224話 王者達の協奏曲 12
「以前に教えた通り、“緋蒼流格闘術”には『“緋”をもって表す“陽”の面』と『“蒼”をもって表す“陰”の面』があるわ。そして“緋蒼流格闘術”の使い手はこの力が伸びていく」
「はい、覚えています。特にわたしとマチュアさんは『“蒼”をもって表す“陰”の面』だけが伸びるタイプだという話だったと思いますが」
わたしとしては、マチュアさんと同じ『“蒼”をもって表す“陰”の面』の使い手になっていると言われたことが嬉しかったりしたのだけど。
「正確には、私もリアも『“蒼”をもって表す“陰”の面』に振れすぎて『“緋”をもって表す“陽”の面』の力が消滅している特異型な存在って意味なんだけどね」
「レアですか」
特異型と言われて少しだけ嬉しい反面、面倒事になりそうな気がしてしまう。
「実際、“緋蒼流格闘術”を学んでいる者は帝国を中心におよそ一万人ぐらいはいるでしょうね。でも、その殆どは“緋”と“蒼”の両方が伸びていく一般型よ?」
「ちなみに特異型は」
「千人に一人いるかいないかかしらね」
……それは結構希少な気がしますが?
「ちなみに一般型は両方使える器用な分だけ、マスターできる内容が限られちゃうの。
例えば十個身につけられる枠があったとしたら『“緋”が三、“蒼”が七』って感じになると思えば良いわ」
「それはそれで強そうな感じもしますが、器用貧乏になっちゃうってことで理解すれば良いのでしょうか?」
“緋”と“蒼”、両方使えることは凄いな~とは思うけど、その分、枠の大きさが限られている関係上、身につけられる技が中途半端になってしまうのは残念というか、もったいないというか。
『枠に空きが無いから、もっと強い闘技を習得出来ないとしたら……うん、確かにそれはイヤかも』
「そうね、その考えで間違いないわ。
だから私やリアのように、“緋”もしくは“蒼”の力のみを扱うようになるというのは貴重な存在になるわ。でも、現時点で一番の問題はそこじゃないの」
「あらら」
確かに今までの話だと、わたしの力が『“蒼”をもって表す“陰”の面』に振れすぎているってだけだからヴェルフさんにはあまり関係ない。
「問題はね、ヴェルフが【“緋の陽”に振れすぎた特異型】であり、リアが【“蒼の陰”に振れすぎた特異型】だってことなの」
「あ、ヴェルフさんも【“緋蒼流格闘術”の特異型】なんですね」
しかも、わたしとは異なる【“緋”をもって表す“陽”の面の特異型】だったなんて。
「『緋は陽であり、蒼は陰になる』……これは“緋蒼流格闘術”を習う上での最初に教えられること。
そして、己の力を片方へ……この場合は“緋”か“蒼”ってことだけど、その一方へ伸ばせられる特異型の者だけが知ることが出来る、特別な【力の理】があるの。
その理こそが【緋蒼流の秘技】と呼ばれるものであり、正式には【緋蒼流の相克】と呼ばれている力の使い方。そして、それを知る者であれば絶対に手にしたい力」
「【緋蒼流の相克】?」
今までマチュアさんから聞いたことが無いけど……って、わたしが特異型だったって話もつい最近しているから無理もないか。
「【緋蒼流の相克】ついてはリアに話をしていなかったわね、ごめんなさい」
「いえ、正直色々とあり過ぎましたから……」
マチュアさんに“羅刹の息吹”について話をし、それからあの放送だったからなぁ。
「“相克”というのは、対立する力が互いに相手に勝とうと争うこと。でも、その争う力を使いこなし、限られた相手と深く交わることで“相克”は新しい力を生み出すことが出来るようになるの。
反発する力でありながらも、一線を越えて“交わる”ことにより、互いが内包する力に変換させる……結果、そこから生まれた力は互いを“源泉”として補う力になり、肉体的に欠けた部分ですら埋める存在にもなるわ。
【緋蒼流の相克】……それは“緋蒼流格闘術”を習得し特異型として目覚めた者が求める力、そして秘技と呼ばれるものの一つなの」
「交わることで補う存在……」
欠けたのを埋めるっていうのもイマイチわからないし、“特異型として目覚めた者が求める力”っていう言葉に対し、何かはわからないけど背筋に嫌なものを感じてしまう。
「ハァ……」
わたしが色々と疑問に思っている様に、マチュアさんは重いため息をついてから話し始める。
「簡単に言うわ。互いの肌を合わせ力を流しあえば、ちょっとした傷を癒やしたり、減少したHP・MPを回復させることが出来るの。
そしてより深い接触……もっと端的に言えば『保有する互いの力を撹拌するほど深い行為』ってことになるけど、深い行為をすれば、瀕死の状態からでも完全に回復することが出来るって話。
ま、保有する力を使うっていう関係上、連続で相克することが出来ないってことだけが唯一の救いね。
もし、戦っている相手が【緋蒼流の相克】を持つ者達であり、それこそ“いつでも・どこでも・どれだけでも”深い行為が出来ようものなら、私だって勝てる自信が無いもの」
「……深い行為?」
なんだろ……その言葉の響きからは、とてもとてもイヤな予感しかしない。
「まぁ、有り体に言えば深い行為っていうのは性行為のことね。深く交わることでお互いの奥にある力を撹拌させるって話だと思ってくれれば良いわ」
「……え?」
せ、っく、す?
・
・
・
はい?
・
・
・
「えぇぇぇぇ!」
『は? ちょっと待って! エッチしたら回復するって何それ!?』
マチュアさんから発せられたその言葉は、わたしの頭を一瞬で混乱状態へと誘う。
『意味分かんないし!?』
なにその設定?? は???
『っていうか』
前提というか色々とおかしいし! そ、そもそも、
「わ、わたしは異邦人だし、年齢とか問題あるし、それ以前にこの世界で生きる際に運営からそういうことはマナー違反でできないようになっているから出来ないはずです」
そ、そうよ。そういったシステムがあるからわたしがこの世界で……エッチなことは出来ないはず!
「……うん、私もそう思いたいのだけど」
「思いたいのだけど?」
え、なんでマチュアさん歯切れ悪くなっているんですか!?
「リアは帝国にいる【傾国の騎士】って聞いたことある?」
「【傾国の騎士】ですか」
どこかで聞いた記憶が……あっ。
「帝国の第一皇子と結ばれて身籠ったって話を聞いたことが……」
「【傾国の騎士】は間違いなく、あなたと同じ異邦人の女性よ。直接的会ったことはまだ無いけど、一応これでも元帝国民だから、帝国に関する信憑性の高い情報網は持っているわ」
「そ、そうですか……」
ラスエリ工房でレベルの高い冒険者の話。あの時は『わたしには関係ないし』って思って記憶の片隅にしまいこんでたけど、まさか……
「でも、その時聞いた話だと『異邦人が“この世界にとって必要不可欠なパーツとなる”ことが、この世界の人とそういう仲になるのに必須な条件』ってことでした。
まだわたしはそこまでの人物にはなっていないかと」
「うーん、多分というか予想だけど、リアの場合はその条件をとっくにクリアしてると思うわよ」
「え? クリアしていましたっけ?」
はて? わたしって何か偉業とかしたっけ??
「時神モルフィス様に願いを聞き入れてもらったあなたは、今この世界でどんな状態だったかしらね?」
「……あ」
『PAWでのわたしの命を異邦人としての扱いではなく、この世界の人達と同じ扱いに変えて欲しい』
わたしが時神モルフィス様に願ったこと。それは異邦人の枠から外れ、この世界の人達と同じ扱いにしてもらうこと。
裏を返せば、わたしはこの世界で異邦人としてのルールに縛られないし、守られてもいない訳で……
『間接的に“この世界にとって必要不可欠なパーツとなる”って条件を満たしたってことですか!?』
さ、さすがにそれは想定していなかった~……
「ど、ど、どうしましょう!?」
「うーん、とりあえず試してみましょうか」
そう言うと、マチュアさんはわたしの顎をゆびでクイッと上げると、そのまま顔を近づけて
チュッ
「んん!?」
マチュアさんは躊躇うことなく、わたしの唇に自分の唇を重ねるのだった。
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