226話 王者達の協奏曲 14
『【心縛の魔眼】……』
名前からして縛るってのが非常に怖いというのが正直なところで。
「すっごくヤバそうな名前ですよね。どう考えてもメチャクチャ強そうな感じしかしませんが」
「そうね、実際それだけ強力な能力だと思って良いわ。しかもこの能力の特徴は、その後も見られた回数やその影響を受けた時間によって、【心酔】の状態から【敬愛】や【魅力】に変わると言われていたわ」
「み、魅了ですか!?」
さ、さすがにそれはヤバいですよね?
「だからこそ、私は帝国が次の皇帝を第一皇子じゃなく、ヴェルフにするんじゃないかと思っていたの。そんな強力な力があれば、兵や住民の統制や掌握だってしやすいでしょ?
だけど……まさかその前にヴェルフ自身が帝国を出奔し、自らの国を建てるとはねぇ……事実は何とかより奇なりってところかしら」
そういうと再びマチュアさんは重そうなため息をつく。
「確かに帝国での地位を捨ててまで新しい国を建てるっていうのも尋常じゃないと思いますし、そもそもそう簡単に出来るとも思えないですよね。
……まさか、新しい国を作った際に旧独国の人達もあの目に?」
「うーん、たぶんそれは無いでしょうね。旧独国の王や王妹といった人達なら、私みたいにかなり高い抵抗値を既に持っているでしょうし。あと、旧独国の民って自分より強くない者を認めない分、逆に強ければ簡単に従っちゃう民族性だから、ヴェルフの強さを知れば心酔とか関係なしに従っちゃうと思うわ」
「あはは……、本当に“強さ第一主義”なんですね」
まぁ、ラルさんもそんな感じだったし。
……というか、ヴェルフさんってそんなに強いんですか??
「そうね、ヴェルフは強いわ、本当にね。その強さを一言で片付けるとするなら、“天才”ってところね……ムカつくけど」
「天才、ですか」
ものすごく抽象的なようでありながら、かなり嫌な表現ですよ。
「私がヴェルフに“緋蒼流格闘術”を教えたのは今から十五年前。そしてそこから僅か三年間で師範代級にまで成長し、私と良い勝負が出来るようになったわ。
一応、その時点においては私の方が強かったけど、結局ヴェルフに教えたのはその三年だけ。もう十二年も前の話になるから、現時点でヴェルフがあの時と比べ、どれだけ腕を上げたかまでは分からないわね。
とはいえ、私としては負ける気なんてサラサラ無いけど」
「なるほど……って、十五年前!?」
えーっと、映像で見たヴェルフさんって高校生か、よくて大学生ぐらいにしか見えなかったんですが。
『か、仮に若く見えるヴェルフさんが今二十歳だったとしたら……』
十五年前ってことは、マチュアさんが教えた当時はヴェルフさんは五歳ってことになるわけで。とすると、
「ヴェルフさんって、八歳ぐらいでマチュアさんと良い勝負したってことですか!?」
五歳で戦闘について修練を受けるっていうのも大概ですが、八歳でマチュアさんと戦えるって、どう考えても天才とかいうレベルで収まらないと思うのですけど!
「え?」
「え?」
わたしの発言にマチュアさんが小首をかしげ、それに合わせてわたしも同じ方向に小首をかしげた。
「ああ、そっか。リアはヴェルフについて詳しく知らなかったっけ?」
「え、ええ」
すみません、本当に何も知らないものでして……
「ごめんごめん。ヴェルフの事ってそれなりに有名だし、アイツの肌の色を見たら想像出来るかな~って思っていたものだから、今まで説明していなかったわね」
「肌の色ですか?」
っていうか、ヴェルフさんってかなり有名人なんですね。
『まぁ、帝国の皇子だったぐらいだし有名で当たり前よね。どっちかと言えば、わたしの方が疎すぎたってことなんだろうなぁ……』
と、とりあえずそれは置いておいてっと。
「えーっと、ヴェルフさんの肌の色っは褐色でしたよね? 今の皇帝は白人っぽい方だったと記憶しているので、お妃様が褐色の肌だったということになるのでしょうか。
褐色の肌の人……うーん、アルブラとか初期村で会った人とか思い出していますけど、ちょっとヴェルフさん以外では記憶が無いですね」
褐色ですよねぇ……そういう肌の色をした人をどこかで見たことあったっかな?
「うーん、王国内じゃあんまり見かけないから、リアが知らないのも仕方がないかも」
「王国で見ない?」
「そ、ヴェルフはハーフなの、人とダークエルフのね。だから外見としては二十歳ぐらいにしか見えないとは思うけど、実際は今年で三十歳よ。
まぁ、そういう事情を知らないとヴェルフの見た目なんて、そこらへんにいる調子の良いお子様レベルよねぇ」
「なるほど……って、あの外見で三十歳なんですか!?」
見えない見えない! どう見たって高校生とかですよ、あの姿って!
「ハーフエルフって人間とは成長速度が違うからね。ハーフエルフは人間の寿命と比べて二~三倍ぐらい長生きなのよ? だから成長速度も人間と比べて緩やかなの。あ、エルフは五倍以上ね。
ちなみに十歳ぐらいまでは人間とほとんど同じで、そこからかなり速度が変わるのよ」
「なるほど……ですが、それでもかなりの若さ、というか十代前半でマチュアさんから師事してもらっていたんですよね? しかも三年で師範代級って、わたしとは雲泥の差だと思いますが」
たったの三年でマチュアさんと良い勝負が出来るようになるなんて、どう考えても尋常じゃないし。
「そう? 私から見たらヴェルフもリアも同じぐらいな感覚があるけど。むしろ現時点での成長速度だけで言うなら、あなたの方が凄いと思うぐらいよ?」
「そ、それは嬉しい評価ですね」
マチュアさんに褒められると、その褒められた分だけ裏に何かあるんじゃないかと思ってしまったり……チキンハートですみません。
「ま、そんな訳で天然とはいえヴェルフって若作りしているから、色々と気をつけてよ」
「あはは……」
何を、どうやって気をつければ良いのかわかりませんけど!
『とりあえず簡単にまとめるとヴェルフさんはマチュアさんと互角なぐらいに強いハーフエルフで、【心縛の魔眼】なんていうシャレにならないスキルがあるから色々と気をつけないと貞操が危ない……っと』
うーん、どうしてゲームの中でこんな変な悩みを持たなければならない訳!? というか、
「さっきのマチュアさんの話だと、ヴェルフさんが【“緋陽”の特異型】であり、わたしが【“蒼陰”の特異型】ってことで、【緋蒼流の相克】にあたるからヤバイって話でしたよね?」
「ええ」
「とすれば、『【緋蒼流の相克】の力がどうしても欲しい』ということだけなら、わたし以外の【“蒼陰”の特異型】の人を見つけた方が早くないですか?」
敵対となる王国領にいるわたしを無理に狙う必要なんてないと思うし、何なら帝国の方がいるのでは?
「そうね、普通ならそう思ってもおかしくは無いわよね。でもね、リアが考えたように“緋蒼流格闘術”の使い手が多い帝国ですら【“蒼陰”の特異型】は残念ながら見つかっていないわ」
「わたしと、マチュアさん以外に【“蒼陰”の特異型】がいないってことですか?」
「いいえ、私達以外にも【“蒼陰”の特異型】はいるわ……ただし、全員男性だったはずよ、私が知っている限りにはなるけど」
「えぇぇ……」
男性と男性で……って、さすがにそれは無理か。
「“緋蒼流格闘術”も含め、近接格闘系の戦闘スキルって普通の人は補助スキルとして覚えるのが殆どなの。
対人だけでなく、魔物も含め“戦う”っていうことを考えた際には、やっぱり素手よりもリーチのある剣や槍、弓といった武器をメインに使った戦いをする人の方が多いわ。そして武器使いは男性よりも女性の方が顕著に出てくる、そう思わない?」
「確かにそうかもしれませんね」
まぁ、わたしの場合は選択肢がなかったっていうこともあるけど、もし最初から武器を使った戦闘が出来ていたとしたら、わたしだってそうなっていた可能性の方が高かったと思う。
「“緋蒼流格闘術”自体をメインに使う人も少なく、更に女性の使い手が少ない。よって結果として特異型に覚醒する女性も減る……」
「ええ、それがリアが狙われる理由よね。私なんかよりも若く、しかも確実にヴェルフよりも弱い【“蒼陰”の特異型】の覚醒者」
「確かにマチュアさんと互角に戦えるような人に、わたしが勝つのは難しいです」
出会ってバレたら貞操喪失の危機とか……どう考えても戦わない方が無難だし。
『ん?』
なんだろう、何かひっかかるような……あ、
「えーっと、もしかして共和国とかに行ってもヴェルフさん以外の【“緋陽”の特異型】がいたら危険だと思ったのですが」
ヴェルフさん以外の人で【“緋陽”の特異型】がいて、わたしが【“蒼陰”の特異型】だっていうことがわかれば、結局貞操の危機に変わりがないような? というか、王国から出る方が危ないような気がしてきたし!
「それなら大丈夫よ、だってわたしが知る限りヴェルフ以外で【“緋陽”の特異型】に覚醒した人間なんて聞かないもの」
「え?」
「特異型の中の特異型、それが【“緋陽”の特異型】なの」
「は、ははは……」
こっちよりもヴェルフさんの方が更にレアってことですよね、それ。
「『突き抜けた力を持つ者が特異型として覚醒し、そして時代に、武の神に認められ愛されたものだけが“緋陽”の資格を得て人々を導く』、そういう言い伝えがあるわね。それが本当かどうかはわからないけど」
「えぇ……」
なんだろう……運が悪いというか、とても嫌なタイミングで覚醒しちゃったのかも。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
やっと話が坂を転がり始めるところまで来ました。
助走が長すぎですよね(苦笑)
というか、一話あたりのテキストを多くすれば良いのかな~とも思っていますが、
なかなかに上手く出来ないもので(´・ω・`)
次回も予定通り3/30(月)アップで頑張りますので、
引き続きよろしくお願いいたしますm(_ _)m




