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235話 王者達の協奏曲 23


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 ペタ



「よし、これで全部の荷台に札が貼れたわ。リアの方は?」

「こっちも荷台の周りへの“魔払いの札”を設置したわ。これが少しでも役に立てば良いのだけど……」

「とにかくあとは運を天に任すだけね。

 ま、積荷が無駄パァになったなら、モノによっては再度仕入れるまでよ。

  そうね……この箱の中に入っているのはビ・ディンの名産というか、ビ・ディンにあるダンジョンの中でしか取れない魔薬だから、一緒にビ・ディンへ採掘にでも行ってもらおうかしら?」

「あはは……」


 うーん、ビ・ディンって行ったことがないけど、ダンジョン都市って言われていたっけ。どういうことから“ダンジョン都市”って呼ばれているかわからないけど……


『たぶん行くことになりそうなのかな……はぁ』

 自然と魔物が近づきたくなくなる“魔払いの札”。わたしにはこれがどれだけ有効なのかわからないけど、今ここへ向かっている魔物暴走モンスター・スタンピートが避けてくれなかったらアウトってことだし。



「そういえばそっちの札ってなんだっけ?」

 わたしが貼った札とフィーネが貼った札を見比べると、札の色や書かれている文字が異なってのがわかる。わかるけど……フィーネの札が何かまでかはわからない。


「こっちのは“くらましの札”って人や魔物に見つけ難くする札よ。

 リアに貼ってもらった札で近づきたくないようにし、尚且近づかれても気が付かれ難いようにする。まぁ、魔物暴走モンスター・スタンピートで狂った魔物が見境なしに進んできたら荷台なんて簡単に大破しちゃうから、上手く避けられたら儲け物ってところね」

「その賭けが上手くいくことを祈ってますよ」

 外れて荷台が大破になったらビ・ディンへ行くのが確定になるみたいだし。



「……それより、リアまでここに残らせちゃってごめん。あと雑用まで手伝わせて悪かったわね」


「いえ、大丈夫ですよ」

 荷台にカモフラージュし終わった(になるかわからないけど蔦や枝を被せた)わたしはフィーネの側へと移動していた。


商団パーティーは二十人、だけど馬は荷台を引いていたのも合わせて十八頭しかいなかった以上、どうしても二人が残る必要があったの。

 勿論、あの馬なら二人乗りも出来たと思うけど、馬に掛かる負担も倍になるから、あまり良策とは言えない。

 馬が潰れてしまって、搭乗者が魔物暴走モンスター・スタンピートに追いつかれたら意味がないもの」


「そっか、折角逃げたのにあしがダメになってしまったら意味がないものね」

 魔物達に追いつかれたら、その先には死しかない。


「ま、私はこの商団を預かる責任者だから皆の安全を優先する必要があったし、リアは異邦人(プレイヤー)だから、最悪死亡することがあっても強制戻り(デッドマーク)するだけで、本当に死ぬことは無いからっていう事で選ばせてもらったの、ごめんなさいね」


「なるほど……うん、問題ないです」

 わたし自身のこと……この世界での命が冒険者(プレイヤー)のそれとは異なり、フィーネを始めとしたこの世界の住人と同じになったことは話していない。


『言ったら……きっと皆に気を使わせてしまうから』

 それはわたしが求めているものではない、わたしがこの世界で生きる際に勝手に決めたことだから。



「というか、フィーネこそ馬に乗って逃げるべきじゃなかったの? 責任者だからこそ、家のことを考えたら、逃げる際の優先度が最も高いと思うのだけど」

 名門商家の代表として必要とされる彼女であれば、その価値はわたしの比ではないはず。


「そうね……確かに私の代わりはいないけど、商家(ウチ)の運営を任せられるのはいるから。それに私が命を張った分は、しっかりとウチの名誉にプラスになるわ。

 あ、ちなみに私に何かをあった際には年子の弟が継ぐことになっているわよ? 同世代と比べても他と引けをとらないどころか、ルックスも含めてかなりのものだと思うわ。

 ……そうね、二人とも無事に生き残って共和国に辿り着けた際には、弟とリアとの食事会でもセッティングしようかしら」


「はは……」

 ま、まぁフィーネを見た限り弟さんもかなりの美形だとは思うけど……今は遠慮はしたいかな。

 だって、今はこれからどうなるかって話だから。でも、


「フィーネからそんな話が出るってことは、ここで無駄死にするつもりなんてないのよね?」

「ええ、勿論」


 そう言ってさっきの道に戻ってくる。



魔物暴走モンスター・スタンピートの特徴は三つ。


 一つ目は魔物たちは狂気に飲まれて【狂化】した状態になり、目前に何があろうとも突っ込んでくること。しかも、狂化の影響で魔物達は疲労度が麻痺していているから、死ぬまで暴走し続けるわ。そして魔物達の姿は変わらない状態だけれど、その能力値は上位クラスへ変異してると考えてもらった方が良いかしら。

 単純に言えば、ゴブリンがホブゴブリンにオークがハイオークにクラスチェンジしてるぐらいは想定しておいてね。

 しかも、狂化によってパワーやタフさが更に上がっているから、軽く見ても大元の数倍ぐらい厄介な存在になったと考えておいた方が無難かな。


 二つ目は狂化の影響で、魔物達がかなり“おバカ”になること。目に止まることさえ無ければ、奴らは真横を素通りしていくわよ。

 逆を言えば、見つかってしまうと、魔物暴走モンスター・スタンピートの集団からはぐれようとも、その“見つけた奴”がこちらを追い掛けて来る可能性が高いの。

 とにかく見つからないようにすることね。


 三つ目は魔物の【狂気】が伝播するってこと。

 魔物暴走モンスター・スタンピートって、ダンジョンの中で起こることが殆どなの。だから、一度魔物暴走モンスター・スタンピートが始まると、その階層全てを巻き込むことが多いって話ね。


『恐怖は伝染し、狂気は伝播する』


 昔から魔物暴走モンスター・スタンピートが起きた際に言われる言葉よ。

 風が大地を凪ぐように、狂化した魔物達から狂気が辺りに伝播していき、次々と近くにいる魔物達に伝わっていくと言われているわ。


 今回はダンジョンではなく地上で魔物暴走モンスター・スタンピートが起こった……ダンジョンという限られた空間ではなく、隔てるものが無い地上で。

 ……この意味がわかる?」


「まさか、魔物暴走モンスター・スタンピートでこちらに……それこそアルブラまで到達するとしたら、その道中や近くにいる魔物達も魔物暴走モンスター・スタンピートに加わるってこと?」

「正解よ。危険や何かを感じた魔物や動物達はこの辺りから離れたようだけど、縄張り意識の強い魔物は逃げることなんてしないから、次々と狂気に飲まれ、伝播し、狂化していくでしょうね」



『狂化した魔物の群れ……聞くだけでめちゃくちゃヤバそうじゃない!?』

 しかも、今こちらに向かって来ている魔物暴走モンスター・スタンピートも十分に大きいけど、まだまだ大きくなる可能性が高いって……ちょっと想像できる範疇を超えている。


「私達が今いるこの場所は、アルブラから荷馬車を引いて約四日の距離。日数で考えれば魔物暴走モンスター・スタンピートがアルブラに辿り着くまで時間はありそうだけど、さっきも言った通り奴等は狂化の影響により通常よりも速く、尚且つ不休で走り続ける。

 悪い予想をするなら、二日も掛からずアルブラに到着するかもしれないわね」


「……ジェイさん達の方が先に着くのよね?」

 今の話を聞く限り、アルブラは再び大変な状況になりかねない。


『狂化した魔物達がジェイさん達を追い抜くようなことになったら、何も知らないアルブラは狂った魔物達に飲み込まれかねない。

 そんなことになったら……』

 ほんのちょっと想像しただけで背筋が寒くなる。



「そうね、あの馬達なら強化されてスタミナやスピードも並の馬以上だから、なにも無ければ大丈夫だと思うし、思いたいかな。

 ま、そうやって着いてもらう為に、私達がここに残った訳だし」


「うん、そうよね!」

 情報さえ伝わればティグさんたちが何とかしてくれるはず!


「じゃあ、時間もないからここからどうするかの話をするけど」

 フィーネはそう言って魔法を唱えると、何も無かった空間に半透明な地図が浮かび上がる。


「これは『地図展開(クリエイトマップ)』っていう魔法で、自分が過去に通った場所ならある程度正確な地図を作り出せるの」


「おお〜」

 ここにきて全く見たことも聞いたことも無い魔法に少しだけテンションが上がる。



 ……空元気レベルだけど。



いつも読んでいただきありがとうございます。

やっと物語も平時から非常時になってきました。

気をつけないと、どちらもずーっと書き続けそうなので、色々と気をつけながら書いていますが、バランスが難しいですね。


次回も6/1(月)にアップ出来るように頑張りますので、よろしくお願いいたします。


また、ちょっと面白いと思っていただけたら、ページ下部の☆マークをクリックして、ポイントをいただけたら幸いですm(_ _)m

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