239話 王者達の協奏曲 27 vsヘルベア 2
「煩イ虫ゴトキガ、我ヲ倒セルト思ウトハ浅ハカナ」
「……喋った!?」
さすがにこれは想定外。
【今のはヘルベアじゃなく、纏っていた黒いオーラの……正確にはヘルベアに喰われた者達の怨念、その集合体の意志であり、言葉よ】
はい? えーっと……
『ごめん、正直良くはわからないけど……とにかくヘルベアを倒せば良いってことに変わりはないわよね?』
【そうね、たしかに変わりはないけど】
ズ、ズズッ……ガシャン!
『……アレは? 』
【第二形態ってとこね】
『ちょっと、あの状態ってアリなの?』
再び黒いオーラが吹き出ると、ヘルベアの全身に纏わりついたあと、まるで鎧のようにヘルベアを覆っていく。
しかも、ついさっき攻撃を叩き込んだ額や鼻先は元より、膝の部分まで黒いオーラが変異した鎧がしっかりとカバーしている。
【黒いオーラが変異したあの鎧、防御力はかなり高いわよ】
『でしょうねぇ……』
禍々しさを漂わせたヘルベアの鎧は、見た目の威圧感ならタウラスさんの伝説級鎧である、【夜叉霞】を彷彿とさせる。
「貴様モ喰ライ、我ガ血肉トシテヤロウ」
「いや、さすがにそんなダークなモノになりたくないのだけど。それ以前に、わたしは異邦人たがら、あなた達と融合とか出来ないし……他を当たってくれないかしら?」
「ハハ、ソノ魂ノ臭イ……ソレヲ持ッテ我々ト異ナルトハ戯言ヲ!」
『バレてる!? っていうか、何でわかるの!?』
今までPAWでそんな事を言ってきた人はいない。
【人よりも、魔物の方が気づきやすいのかもね。
人としての器よりも、魂としてのエネルギーとして見ているのかもしれないわ】
『捕食だから見分けというか、臭いで判別が付くとか?』
【ふふふ、それは楽しい推察ね】
全然楽しくないのだけど……はぁ。
「……気が重くなる第二ラウンドよね」
黒いオーラが鎧となり、弱点と見ていた箇所がキッチリと守られ、さっきまでの戦い方が封じられた状態に。
しかも、向こうはわたしの状態なのがわかっており、それを解った上でわたしを狙ってきていたとすれば、逃げ切るのも難しい話になる。
「逃げるとしてもヘルベアが追いつけなくなるような状態まで、ダメージを負わせないといけないってかなりキツイわよね」
こうなると、さすがにため息しか出なくなる。もしくは文句かな。
『あの鎧がヘルベアの動きに制約を与えるとか』
【無いわね。重量もあってないようなものだし、単純に強化だけされた状態と見たほうが無難ね】
……最悪。
「ま、文句を言っても仕方ないけど」
冷静に分析すると、黒い鎧を纏ったヘルベアの攻撃力はそれほど変わっておらず、防御力が格段に上がった状態。
……スピードについては上がっていない、と思いたい!
『となれば、確実に有効打となるもので攻めないと』
そう言いながらわたしは自分の手を見る。
『鎧があっても“勁”を通せばダメージは与えられる。ただ、最初に打った時にはそれほど与ダメが出た感覚は無かったから……』
【威力が足らないなら、アレをやるしかないのでは?】
“もう一人のわたし”がそう促す。
『そうね……でも、それは【羅刹の息吹】で出した攻撃が通じる確証があればってことよね』
あんな鎧みたいなものをつけた状態のヘルベアに、【羅刹の息吹】で昇華した【嵐月】【孤月】【招月】が必ず効くとは限らない。
……っていうか、ヘルベアの巨体を【孤月】で空中に上げられるのかな?
【じゃあ、どうするのよ?】
『【羅刹の息吹】が最終手段な以上、とにかく現在の手札でやるだけやってみないと』
より効果的にダメージを与えられる方法や、相手にとって嫌だと思われるようなスタイルで主導権を握り続けることが出来れば勝機はあるはず。
『それでも駄目だった場合には、【羅刹の息吹】でブーストした連撃で勝負に出る』
連撃やコンボだけでなく、オーバーパワーからの投げをしてみるのも一興かも。
『さて、ここからどう攻めるか』
普通の攻撃で急所と呼ばれる箇所を攻めるのは、あの鎧によって防御が上がったことにより厳しくなった。
関節を極めてもパワーで押し切られるだろうし、重量差があり過ぎるから今のままでは投げることも難しい。
『やっぱり“勁”を使った“通し”で行くしかないかな。それも出来るだけ効果のある箇所へ打たないと……』
【出来るの?】
『やるしかない、それだけよ』
間合いは大体見切れている。あとは……
「相手の呼吸を盗んで最善のタイミングを狙う」
効果が出せる最善の場所へ踏み込む為、そしてタイミング良く打てるように相手の呼吸を把握することは必須。
『結局、最終的には頭部へ通すことで大ダメージを狙うことにはなるけど、さっきと同じでそこに辿り着くまでの過程が大事なのよね……』
【でも、あなたが狙った脚の部分は鎧で固められたわよ?】
『ええ、あくまで“さっきまでの技”に対して有効であろう鎧よね? だったらそれを超える威力の高い技を使うわ』
斬撃や打撃であれば、あの鎧の防御力は非常に効果が高い。しかし、わたしが使う“勁”を用いた技であれば、鎧の防御力はある程度無視できる。
【でも、あまり効いてなかったじゃないの?】
『あれはただ打っただけだったから』
“もう一人のわたし”が言うとおり、最初に使った【鎧通し】にも“勁”は用いている。でも、あれは牽制と効果を測る為のもので、簡単に言えば“普通に打った”だけ。
『一応、他にも“勁”を用いる技ならあるわよ。
あとは使うタイミングというか……より効果のある打ち方で攻撃さえ出来れば』
【それが“呼吸”を盗むって話かしら?】
『ええ』
わたしは軽く頷くと、ヘルベアの呼吸を盗むことに全力を注ぐ。
『呼吸を相手から盗むことで、最も防御し辛いタイミングで攻撃を与えられる』
それは【羅刹の息吹】を使って加速し、相手の意識外から攻撃するのとは異なる、自分本位では無い“相手の動き”に合わせた戦術。
【あら、それってあなたが苦手だった戦術よね】
『……おっしゃる通りで』
わたしのメイン戦術は、どちらかと言えば相手と正面からぶつかり合う戦い方。
マチュアさんから『攻め方のバリエーションを増やしましょう』と、当て身を使った戦い方など色々な戦術を教えてもらったものの中でも最も苦手で、何度もダメ出しをされた戦い方が“相手の動き”に合わせた戦術。
『ま、苦手だからとマチュアさんがかえって熱心に教えてくれたからね。
勿論、それを意識して戦ったこともあるわよ。一応勝ったという戦績も残しているから、それなりには出来ると思うようにしているわ』
……半ば暗示に近いかもしれないけど。
『自分からガンガン攻めた方がラクなのよね、シンプル・イズ・ベスト! って偉大な言葉よ』
正直、そっちの方がわたしに合っている。でも、それが出来ない相手……今わたしの目の前にいるヘルベアのような規格外な相手には厳しいのは明らか。
【まぁ、さっきの攻撃で倒せなかった以上、確かに違う攻め方じゃないとダメってことね】
『そういうこと』
気持ちは決まった。攻めるべきポイントも決めた。あとはヘルベアの呼吸を
ゾクッ……
『えっ』
ヘルベアの間合いに近づいた瞬間、イヤな感覚にがわたしを襲った。
いつも読んでいただきありがとうございます(_ _)
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