どっちにしろ、二対一に近い戦い方を考えないと。



 ブンッ! ブンッ! ガッ!



「……って、息つく暇を与えない連撃って!」

 ヘルベア自身が黒い(オーラ)のことを認識しているのかどうかはわからないけど、こちらが不利な状態になっている事については察知しているようで、出会った時よりも更に荒くて執拗な攻撃で攻めてくる。


 勿論、荒い分だけヘルベアの隙も多くなっているものの、その隙を黒い鎧が埋めるように補佐しており、迂闊に反撃する事が出来ない。

 ただ、


『攻撃が荒い分だけ動きが読めやすい。だから……』



 ヒュ……



「見えた!」

 今の状態で出来うる限りの速さでヘルベアとの間合いを詰める!


「グオォ!」

「愚カナ!」


 ヘルベアから聞こえる二つの声。

 ただ、そのどちらの声から感じたものは、己の強さに勝ちを確信している、余裕と見下し。そして鎧を纏ったことによる、防御無視にしか見えない荒くて強引な攻撃。


『それはおごりって言うのよ!』



 シャッ!



 ヘルベアから繰り出される、左右両腕を高位置から連続して振り下ろす攻撃。

 自由に伸びてくる黒い鎧の分だけ相手の攻撃判定が広くなっているものの、ヘルベアが連撃で攻撃することにより、ヘルベアの攻撃と鎧の追撃が間合いとして被るようで、その特性を十分に生かせなくなっていた。


「右、左、右……そこ!」

 決めるならここしかない!



 《通天崩つうてんほう



 バンッ!



 ヘルベアの振り下ろされた左手と、アッパー気味に繰り出したわたしの右拳がぶつかると、生じたエネルギーが互いを揺さぶる。

 ただ、威力に押されて態勢が崩れたヘルベアに対し、わたしは体に受けたエネルギーを体内に流して変換。これを両足に流して活用することで、しっかりとその場に踏み止まる。

 そして、残ったエネルギーを化勁として膂力に送ると、



 《裡門頂肘りもんちょうちゅう



 ヘルベアの脇腹に勁のこもった攻撃を叩き込む!



 ドゴッ



「ゴホッ……」

 脇腹に深く刺さった肘はヘルベアに苦悶の表情を与え、体をくの字に曲げさせる!


『鎧の上からでも効くでしょ』

 単純な打撃技と違い、勁が入った攻撃ならば高い防御力を持っていても“通す”ことが出来る。

 しかも、わたしが放った勁が体内で暴れることで、数秒レベルとはいえ硬直が発生し、体が動かなくなっているはず。



「これで、ラスト!」

 ヘルベアの脇腹に深く突き刺さった右肘を素早く引き抜き、滑るように体を動かすと、硬直が解けないヘルベアに向かって、



 《緋蒼流 貼山靠てんざんこう



 自分の背面部をヘルベアにぶつける際に、体内に溜めていた力を全て開放。勁となって発せられた力は絶大であり、ヘルベアの巨体を後方へ吹き飛ばし、



 ドガッ! ガッガッガッ!



 いくつかあった石柱を破壊しながら、茂みの奥まで吹き飛んでいった。



「はぁ……はぁ……

 なんとか上手くいった、で良いわよね」

 茂みの奥で動かなくなったヘルベアの様子を確認しながら、わたしもまたその場にしゃがみこむ。


【作戦通り?】

『一応、ね』


 【通天崩】をヘルベアの左手に合わせることで強制武器解除(モーションブレイク)を発動。勿論、合わせたのはヘルベアの左手というか爪だから、武器を解除させるという効果は得られない。


『それでも、こちらの攻撃を通す為の門は開いた』

 そこからヘルベアに対して勁を用いた裡門頂肘(肘打ち)で追撃。態勢が崩れ、ノーガード状態となっていたことで、放った勁は脇腹からヘルベアの全身へ伝わって行った。



「あとは溜まった被ダメと勁の効果によって動けないヘルベアへ、大技である【貼山靠】を当てるだけ……」

 貼山靠も“緋蒼流”ということで特殊な仕様になっており、相手に当てる瞬間に自分へかけていたバフである【闘衣】を強制解除してエネルギーに転換し、貼山靠のダメージに上乗せするという、まかり間違えれば与ダメ以上に被ダメを上げてしまう可能性のある高リスクな技。


【今みたいな技が出来るなら最初から出せば良いのに】

『バフを強制的に切るようなハイリスキーな技なんてイキナリ出せないわよ』


 カウンター気味に技が入ったことにより、あのヘルベアの巨体も吹き飛ばすことが出来た。

 もし、こちらが連続して出した技に相手が耐えきってしまった場合、わたしは自分が攻撃を出した直後の硬直と、【闘衣】が無くなっていることによる被ダメの増大により、カウンターを含め大ダメージを受けていた可能性が高い。

 それこそ、受ければ即死レベルだったとしてもおかしくはない。



【確かに、攻撃を直接受けていない割にはHPがかなり減っているし、MPにしてもバフとさっきの連続技によって激減しているわね】

『MPについては想定内だけど、確かにHPは減りすぎかも』

 そう言いながら用意してあった回復用の赤・青両ポーションを取り出すと、数本を一気に飲み込む。


「予備のポーションがあるとはいえ、ここでこんなに使うことになるとは思わなかったわ」

 この先まだ数日は走りことになるわけだから、万が一を考えると、いま手元にある分だけだとギリギリかな……



「さ、したくない道草で時間を取られちゃったから、急いで移動を再開しないと」

 今日のうちに移動しておきたいポイントまではまだまだ距離がある。


【移動は良いけど、ヘルベアにトドメを刺さなくて良いの?】

『刺しておきたいのは山々だけど、死んだふりとかしていたら厄介だし、あれだけ大ダメージを与えたら、接敵する前のような高速の移動も出来ないで』



 ザワッ



「ひっ!?」

 心臓を掴まれる、そう思えてしまえるほど強烈な何かがわたしを襲う。


『なに、今の!?』

【ヘルベアがいるはずの場所から来ているけど、これは】

『この感じ、ヘルベアとは違うし、アイツよりも強烈じゃないの!』


 ついさっきまで戦っていたヘルベアよりも強烈な感覚というか、強烈すぎて吐き気すらしそうになるほどの……これはプレッシャー



 ズッ……ズッ……



「!?」

 戸惑うわたしの思いなど関係ないと言わんばかりに茂みから何かが現れる。


「は、はは……」

 茂みより現れたのは黒い鎧を纏ったヘルベアに間違いはない。ただ、


「……嘘でしょ」

 さっきまで戦っていたヘルベアに間違いはないけど、明らかに違う箇所がいくつかあった。



 ボタッ……



 一つ目はヘルベアの足が地面から離れていること。ヘルベアが浮遊して移動するなんて、どう考えてもあるはずが無い。



 ボタッ……ボタッ……



 もう一つは、ヘルベアの胸元から伸びている、いや、貫いている“さっきまでは無かったオレンジ色”の物体。


『腕よね、あれ……』

 その物体は半透明な腕であり、薄っすらと発光しているようにも見える。



『……冗談よね、もしくは、錯覚か』

【腹を括りなさい、アレはマズすぎるわ!】



 ズドン



 手足がダラッとしたヘルベアに興味が無くなったのか、オレンジ色の腕がヘルベアを遠くへと放り投げる。




『ハッ、奴に会うのは幸運では済まされないだろうよ。取り巻きを千体倒してもいないのがザラだって話だ』




 数日前、トム店長から聞かされた話が頭の中で何でも流れる。


「運が良い? まさか、最悪じゃないの!?」

 ヘルベアの巨体が無くなったことで遮るものが消え、オレンジ色に淡く光る半透明な物体が現れる。




幻影愚者人形イリュージョンマリオネット……」


 愚者人形(トゥルーマリオネット)の群れにごく稀にいると聞かされた魔物が、今わたしの目の前に立っていた。



いつも読んでいただきありがとうございます。

次回も7/6(月)にアップ出来るように頑張りますので、よろしくお願いいたします。


また、ちょっと面白いと思っていただけたら、ページ下部の☆マークをクリックして、ポイントをいただけたら幸いですm(_ _)m


上手く書き貯れば、デイリーアップ目指したいなぁ……

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