220話 王者達の協奏曲 8
「トム店長、それは何ですか?」
夕食後、スケジュール通りマチュアさんとの戦闘訓練が終わってあと、「訓練でかいた汗を流したいな〜」という願望が抑えられず、本日二度目のお風呂へ。やっぱりゲームの中でも入浴が気持ちが良いのに変わりないです。
その後、つい長風呂をしてしまい火照った体をクールダウンする目的で店内を散歩。営業終了しているお店の中をぶらぶらと歩いてショーケースの確認や商品の陳列を直していると、店舗の奥の方にいたトム店長を発見したので「何をしてるんですか」と話しながら近づき手元を覗きこむと大きな箱が。
トム店長はわたしの方を見てから「別に面白いもんじゃねぇぞ?」と話すと、その箱を机の上へ載せる。
箱には『取扱注意!』と書かれた紙とともにいくつかロックがされていたようで、トム店長はそれら全てを解除すると、箱の中から奇妙なアイテムを取り出していた。
それは長さが約一メートル、直径がおおよそ二十センチほどの黄色みを帯びた半透明な腕っぽいもの。
ちなみに“腕っぽい”という微妙な表現をしたのは、それが半透明なオレンジ色というか琥珀のような色合いをしていたのもそうだし(しかも表面がテカテカでつるんな感じ)、大きさや太さなどを見ても人間っぽく思えなかったから。
それに“生臭くない”という表現もあれだけど、見た目だけなら『プラスチックで精巧に作られた模造品』と言ったほうがしっくりくるし。でも、
『この妙な感じっていうか見ているだけで何かゾクッとするのは一体なに? そもそもあれは何かから型をとったモノなのか、それとも……』
ちなみにその腕には複雑な文字が書かれた紙がペタリと貼ってある。何と書いてあるかサッパリわからないので、とりあえず一旦スルーするけど……この妙な感じってあの札からだったり?
「何をブツブツ言ってるか知らねぇが、まぁ一応説明してやるとコイツが前にオメーに話していた義手に使う“素材”だ」
「それが素材??」
義手って言っていたから、トム店長らしくもう少し機械っぽいものを想像していたのですが。
『あ、そういえば“PAの技術を流用した義手”とかって言ってたっけ。ということは半透明な腕をベースに機械的な義手を作るってことかな?』
そう考えると半透明な腕が素材だというのも、何となくだけど理解出来そうな気がする。
……何となくだけど。
「トム店長ってそういう補助具も作っていたんですね。店の中で陳列しているのを見たことが無かったので知りませんでした」
「ん? 当たり前だろうが、そんなオーダーメイドなものが店に並ぶ訳ねぇだろうが」
『うん? オーダーメイドだから並んでいない??』
いたって普通な会話のはずなのに、何かが引っかかるような。
「あー、そういうことか」
わたしが引っかかりの原因に辿り着く前にトム店長が頷きながら話し始める。
「俺が作るのはオメーが考えているような補助的な義手・義足じゃねーぞ?」
「えっ、義手や義足って失ったものを補う道具ですよね?」
前と同じように物を掴んだり、普通に歩けるようにって。
「まぁ普通に考えたらそうかも知れねぇが、それはオメーの世界での物差しで見たものだ。
だがな、この世界とオメーの世界とは違うんだよ。冒険者にしても、騎士や兵士にしてもテメェの命を賭けて生きているような奴らばっかだ。
そんな奴らが如何なる理由であれ、テメェの一部を失ってそのままでいられると思うか? 負けたら終わりで大人しくしているようなタマばっかりだと思うか?」
「……違う、のですか」
義手や義足になればある程度の正確には困らなくなるとは思うけど、前と同じような俊敏且つ繊細な動きは出来なくなる。そう思うのが普通だと思ったのだけど……間違っている?
「ハッ、勿論そのまま一線から退くような奴らも僅かにだがいるだろうよ。
だがな、大多数の奴らは違う。テメェに傷を負わせた奴らに対して、テメェ自身の存在を賭けてリベンジしないと前に進めねぇような奴ばっかりだ。
テメェの腕を切り飛ばした兵を、足を食い千切った魔物をテメェ自身の手で倒し、『自分はまだこの世界から退場していない!』ってことを証明してみせる、そんな馬鹿な奴らよ。
……笑えるだろ?」
「笑いません!
……正直怖いとは思いますが、そうやって自分自身の存在を自らの手で証明しようとすることを凄いと思うことがあっても、笑うなんてことはありません!」
自分に同じことが出来るかと言われてもわからない。でも、それをやろうとする人を馬鹿にして笑うなんてあり得ない。
「フッ、そうかい。ま、それならそれで構わんよ。
とりあえず、そんな感じで血が気の多い馬鹿な奴らからの依頼だからこそ、俺は面白いと思って受けているし、やるからにはそいつらの気持ちに応えてやりたいと思っている。
俺は冒険に出るような事はできねぇ。だからこそ、その分の思いも托した特別製の……どんな戦闘にも耐えうる特別な義手・義足を作ってやるのさ」
「……そうだったんですね」
トム店長はトム店長なりに、冒険者のことを気にかけている事を知れたのがちょっと嬉しく感じれた。
彼らの思いを支えてあげたいというか、気持ちを形にしてあげたいっていうか……そういう人としての温かみみたいなものって、今までトム店長からあんまり感じることが無かったから、ちょっと意外というか不思議な感じもするけど……
『口に出したら怒られそうだから言わないけどね』
はい、自ら虎穴に行くようなマゾではありませんから。
『そう言えば、マチュアさんの話だとロイズさんも“自分の変わりに”っていう思いを込め、わたしを鍛えてくれているって話だっけ。
トム店長とロイズさん、やっている内容もやり方も違うけど、何となく似たような考えがあるって事なのかな?』
トム店長の話を聞いて、マチュアさんがわたしに言ったことが思い出される。何にせよ、支える・支えられるのは大事というか、ありがたいことだなって改めて思う。
『改めて思うと言えば……』
不意にトム店長の前にある半透明な腕を見る。
「ちなみに……特別な義手って、ロケッ○パ○チとかじゃないですよね!?」
「は? ロ○ット○ンチ? なんじゃそりゃ??」
「あ、いえコチラの話です……」
なんだか“そう聞け!”という声がした気がものでして……とりあえず話を戻しておこう。
「すみません、義手って聞いても普通に動くもの(いわゆるサポート系?)しか想像できなかったもので」
「ま、普通の義手も作れねぇことは無いが、普通の義手はそれ専門の奴ら任せると決めているからな。
そして俺は俺でそいつらが作れない、過酷な運動や戦闘に耐えうる義手・義足を作ると。その方が効率的だろうが」
「なるほど」
トム店長の中で役割りを分けてるんだ。
「とはいえ、実際にオメーに話したような優れた能力を有した義手・義足を作るのは簡単じゃねぇぞ? それなりの知識と技術、あとはコイツが必要だからな」
そう言うとトム店長は手にした義手の素材をコンコンと叩く。
「意外に軽そうな音ですね」
改めてトム店長の近くに移動して半透明な腕を見てみる。軽そうな音とは真逆に、見た目だけなら琥珀みたいに見えるから、かなり重そうな物体にも見えるけど……
「これが何か興味があるか?」
「えっ? えーっと、あると言えばあります。というか妙に気になってしまって」
うっ、読まれてた!? 興味が無いと言えば嘘になるけど、変なことにハマってしまうのが怖いのですが。
「かなり前だがオメーに話していた愚者人形っていう魔物について覚えているか?」
「はい、PAPを自動化で動かす際に神石の代わりとして、愚者人形の脳ミソを使っているって話でしたよね?」
未だに愚者人形自体は見たことが無いけど、なんとなく気持ち悪い人形のような形を想像している。
「もしかして、半透明な腕が愚者人形の腕なんですか?」
勝手に想像していたとはいえ、オドロオドロシイものを想像してことから、目の前にある物体と一致がしづらい。
「いや、愚者人形はもっと肉々しいぞ。オメーの想像に近いな」
「なるほど……って、やっぱり顔に書いてありますか!?」
マチュアさんといい、トム店長といい、こちらの考えをいつも正確に捕らえているというか、なんというか……はぁ。
いつも読んでいただいてありがとうございます!
今回も無事にアップできました!
次回も予定通り2月17日にアップ出来るよう頑張りますので、引き続きよろしくお願いいたしますm(_ _)m




