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208話 幕間 国の形 3


《さて、そんな訳で今日からオレが臨時国家カラドボルドの元首となったんだが》

 再び前に出てきたヴェルフさんが語り始める。



《みんな、自分の意志で生きているか?

 つまらないしがらみや、歴史に縛られて生きていないか? もし、そんな縛られた人生を過ごしているとしたら、その人生は愉しいか? 胸を張って他人に威張れる人生か? 訳のわからない理由で、納得いかない理由で理不尽な扱いを受けたことを、与えなければならなかったことは無かったか?


 そりゃあ、人によって人生に求めるものは違うし、価値観も違う。目標とするゴールも違うのはわかるし、それを否定する気は全く無いさ。でも己の意思ではない“他人によって定めされた”教義に縛られ、脱線を許されない人生っていうのを送っている人がいるのなら、オレはそれを正しくないと思うんだ。

 もっと言えば、自らの主張と異なるからといって他国だけでなく自国の民すら選別したり、更には異なる教義を持つ民全てを認めることをせず、共存も共感も許さない世界を良しとするのをオレは認めたくない。


 なぁ、どうして同じ世界で生きる人達が“自分と違う”・“教義に背く”という些細な理由だけで差別され、選別され、迫害され、そして最後には滅ぼされなきゃいけねーんだ? おかしいだろ?


 だから、オレはオレの考えを共有し、目指すことができる仲間達と一緒に“共存を許さない世界”を相手に喧嘩を売ることにした。別に“世界平和”なんていうものを目指すつもりはない。目指すのは“全ての人々が共存でき、人生だけでなくどのような機会や挑戦(チャンス)でを公平に得られることができる世界”だ!


 その手始めが独国を野蛮な国と蔑み、抑圧してきた公国の打破だった。別に公国自体を憎くて滅ぼしたのではないことだけは知っておいて欲しい。逆に公国は人とエルフとドワーフという中だけで見れば過ごしやすかった国だったとは思う……亜人への迫害がなく、普通の応対が出来ていればだが》



『そうなの?』

【そうね、それを迫害というかは私にはわからないけど、された方から見てみたら迫害に近かったのかもしれないわね。 ……自分がその立場にいないとわからない問題だと思うわ】

“もう一人のわたし”だって全てのことを知っているわけじゃないから正確にはわからないか。



《今回、公国という大国をフーラを始めとした独立国家(ロイゼン)の民の力を借りたことで打破することが出来た。やり方などを含め賛否は色々とあると思うが、この結果をもってザヴォル・ギ・デアモノード殿もオレの考えに賛同し、国と民全てをオレに預けてくれることになった。これからは全力を持って公国の民にもオレの考えを説明し、納得がいった民だけでも力になってもらおうと思う。


 故に今回オレが説明したことで納得が行かない民が旧独国や公国にいるのであれば、オレはそれを認めないと言わないし、他国へ出るというなら引き止めはしない。もちろん、反逆者として追うことだってしないことを約束する。


 逆にオレが話したことに賛同し、一緒に行動を共にしてくれるのであれば両手を広げて歓迎する。国が異なっているなんて些細な話だ! それがどこの民であっても、どんな人種であってもオレはそれを受け入れる。


 エルフもドワーフもホビットもグラスランナーも、亜人も獣人も翼人も。魔人や竜人だって構わない。来る者は拒まない、臨時国家カラドボルドはいつでも門を開いてる! それこそ国単位だって構わない!

 だから、》


 神代(かみよ)映証(えいしょう)に写ったヴェルフさんが話すのを止め、まるで全てを見通すような目としてから、カメラ?越しに薄く笑いながら視聴者(こちら)を見る。



《全世界、全国家、オレの考えに反対する奴ら全てにオレは喧嘩を売る! 文句があるならかかってこいよ!

 オレはオレの考えのもと、同じ考えを持つ仲間と全土を統一し、自分の考えが正しかったことを証明してみせる!》




「メ、メチャクチャなこと言ってるじゃない!?」

 至極まともなことを言っているようで、結局は全土での戦争を起こしたいってことじゃないの!


「そうね、かなり無茶な話だと思うけど……私達は基本的にこの世界の住人じゃないからわからないし、この世界の奥深くに存在する問題全てをわかりはしない。でも、彼が言った発言を聞いて揺さぶられる人達がいるのなら、」

「いるのなら?」

「今まで存在した“帝国vs連合国”という盤面は崩れ、世界規模の混乱と戦争が起こるでしょうね。

 ……誰が勝利するのか全くわからない戦争が」


 ロキシーにしては歯切れが悪い、それでいて一つ一つの言葉が重い返答。でも、実際にこれから何が起こっていくのかがわからない状況に対し、正直なところどういう風になるかなんて誰にもわからない訳で。





《あー、あとアルブラでコレを見ているだろう異邦人、コーデリア・フォレストニアにオレから話がある》




「うぇ!?」

 な、なに? っていうかさっき話していた内容が大きすぎて、事前にロキシーから聞かされていたことをすっかり忘れてた。そして隣にいるロキシーを見てみると、残念そうな表情というか、可愛そうなものを見るような目でこちらを見ている。




《アルブラでの戦闘や、近郊でのPAを使用した戦闘でオレの仲間達が随分と世話になったという話を聞いている》




「えーっと、そうだったかなぁ……」

「シリュウとかそうなんでしょ? あとPAの戦闘って言っているし」

「んぐ」

 そういえばシリュウって元帝国の人だって話だったし、PAの戦闘に関しては、そのシリュウと関係があったモモさんを含めた部隊との戦闘だったっけ……




《それらを踏まえて、尚オレはお前に言いたいことがある!

 まぁ、元々最初に会った時に言うべきだったとは思うが、あれから色々と物事が起こることを知っていたオレとしては、それらを乗り越えられるだけの人物であるかどうかを見極める必要があった、スマン!》


「はぁ……」

 別に謝られるようなことなんて何も無いのですが?


「まだ話は終わってないからね」

「あ、そうよね……」

 うぅ、そんな簡単な話じゃないか。




《そしてオレの仲間達の前に立ちはだかったお前はそれらを全て倒していった。ハッキリ言ってその結果は予想以上だ! そんな素晴らしい結果を残したからこそ、オレは仲間達にすら言ってなかったことを自信を持って言うことができる!


 お前が欲しい!


 オレ好みの顔も抜群なスタイルも、見事な料理の腕や同じ師に習った武術の使い手であり並び立てるだけの強さも、そしてお前がこの世界で選んだ生き様も……それら全てに惚れた!


 そんなお前がオレは欲しい! そしてオレと添い遂げて、お前の力をオレに預けて欲しい。

 オレと、オレ達と一緒に目指す新しい世界にお前とお前の力が欲しいんだ! そして将来的にはオレの子を産み、共に世界へ覇を唱える存在になって欲しい!》



 ・

 ・

 ・



「は?」

 思考が止まる。


『今ヴェルフさんは何って言った? お前が欲しい、惚れた? 添い遂げてくれ? そんな話もあれだけど、その後にもっとおかしなこと言ってなかったかな? もっと先に変なことを……』

【……現実逃避もいいけど、この放送は全土で流れているのを忘れないでね?

 顔とか出ていないからまだ良いかもしれないけど、異邦人でそういう名前の人がアルブラにいて、今起こっている渦中の人物から公開プロポーズされたってことは理解しておきなさいよ】

『……』



「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 何を言われたか頭の回転が追いつかず、血の気が引いたかと思ったら体中が火照るというか、細胞レベルで沸騰しそうな感じにただ声に出して驚くことしか出来なくなる。



「いやいやいやいやいや! おかしいで」



 んぐ



「静かにしなさい!」

 冷静そうに見えて、よく見てみると真っ青な顔をしたマチュアさんは、わたしの後ろから回り込むと右手でわたしの口を塞ぎ、左手で腕を固めて身動きがとれないようにしていた。


「こんなところで大声出していたら、アイツが話している相手が自分だっていうことをまわりに教えるようなものよ。わかったら静かに頷くこと」



 コクコク



 とりあえず言う通りにマチュアさんを目で捉え、二度ほど頷くことでその状況から開放されたのだった。




 ……っていうか、何コレ?


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