228話 王者達の協奏曲 16
【Fight】
「行きます!」
「ええ、いらっしゃい!」
バッ!
過去何度なく戦闘訓練や模擬戦闘を行っている。だから、今さらマチュアさんの出方を伺うことなんて必要ない。とにかく自分が描くスタイルで正面からぶつかっていく!
『マチュアさんと体格はだいたい同じだからリーチも変わらない。勿論、技の威力や技術が劣っているのはわかっているから……狙うは』
「疾ッ!」
グゥン
『速度で勝る!』
マチュアさんに向かってダッシュしながら体勢を低く……それこそバランスを崩したら地面に激突しそうなぐらい低く傾けた体勢で突っ込んでいく!
「考えは悪くないわね、でも」
『うそっ!?』
視界に入ったマチュアさんは、わたしと同じぐらい低い体勢でこちらに突っ込んで来ていた。
ギィン!
「くっ」
互いに低い体勢から繰り出した突きが真正面からぶつかると、拳の間に存在した空気がその圧に耐えられなかったのか、耳障りな音をあたり一面に響かせる。
『この装備と【闘衣】のおかげでダメージはゼロ。だけど若干、腕に痺れが』
痛くはなくても、つい抜けない腕の痺れに気がいってしまう。
「ダメージは無くても衝撃は抜けてないってことよ、あと次の行動が遅い」
「速いっ!?」
突きの体勢から体を半分捻った状態のマチュアさんは、既にわたしの目前にまで迫っていた。
《半月落》
マチュアさんは捻った体勢から反動をつけると、わたしの頭上に気が乗った踵落としを繰り出す!
『下がって避ける? ダメ、それじゃ躱しきれない』
だったら取る手段は、
《鎧通し》
パァン!
「ぐっ!」
「うん、良い判断」
頭上に迫っていた踵に無理矢理だけど【鎧通し】をぶち当てた。
なんとか踵落としを真正面から食らうことは避けられたけど、手が痺れていた影響なのか、目標から若干ずれたせいもあり、少しだけ拳と手首にダメージが残る。
「休んでる暇なんて無いわよ」
「ああ、もぅ!」
ガッ! ドン! ガガガガッ!
軽いジャブのような突きから、強引に当てるような重くて鋭い突き。そして間髪入れずに放たれる上中下段へのしなった鞭のような蹴り。
『クッ、諦めてガードしてもその上から削られる!』
ガードの上から削ってきたラルさんと同様、いやそれ以上のダメージに思わず舌打ちしたくなる。
ガシッ
「しまっ」
「だから待ちじゃダメって教えているのに」
こちらの襟と腕を掴んだマチュアさんは躊躇うことすらなく、
ドゴッ!
「かはっ」
掴まれた状態からの膝蹴りが鳩尾へ……ヤバイ!
『とにかく流れを切らないと』
考えると同時に闘技を発動させる!
《振砕破》
ブンッ
「チッ、教えた私がイラつくぐらい良いタイミングで出すじゃないの」
「優秀な教え子ですから!」
『何とか、凌げた』
【振砕破】
術者を中心として周囲に衝撃波を放つカウンター的な闘技。
与ダメージは大したことは無いけど、相手に上手くハマれば数秒間動きを緩慢にさせる技という特殊効果が優秀な技ではある。
ただ、消費するMPの量が多いというのと、体内に溜めてあった気も同時に使うことから、こう……体の中から気が出ていく際に『ピリピリっ』と弱い振動を放つ感覚が、変な感じを覚えるというか苦手だったり。それに、
「あくまで最初の位置に戻っただけなんですよねぇ」
効果は最初から期待していなかったとはいうものの、リスタートした状態でしかない。
「消費とか被ダメとかあるからスタートと同じじゃないけどね」
「ええ、わかってます」
だからこそ、ここからの行動はさっきまでの攻防結果を少しでも活かせていないと割に合わない。そうなると次に選ぶ行動は自然と決まる。
《羅刹の息吹》
「ここで使っちゃう?」
「ここで使わないとダメですから」
最初からレベル差があることぐらいはわかっている。だからこそ、打てる手段は躊躇なくやっていかないといけないし、悩む時間なんてかけたくない。
『だって、使う前に負けたりしていたら意味がないし。それにしても……熱い!』
マチュアさんから使用制限を受けたこともあり、日々の戦闘訓練や模擬戦闘でも使っていなかった。それこそ、前に使ったのなんてラルさんとの戦い以来。
というか、前よりも感じる熱さが高くなっていませんか??
「第二ラウンド行きます!」
「来なさいな」
―――◇―――◇―――
【マチュアの視点】
『使うタイミングは正解ね』
ここで使わなければ、次に私が行う攻撃でリアは死んでいた。
ちなみに最初から【羅刹の息吹】を使っていたら、取り決めた“誓約”の問題で戦闘を継続することが出来なかったはず。
「ふふっ、ここからたったの三分で私を倒せるなんて甘い考えじゃないの?」
「やってみせま」
フッ……
言い終わるより先にリアの姿が視界から消える。
『私の目でも追えない速さって』
面白くて、嬉しくて、怖くて……笑いがこみ上げてくる。
「良い速さよ、でもね!」
《振砕裂波》
ブゥンッ!
さっきリアが使った【振砕破】の上位闘技。速さも威力も振砕破の倍以上。
『間合いにいたら事実上避けるのは不可能』
例えリアの姿が見えなかったとしてもヒットされせば問題ない。それこそガードされることすら織り込み済み。だってヒットでもガードでも、反応さえあればそこにいるのがわかるのだから……でも、
『ヒットもガードも反応が無い……、ってことは上から!』
《天旋鷹脚》
ミシッ
「ぐっ」
ある程度の高さまでジャンプし、降下しながら縦方向に旋回することで威力を増した蹴りを放つ【天旋鷹脚】。それなりに高いダメージを与えられるその闘技に、リアが持つ超速の勢いがさらに威力を向上させ、想像以上のダメージとなっていた。
『なんとかガードは間に合った。でも、僅かとはいえガードした腕を通してダメージが』 こちらの頭上に向けて繰り出された右足の蹴りが、ガードをした私の腕を軋ませる。
「でも、ガードが出来た以上は私の」
ゾクッ
『まさか』
ガードしたことに満足したつもりはなかった。ただ、そういう抜けた考えをしている間にリアは次の行動へと移っていた。
《天旋鷹脚・改 綴脚》
ガッ!
「痛っ」
右足の攻撃ガードした私の腕を目掛け、遅れて来た左足、その踵部がキッチリ入るとそこから嫌な音が聞こえる。見なくても感じる痛みで右腕が役に立たなくなったのはわかる。
『今のは、マズい!』
《振砕裂波》
ブゥンッ!
「うそっ!?」
【振砕裂波】での反撃を予測していなかったのか、リアは即座に間合いの外へと離脱する。その反応と速さは見事なもので、カウンター気味に出したはずの【振砕裂波】はリアにヒットすることが無かった。
「良い技、良い出し方……うん、これは師として嬉しいわね」
腕から感じているジンジンと響く痛みすら、その感慨によって心地良いモノへと変わる。
『一撃目がダメでも、時差をつけて繰り出された二撃目で追撃する……二撃目を弾くなりガードすればこちらの勝ちだったけど、さすがにあれだけ威力が高かった技をノーダメで通すのは無理』
腕一本、取られたのは十分痛い。でも、
……ニヤッ
「ふふっ、振砕裂波で間合いの外まで戻ったのはダメね」
……ニヤ、ニヤッ
「殺るなら綴脚から次の一手……いや、二手ぐらいすべきだったわ。例えそれがカウンターになったとしてもね。
もしくは次の行動が取りやすい、もう少し近い位置にいないと」
そうしたら、きっとリアが勝つ目が少しは増えたかもしれないのに。まぁ、私の反撃もジャストタイミングだったから難しかったのかもしれなけど。
『とりあえず』
最初の構えよりも半歩だかえ左足を前に出す。
「さて、私の番で良いかしら?」
目で追えない動きは確かに厄介だけど、触れられないということではない……ただ、少しだけ面倒なだけ。でも、その面倒さはキッチリと相手に還る……絶大な効果として。
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