205話 アルブラ動乱67
「見たくなければ別にかまわんぞ。
だが、テメェ自身だけじゃなく、この先テメェが関わるであろう奴らのことを少しでも知っておきたいと思うなら、これから始まる“クソ面白くない放送”を見聞きしておくんだな」
ノックすらなく激しい勢いで扉を開けたトム店長は、そう言い放ってわたしを見る。
【“クソ面白くない放送”ねぇ……】
『わかるの?』
【内容はわからないわ。でもこの音の正体と、これから始まることは何となくわかるかな】
『何が起きるの!?』
【もうここまで来たら聞くより見た方が早いわよ。ほら、あそこを見て】
“もう一人のわたし”が指差す方向。窓から見える夜空に“四角くて大きな何か”が存在していた。
それは立体的な感じではなく、ここから見ても薄っぺらい黒い板のような感じ。しかもそれは黒色の物体にもかかわらず、ほぼ同色となっている夜空の黒色に溶け込むこともなく、違和感というか、妙に浮いたような印象を受ける。
『んー、アレって、どこかで見たことあるような……』
「マチュアさん、アレって」
「わからないわ、私が生きてきた中でもあんなものを見たことは無いもの」
マチュアさんでも見たことが無いって、一体アレは……
「神代の映証だ」
「神代の映証……ってアレが!?」
見てもわからなかった正体。でも、トム店長からその名前を聞くことでマチュアさんにはアレが何かわかったらしい。
ただ、アレが何かわかった割にはその顔色が優れない。
「神代の映証、アレは創造神ヌルのみが使える神器だ。ま、オメェの世界で言うならアレ自体は映像を映す屋外画面って奴だな。
面倒なことや騒がしくなりそうな事件があった時、偉ぶった奴等が何かしらの情報を発信する時にああいったモノを使ったりしてるだろ」
「あー、なるほど」
言われてみれば、確かにあの外見も情報を映し出す屋外型ディスプレイぽい。公的な建物やショッピングモールなんかでよく設置されており、市政放送や緊急速報を流していたっけ。
『さっき感じた“見たことあるような印象”っていうのも、きっとそれよね』
とすると、トム店長が言うような“情報の発信”っていうのは、たぶんニュースとかになるとは思う。でもここまで特別視するようなもの?
『このPAの中でだってニュースなら見たことあったから、そういう情報網というか組織的なものはあるわよね?』
まぁ、さすがに神代の映証みたいにデカデカと写すようなものじゃなくて、新聞とかに印刷するような活字モノしか見てないけどさ。
『それに情報を映し出す技術っていうなら、PAやPAPにも入力用のデバイスを通してコクピットのディスプレイに外の状態を映せているわけだし……
ま、大きさは別としても技術的な面で考えると、そこまで特別と言われるモノじゃないような?』
とはいえ、ここから見てあの大きさなら実際にはかなり大きなものだと思うわけで。そういう面ではアレをあそこに置くというか、映し出すのは凄いんだろうな〜というのは思うけど。
というか、そもそもさっきまであそこにあんなモノはは無かったはずだから、“神器”って言うぐらいなこともあり、すっごい機能とか特別な魔法とかが関係していそう。
結局、アレは色々と訳ありで特殊な力を持ったモノだということなんだろうけど……いまいちピンとこないワケで。
【物理的にもだけど、神代の映証が出てくること事態が異常と考えて】
『異常!?』
異常って言われると、なんだか急に神代の映証がイヤなモノに見えてくるのですが。
【あの人が言ったように、神代の映証は“神器”よ。この大陸であれば、地上でも地下でもPAの中ですらアレを見ることができるわ。
……それこそ、意図していなくてもね】
『それって、強制的にって事じゃないの?』
【そうなるわね】
『いやいや、それってめちゃくちゃ問題があるんじゃない!?』
内容如何によらず、それを見たくない人にも強制的に見られる、見せられるって普通じゃないでしょ!
【だからこそ、神代の映証は十二柱でも筆頭となる創造神ヌルが直接管理する神器だし、使用に関しても他の神器以上に制限やルールがあるわ。
まず、使用できるのはそれなりに高位な者のみ。そして使用時には創造神ヌルと、ヌル以外の神々の中から三柱の許可が無いと使えない】
『ちょ、ちょっと待って』
創造神ヌル様が管理するってだけもかなりヤバそうなものなのに、それを使用するためには十二柱、その三分の一の四柱の許可がいるってことで……それって、
『これから世界レベルの何かが発信されるってこと!?』
【そう考えるべきね】
さすがにそんな説明を聞かせられたら、マチュアさんの顔色が優れない理由もわかる気がする。
「で、オメェらはどうするよ」
「外に出て見ます。マチュアさんも良いですか」
「……ええ、ここからでも見えるとはいえ、さすがにあんなのが出ている以上、直接見るべきでしょうね」
わたしはマチュアさんの返答に頷くと、トム店長と三人で建物の外へと移動し、今から始まるであろう神代の映証からの放送を待つことにした。
そして、
ビッビッ! ビッビッ!
外に出たタイミングで、再びあのアラート音が鳴り響く。まわりを見てみると、この世界の人や異邦人など、とにかく人種を問わず多くの人々がわたし達と同様に外に出ては神々の映証を訝しげに見ている。
「リア!」
「ロキシーもログインしていたのね」
急いでこちらにきたのか、肩で息をしながらロキシーがわたしの元へやって来る。
「色々とお屋敷の片付けをし終わって、リアの所に行こうとした矢先に変なアラート音とアレの出現でしょ? っていうかアレは何?」
「トム店長の話だと、神器の一つで映像を全土に流せられるものらしいよ」
わたしはトム店長と“もう一人のわたし”から聞いたことを簡単に伝える。
「今のを聞く限り、どう考えてもイヤなことが起こり……」
そう言いかけてロキシーの言葉が止まる。
「どうしたの? もしかして」
「ええ、ほんの少しだけ視えたわ……今から始まる内容だと思うけど、一部分だけがね」
ロキシーはそう話すと私の両肩に手を置く。
「どうやらあなたにも関係あることだから、しっかりと聞いていたほうが良いわよ」
「え、えぇ……」
わたしに関係があるって……いったい何が!?
「始まるわ」
「あ、はい」
ロキシーにそんなことを言われ、軽く頭がフリーズしかけていたところをマチュアさんの一言で元に戻ることが出来た。その矢先、神代の映証に光が灯る。そして、
《あー、あー、マイクテステス。
シリュウ、これきちんと聞こえてるか? えっ、もう始まってるって!?》
えーっと、この締りのない始まり方は……
いつも読んでいただきありがとうございます。
そして誤字脱字の報告も本当にありがとうございますm(_ _)m
スマホの(というか辞書の)自動変換はラクですけど、誤字脱字を生み出す箱でもあると実感しております。(´・ω・`)




