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238話 王者達の協奏曲 26 vsヘルベア 1


 連続したジャンプで次々と隣接する木の枝へ移動しながら、一瞬だけ後ろに視線を送る。


「手が届かないところに行ったから諦めてたりは……」

 そんな仄かな思いをしてからヘルベアを見てみると、立った状態から四つん這いの状態になって……



 ドッ、ドガッ!



 ヘルベアは低い姿勢から突進すると、進行方向にあった木々をいとも簡単になぎ倒しながらわたしの後を追って来る。


『ですよねぇ……』

 諦めて見逃す、なんて甘い話は無いようで。


 ・

 ・

 ・


「この辺りよね」

 目的地の直前で枝から飛び降り、改めて周りを見渡す。そこは森の中にも拘わらず、木が全く生えていない開けた場所だった。

 しかもその辺りの地面だけが土ではなく、明らかに加工された石が敷き詰められ……


『どう見ても人工的に石が敷かれているわよね、しかもかなり古そう。これが石畳だとしたら、たぶん遺跡か何かだと思うけど……』


 よく見れば、近くにある蔦が絡んでいたものは割れた石柱にも見える。



「グアァッ!」



 ドガッ!



「あー、やっぱり石柱だったみたいね」

 ヘルベアが体当たりしたことで蔦が剥がれ、その下にあったものが視界に映る。とはいえ、石柱は体当たりで粉々になっているので、その石柱がどういったものだったかはわからない。


「グオォ……」


 なお、ヘルベアも突進するまではそれが石柱だとわかっていなかったようで、ここまで来る途中になぎ倒してきた木々と同じように石柱に体当たりしたことで、予想外のダメージを受けたらしく、アタマを左右に振って痛みを拡散させている。

 ただ、数秒もすれば回復したのか、再びわたしの方を見ると苛ついたような唸り超えを上げて威圧し始める。



「痛がる素振りでもあったら、少しは可愛げがあったのに」

「グオォ……ガァァッ!」


 ヘルベアは挑発されたと勘違いしたのか、両腕を怒りに任せて振り回す。


「えっ、ちょっと!? わたしは悪くないわよ!」

「ガァッ!」


『テメエが悪い!』としか聞こえない吠え声と共に、間合いを詰めながら鋭い突きを出す。


 突きという行為だけで考えれば大したことはないけれど、その繰り出された突きの先には鋼の剣よりも鋭利な爪がある以上、感じる恐怖度は断然高い。でも、



『怒りに任せた攻撃の分だけ狙いが荒くて助かるけど、避けてるだけじゃ意味が無い……だから』


っ!」

 突き出された腕を下がらずに横へのステップで避けると、そこからもう三歩踏み込み、



 《鎧通し》



 パァン!



 ヘルベアの腹部へ勁のこもった一撃により、強烈なヒット音が辺りに響く。だけど、ヘルベアは何も感じなかったかのように次の攻撃態勢に移ると、わたしに向かって片腕を振り下ろす!



 ガッ!



「クッ」

 ガードをしていたとはいえ、受けた瞬間に足元の石畳からミシミシっと嫌な音がする。


『ここが石畳で良かったわ。もし、足場がさっきまでいた土だったら、足首ぐらいまで土の中に埋まっていたかもしれない』

 さすがに全身が地面へ埋まり込むことはないけれど、足首まで埋まっていたら移動に制限がかけられ、不利な状態になっていたはず。


『ガードも出来たし、爪のある部分じゃなかったからダメージも大して無い。下手に間合いを取るより、至近距離での戦闘の方が被ダメは抑えられるかな』

 ただ、かなり精神をすり減らしながらの戦闘になるから、長引かせたら圧倒的にわたしが不利で……



「……うん、考えるのヤメ!」

 考えて戦うことで場のコントロールは出来るだろうけど、どうしても後手に回ってしまいそうになることから、徐々にアタマの中が固まりかけていた。


 だったら深く考えるのは一旦放棄して、出来ることを的確に、そして素早く実行することだけに意識を寄せる。


『シンプルに、そして有効な手で攻めまくる』

 そう結論付けることで頭の中がスッキリし、僅かとはいえ体も軽くなったような気も?



『不利なことが多くて気が滅入りかけたけど、やるべきことは一つだと分かれば……』

 簡単に考えた場合、ヘルベアとの戦いは前に戦ったトロールと似ている。



 ダッ



「スピードを活かした、ヒット&ヒット&ウェイ!」



 ガッ! ドッ! ザザザッ!



 ヘルベアに一気に近づくと、一番攻撃がしやすく避けられにくい、膝の辺りに対して連続した突きと蹴りを入れるとすぐに離脱。


『とにかく今はこれを繰り返す!』

 ただひたすらに同じポイントへ攻撃を繰り返しては反撃が来る前に間合いの外へ移動する。



「グゥオオ!」

 厚い獣皮に守られているとはいえ、ダメージは少しづつ溜まっていく。

 そして溜まっていくダメージが巨体を支える足にとって無視できないものになりつつあるのか、ヘルベアの攻撃がわたしを狙ったものから、近づけないようにする、牽制的なものを兼ねた攻撃へと変わっていく。


「やっぱり関節へのダメージって嫌よね」

 それもあの巨体を支える膝ともなれば、少しのダメージでも溜まれば無視出来なくなる。


『ただでさえ“あの巨体”を支える足には負担がかかっている。だからこそ、ダメージが増えて立つのが困難になれば……』

 何回どころか何十回と同じ場所へ攻撃した結果、ヘルベアの動きが徐々に鈍くなり、



 ドスン



 仁王立ちしていたヘルベアが四つん這いの状態に。その様子は移動の際に見せていた、突進をする姿勢とは異なっている。



『それを待っていたわ!』

 ヘルベアの姿勢が変わった瞬間、その隙を逃さないようダッシュして近づくと、その勢いも乗せた飛び蹴りをヘルベアの顔面へ!



 《飛燕脚》



 ゴッ!



 勢いに乗った飛び蹴りがヘルベアの顔面に入ると、ヘルベアの動きが一瞬止まる!


「まだ!」

 わたしは蹴りを入れた状態から反動で宙返りをすると、捻りを加えて加速した踵落としをヘルベアの鼻先に叩き込む。



 《半月脚》



 ドゴッ!



「どうかな!」

 マチュアさん直伝の回転踵落とし。威力は十分なはず!


「グォォ……」

 ヘルベアはうめき声を上げると、四つん這いの状態から地面に倒れ込む。



『熊の弱点は鼻と眉間って聞いたことがあったから狙ってみたけど、ヘルベアにも有効だったみたいね……良かった』

 戦っているのが普通の熊ならば、仁王立ちの状態であっても飛び蹴りなどでギリギリ攻撃を当てられるけど、ヘルベアのように三メートルを超えるような相手だとさすがに厳しかった。

 まぁ、一応当てられないこともないけれど、それをするまでのリスクが高すぎるというのが正直なところ。


『四つん這いの状態なら当てられる、そう考えて膝や膝裏を狙った甲斐があったかな?』

 関節部分に攻撃を集中し、立っていられない状態に追い込むことで、こちらの攻撃が当たる間合いにヘルベアを落とし込む作戦。

 思わず自分に疑問符を付けて確認するしていまうぐらい上手くハマった。


「動かないヘルベアを見る限り、それは正しい選択肢だったと思うけど……」

 ヘルベアを視界に入れながら、念の為に辺りの気配を探る。



【油断しないで! まだ終わっていないわ】

「油断はしていないけど」



 ズズッ……



「え?」

 ヘルベア本体は動かない。しかし、ヘルベアが纏っていた黒いオーラがユラユラと動いたかと思うと、ヘルベアの中に吸い込まれるように消えていき……


「煩イ虫ゴトキガ、我ヲ倒セルト思ウトハ浅ハカナ」



「……喋った!?」

 いや、さすがに魔物とはいえ喋るっていうのは想定外なんですけど!?




いつも読んでいただきありがとうございます。

次回も6/22(月)にアップ出来るように頑張りますので、よろしくお願いいたします。


また、ちょっと面白いと思っていただけたら、ページ下部の☆マークをクリックして、ポイントをいただけたら幸いですm(_ _)m


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