223話 王者達の協奏曲 11
「げ、げほっ!」
胃から込み上がってくるものを抑えきれずに吐き出すも、喉にまだひかかっているのか呼吸が上手く出来ないでいる。
『やっぱり、無理、じゃ』
吐くということはステータスに何らか問題となっているだろうと思い、ステーテスを確認してみると、いくつか項目において状態異常の表示がされていた。それにさっき使った精神障壁の効果もかかっていないのを確認出来た。
『とはいえ、一瞬フワッとしたのは感じたから……』
精神障壁は使えたけど、状態異常によって消されたってこと?
「ごめんね、リア。今のその状態は、習得レベルに満たない魔法を無理やり使った際に詠唱者へ起こる反動。使えない魔法を使ったことで体に拒絶反応が出るの。
ちなみに精神障壁は?」
「ステータスを確認した限りではかかっていませんでした。でも、精神障壁を唱えた直後にフワッとしたもの感じたんです……あれは?」
「うん、それは間違いなく精神障壁がかかった際の感覚であっているわ。ただ、そのあと受けた反動によって解除されちゃったの。そのあたりはリアのような異邦人であっても、私達と同じだったってことね」
「なるほど……ということは」
「私達と同様、習得レベルに満たなくても魔法書から魔法を使うことが出来るし、最終的には覚えることが可能ってことになるはず」
新たに魔法を覚えられるってこと自体は嬉しい……嬉しいけど、あの頭痛と吐き気っていうのは必要不可欠なもの?
「マチュアさん、あの……大変聞きにくいことなのですが……」
「吐いた要因、頭痛のことよね?」
「はい……」
頭痛自体もかなりの痛みだったし、そこから内蔵にきたダメージも半端なかった。というか、せっかく精神障壁を唱えられるようになったとしても、その都度受ける反動のダメージによって解除されちゃうのであれば、結局意味が無いような?
「リアが受けたその痛み、この手法で覚える場合には避けて通れないものなの。
もっとも、受ける痛みを事前に教えることによって幾分ダメージは少なくなるし、痛みを和らげるポーションを服用してから唱えることも出来なくは無いわ。でもね、そういう形で痛みを和らげてしまうと、痛みに対して耐性が出来にくくなり、魔法を覚える速度がどうしても遅くなってしまうの」
「はい」
「でも、私は極力この二つの魔法をリアに早く覚えて欲しい。リア自信の身を守るためにもね。だから、敢えてそういう意図をもってキツイ選択をさせてもらっているわ。
そうやって二回目以降も最大状態のダメージを体験し続けた方が、頭と体に反動への耐性が早くでき、最速で覚えられる。だから、覚えられるまでの間は我慢してね」
「はい……い?」
……二回目以降のこと? とても不吉なワードな予感が。
「リアも何となく悟ったかもしれないけど、レベルが上がって覚える魔法やスキルポイントを使って覚える魔法とは違い、魔法書から使う魔法はレベルに満たなくても使える。使えるけど習得レベルとの差分だけ体にダメージが来るわ。
そして受けたダメージによってかかっていたかかっていた魔法も解除されてしまうの。でも、魔法を使用した実績が残る」
「実績が残る?」
実績……それを経験値のことと置き換えたら、
「経験がレベル差を埋める……?」
「ええ、ダメージを耐えきることが出来れば、習得レベルに満たない魔法を覚えられるの。正確には魔法を唱えて効果が発生し、その効果を痛みによって解除されなくなることで覚えられる」
「ということは」
「頑張って覚えて、そしてダメージに耐えきって。
【精神障壁】にしても【心魂障壁】にしても、要求がレベルは二十だからそれほど高くはない、まだ耐えきることは可能な範囲なの。
最終的には本人の努力というか、痛みに耐える気力次第ってことにはなってしまうけど」
「は、はは……」
こう、かなり目の前が明るくなったというか暗くなったという……複雑。
「正直、この方法で魔法を覚えるのはとても効率が悪いけど、リアのレベルが二十に到達するまでヴェルフが待っている保証は無いし、いつあなたのことを拐いに来るかもしれない。だから超強引な手段になるけど」
「大丈夫、ですよ……」
マチュアさんがわたしのことを思ってやってくれているのはわかるし、それ以前に苦しむわたしを見るマチュアさんの悲しい顔を見れば、わたし以上に辛い思いをさせていることだってわかる。
『そんなマチュアさんを見て、逃げ出すことなんて出来ない』
食いしばって全身に力を入れ直し、血が出るほど太ももをギュッと掴んで立ち上がる。そして大きく深呼吸をしてから、
《精神障壁》
「ぐふっ」
マチュアさんの言う通り、頭に響く痛むはさっきと比べて幾分に軽くなった気がする。でもこの一回だけでなく、精神障壁を覚えるまで唱え続ける必要がある以上、弱くなった痛みであってもまだまだ何度も体験しなければならないわけで。
『最初に“MPが枯渇するまで”って言われているからには、十回や二十回ではダメってことでしょ。だったら』
まだ吐ききっていなかったのか、それともただの胃液なのか。とにかく口元についたものを袖で拭ってから、
《精神障壁!》
・
・
・
結局、二つの魔法を覚えるまでにかかった日数は一週間。そして覚えてからも魔法の修練度を上げ続け、マチュアさんから及第点を貰えるまでにもう一週間の時間がかかった。
「目標の持続時間まで出来るようになったわね」
「はい、なんとか」
この二週間、特訓をした後に会うロキシーやロイズさんから「顔色が悪いけど大丈夫?」と心配されたものの「大丈夫!」と去勢を張り続け、なんとか目標としていた“一回の詠唱での効果継続六時間”まで達成することができた。
『ログインする度、“もう一人のわたし”にも非難されたし、本当に大変だったな~……』
自動生活モードであっても魔法の練習は必須だったことから、わたし以上にキツイ時間を過ごす“もう一人のわたし”から(この世界での生活時間が一対二で彼女の方が倍キツイ)、まず最初にブツブツと文句を言われることから始まる状態。
まぁ、その都度『統合したタイミングでキッチリとキツかったのを体験しているから』ということで、なんとか我慢をしてもらっていた。
……実際、自動生活でも他の修練なども含め、かなり濃密なことをしていたわけだし。
「とりあえず、それだけキツイをしてもらう必要が何故あったのか。その説明がやっと出来るわ」
「長い道のりでした」
とはいえ二週間だけど。
「今から話す内容については知っているのはほんの少しの人しかない。でも、ヴェルフはそれを知っているし、リアがその対象だったとわかった場合、可能な限りあなたのことを『手に入れたい、手元に置いておきたい』と思うでしょうね」
「手元にですか……」
何となく、イメージとしては床の間に飾られた置物を想像してしまうけど……そういうのじゃないよね? というか、既にそれに近いことを言われているような?
「そうね、わかりやすい表現をするなら『リアに首輪をして常に手綱を握った状態にしていたい』ってところかな」
「それってペットじゃないですか!?」
いやいやいや、それってどういうこと!?
「ま、あくまで表現だから」
「と、とりあえずそれだけ嬉しくない表現をされるってことは、わたしにとって“かなり嫌な状態”を想像しておく必要があると推測はできましたが」
……さっきから変な想像図ばかり浮かんで仕方がないですけど。
「じゃあ、リアが話を聞く準備も出来たみたいだから、もう少し突っ込んだ話をするわね」
「あ、はい」
えっ、まさかの前フリでした!?
いつも読んでいただいてありがとうございます!
今回も無事にアップできました!
次回も予定通り3月9日にアップ出来るよう頑張りますので、引き続きよろしくお願いいたしますm(_ _)m




