206話 幕間 国の形 1
《あー、あー、マイクテステス。
シリュウ、これきちんと聞こえてるか? えっ、もう始まってるって!?》
神代の映証に映し出されたのは、演壇を中心としたかなり豪華な部屋。そしてその演壇には三人の人物が立っていた。
その内二人は肌の色からも亜人だと推測できた。しかも神代の映証越しにもかかわらず、高貴な人だということが感じ取れるぐらい気品のあるオーラが出ている。
そして残ったもう一人は、褐色の肌とロイヤルブルーの瞳をした若い男性。見た目的にはやや細そうな感を受けるけど、普通に立っているだけのはずなのに、その立ち姿には一切の隙や無駄が無い。
ちなみにこの人からも高貴というか独特なオーラが出ているような……
ドクン
『んん?』
たぶん、あの褐色の肌をした男性こそがさっき喋っていた人だと思う。ただ、その姿を見た瞬間から体の奥底の方で何かがわたしへ訴えかけてくる。
『っていうか、この感じって……』
すごーく前にあったアレに似ている!?
ま、まぁあの時はハルに抱きつくという意味不明な行動をしていたけど、今この場にはハルを始め抱きつくような人はいないから大丈夫! ……たぶん。
な、何かあればロキシーかマチュアさんに抱きつこう!
『……大丈夫だよね!?』
とはいえやっぱり気になるもので。
「スー、ハー……」
と、とりあえず深呼吸! 頭の中を落ち着かせ、気持ちを冷静な状態に戻してから、再び神代の映証に、そして褐色の男性視線を送る。
『えーっと、見た目はわたしと同じぐらいかな?』
ここ最近、見た目と実際の年齢との乖離が大きい人よく見たこともあり、外見から見える年齢を鵜呑みにするのは危険かもしれないけど、仮で同じぐらいとしておこう。
『あとは……』
とりあえず年齢は参考値にするとして、さっきの声ってどこかで聞いた気がするのよね。それにあの褐色の肌にロイヤルブルー瞳のコントラストも……
「うーん、どこだっけ……」
「どうしたのリア?」
「あ、うん。いま演壇に立っている人をどこかで見たことある気がするの。でも、どこで見たかの記憶が曖昧で……」
ウンウンと唸るわたしを見てロキシーが話しかけてくるけど、どうにもしっかりとした返答が出来ない。なんだろう、すごく気になるのに出てこないのが煩わしいというか。
そんな時、
ガシッ
「うえっ?」
「リア、アイツを見たことがあるの!? どこで!?」
マチュアさんが驚いたような表情でわたしを見ると、驚いた表情のまま両手で肩を強く掴む。
「マ、マチュアさん!?」
「大丈夫? おかしなことされなかった? 見つめられたり、妙にアイツに抱かれたいとか思わなかった??」
「え? えっ、はい、大丈夫だったと……というか、どこであったかを思い出せなくて」
急に強い感じで質問をするマチュアさんの方に驚いてますけど……そこまで気にするのって?
「ハッ、奴のチョッカイなら俺が邪魔しておいたから大丈夫だ」
「そう、よかったわ……」
『ん?』
心配するマチュアさんに対し、横にいたトム店長がそう答える。
って、トム店長が答えてるってことは……あっ!
「あの人、前にダラスさんと一緒にお店に来た人ですよね!」
あの時はフードを被っていたからハッキリと顔を見ることはなかったけど、一瞬だけあのロイヤルブルーの瞳が見えて、妙な感覚に陥ったんだっけ。というか、
「マチュアはあの人を知っているんですか?」
「ええ、知っているも何もないわよ」
マチュアさんは苦虫を潰したような表情でそう答える。
「私が“緋蒼流格闘術”を直接教えたのは後にも先にも二人だけ。一人はあなた、そしてもう一人はアイツよ」
「そ、そうなんですね」
うう、マチュアさんがさっきまでとは急に変わり、まわりにまで伝わるぐらいのピリピリとした気を纏っている。
『怒っている? ……違うこの感じはどちらかと言えばあの人を恐れているような!?』
笑ったり怒ったり色々なマチュアさんを感じてきたけど、こんな感じは今まで受けたことが無い。
「アイツがこの街に来ていたなんて……初耳よ!」
「そりゃそうだろ、ダラスと一緒に俺のところに来ただけだろうからな。
アイツらがどんな理由でこの街にいたとか、そんなことは俺にとってはどうでも良いし関係ねぇ。だから誰かに言いふらすようなモンでも無ぇ」
「でもアイツは!」
「俺には関係無ぇって言ったらそれまでだ、それ以上も以下も無ぇ。アイツがどこの誰かなんていうことは俺には関係が無ぇんだよ。
よく聞け、テメェらの考えを俺に押し付けようとするな。それが普通でも異常でもだ。いいな?」
最初はかなり怒った感じのマチュアさんだったけど、トム店長が静かな、それでいて一切の口ごたえを許さないような強い返答に対し、奥歯を噛んで黙り込む。
「ま、そう怖い顔してるんじゃねぇよ。テメェが撒き散らした怒気で、まわりにいる奴らが不安定になってるじゃねーか?」
「!?」
うは、言われてみると確かにロキシーをはじめ、近くにいる人達が恐慌状態になりかけてるし。
「おい、オメーなら恐慌解除使えるだろ」
「あ、はい。今すぐ!」
《リカバリーフィアー》
単体指定ではなく、範囲指定 (しかも最大範囲)でリカバリーフィアーをかけると、さっきまでが恐慌状態になりかけていた人達が通常状態に戻っていく。
「……ごめんね」
「い、いえ! 問題ないですよ!」
自分が起点となってまわりを恐慌状態にしてしまったこと、そしてそれを解除したことに対し、マチュアさんがわたしに頭を下げる。
というか、かなり広範囲にわたって多くの人たちが恐慌状態になりかけていたけど、わたしはレジストようで良かったというか、レジストできる力があって嬉しかったというか。
【力っていうよりも、単にあの人にしごかれていたから抵抗が出来てたんじゃ?】
『いや、ここは素直に自分の力として喜ぼうよ!?』
す、少しは自慢したいし。
《さて、お待たせして悪かった。どうにも初めて使うモノだから、オレもスタッフもわかっていないところがたくさんあってね。ま、うちの天才がコイツの使い方をマスター出来たみたいだから始めさせてもらうよ》
そんな一人 (二人?)ツッコミをしていると、神代の映証に写っていた人物が話し始める。
『空気が、重い』
神代の映証があそこに浮かび上がった時にはここまで空気は重くなかった。たぶん、わたしを始め多くの人達が今から何が起こるのかを固唾を呑んで見守っており、それが辺り一帯に伝播しているのだと思う。
「始まる」
マチュアさんが恐れ、トム店長と関わりがあり、神器なんていうものを使う資格が与えられた特別な人。その人が話す内容は……




