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204話 アルブラ動乱66


「“羅刹の息吹”って、一応効果やデメリットとして何があるかはわかるようになっているけど、使用者が“もっとも知らなければいけない”ことが書いてないのよね。

 ……まぁ、能力が良すぎるものだから、それを知っても使っちゃう使用者が殆どだけど」

「教えてください」

 そこまで聞いてしまうと、さすがに気になるというか、知らなければならないという思いにはなる。


「教えるのは良いけど、その変わり私が言った通り“羅刹の息吹”については原則使用禁止のルールを守ってもらうわよ?」

「はい」

 マチュアさんはわたしの返答を聞くと「約束よ」と言ってから再び話し始めた。



「“羅刹の息吹”、そのマイナスの効果はね……」

 マチュアさんはそう言って一枚の紙をわたしに見せる。その紙にはマチュアさんのステータスが事細かく書いてあった。ただし、その紙に書いてある日付は今から十年前のもの。


「これは……十年前のマチュアさんのステータスですか!」

 さすがに異邦人の冒険者とは異なり、この世界の住人であるマチュアさんのステータス値はもの凄く高いものばかり。なんだかもう人間とは別の存在じゃないかと思えるぐらい。


 一応、わたしもこの世界における命の価値を変えてもらったことで、異邦人の冒険者と比べればそれなりに高くなっているはずなのに、正直そんなわたしなんかでも、まだまだ足元にも及ばないぐらいの値ばっかり。



「そ。そしてこれが割と最近のステータス」


 そう言いながらもう一枚の紙をわたしに見せる。ステータスの値としは十年前と同じか上がっているものばかりで……ん?


「アレっ?」

 もう一度前のステータスの紙と見比べてみるけど、やっぱりおかしい箇所が。


「あの、これ記載ミスか何かですか? HPと生命力だけが、十年前よりもかなり減っていますが?」

「ううん、間違いじゃなく減ってるわ。それは記載ミスでも何でもない紛れもない事実よ。

 そしてそれこそが“羅刹の息吹”が持つマイナスの効果、“命の摩耗”よ」


「命の摩耗!?」

 わたしが生活してきた中で聞いたことがない言葉。でも、なんとなくその意味が途方もなく重たいものだということだけはわかる。



「“羅刹の息吹”は使うことで自分の価値を一時的に引き上げるわ。

 でも、その代償はHPやMPの消費だけで収まらない。その人が持つ“命”を“永続的”に削るの。

 それこそ、きちんと確かめるすべは無いけど、使用者の“寿命”すら削っているとも言われているわね」

「寿命を削るって……本当ですか!?」

 さすがにそれは思ってもみなかった内容だった。


「あくまで言われているってことよ?

 ま、でもこの闘技を持つ人達って、ほとんどが戦争や戦いにおいて命を落としていると思うから、最後まで寿命を全うしている人を捜す方が無理かもね」

 そうあっけらかんと話すマチュアさんに悲壮感は無い。それはマチュアさん自身もわかって使ってきているからなのか、それとも自分もそこまで長生きすることが無いと思っているからなのか……



「ま、とにかくそんなこともあるから、まだ先のあるリアには“羅刹の息吹”を使いまくって欲しくないの。

 異邦人のままだったら問題なかったのかもしれないけど、私達と同じになってしまった以上は命を大事にして欲しいのよ……わかってもらえるかしら?」


「……はい」

 マチュアさんにそこまで思われている。わたしにとっては、そちらを優先して考えることに異存も異議も何もない。


「じゃ、ちょっと手を出して?」

 言われるまま左手を出すと、マチュアさんはまるで大事な宝物を触るように、両手で優しく包み込む。そして、



 ガリッ



 両手のうち、放した右手の人差し指を強く噛んで血を滲ませると、その指先をわたしの左手の甲へ移動させる。


『これは……』


「あぁ、そういえばリアはゲーニスでファナにされていたわね。あの時はゲーニスでの武力行使禁止の印だったかしら」

「はい、そうですね。そういった事は何もしなかったので印が発動することはありませんでしたが」

 発動したら全身に痛みが走るってファナさんは言っていたけど……


「いまリアにしているのもアレと似たようなものではあるけど、少しだけ性質が違うから」

「性質が?」


 正直、あの時ファナさんがわたしの手にどんなものを描いていたのかまでは覚えていないけど、いまマチュアさんが描いているものとは、どことなく違うような気がする。



「ファナがしていたのは権限を持つ者が誓約をかけるもので、それに反するとダメージとして誓約者に返るもの。でも私が今しているのは」



 ジュッ



「熱っ!?」

 手の甲に描かれた印が発光すると鋭い痛みではなく、熱を含んだ印が、まるでわたしの肌と言わず手の内も外も焼くような感覚に思わず驚く。


「私がしたのは、師が門弟に禁を課す印。本来この印は師が己の門弟に、流派の掟や決まりを教え、守らせる際に使用するものなの。世の中どうしても師の言うことを守れないおバカな子がいるからね」

「あははは……」


「でもリアに今描いた印は禁を守らせるだけのものじゃないの。それをより強力にしたものだと考えてもらえればいいかな」

「より強力、ですか」

 すごく不安になる言い方なんですけど……



「今リアが感じた痛み・熱さは課した禁を破った際に発動するもので、例えるなら導火線に火がついたようなものだと思って」

「あの~導火線って聞くと爆発するのを想像するのですが」

「ええ、そうよ?」

 マチュアさんは『それが何か?』と言わんばかりな顔でわたしを見る。


「いやいやいや、ちょっと待ってください。

 あの、さすがに爆発するって聞かされると怖いというか何というか」

 というか、ぶっちゃけ体の中に爆弾を仕込んだようなものを想像すると、非常に不安になるのですが。


「大丈夫よ、禁を破らない限りは爆発しないし、何かで誤って暴発するなんていうことも無いから」

「はぁ……ちなみに禁ってどのようなものですか?」

 わたしのそんな問いにマチュアさんは何かを思い出したような微妙な笑みを浮かべ、



「私もそうだったけど、強い力って持っちゃうと絶対使わないなんて出来ないのよね。

 一度体験してその強さや効果を知ってしまうことで使わないという選択肢は失くなり、ちょっとでも不利な状態になったりすると、ついつい使いたくなっちゃう」

「マチュアさんでもそうなんですね」


「ええ。だから使わざるを得ない場面に出会い、使うことになったとしてもリアの命の負担が限られるように。そしてそれ以上使うことが物理的に出来なくなるよう、使用についての制限を禁として課せてもらったわ」

「なるほど」

 マチュアさんとしてもわたしのことを考えてのことだから、そういうことであれば素直に聞くことしか出来ない。


「で、禁として課した内容については“羅刹の息吹”を“一日一回、発動を三分以内”とさせてもらったわ。だから三分を超えたり、二回目を発動させると印に溜まった力をトリガーに、印の描かれた左手が爆発する。そうなれば戦闘を継続することは出来ないでしょ。

 ……って、そういえば教えた技で一度手首から先をふっ飛ばした状態でも戦っていたっけ。

 だとしたら手が爆ぜるよりも、肩から先が消し飛ぶぐらいにしておいた方がよかったかしら」

「だ、大丈夫です。あれは本当に痛かったし、あの状態を思い出したらとても戦闘を継続するなんてこと出来ないですから!」


 マチュアさんに教えてもらった 《通天砲(つうてんほう)・爆》。あれを使ってタウラスさんとの戦いには勝つことができた。ただ、その時に技の効果というか特性的なもので右手を派手に爆発させており、その時に感じた痛みを思い出すだけで何やら嫌な汗が額から流れてくる。


『っていうか、さっきから痛かった思い出ばかり出てくるのですががが』

 おっかしいなぁ、痛いのってすっごく嫌いなはずだったのに、もしかして……


【ほら、やっぱりそっちのけがあるんじゃないの?】

うっ、“もう一人のわたし”のツッコミに否定できなくなってきているような!?



「何やら悶ているところ悪いけど、最後に三つ目のことだけど」

 そうマチュアさんが言いかけたタイミングで、



 ビッビッ! ビッビッ!



 どこからともなく聞こえるアラート音が、家の中どころか街中全てに鳴り響く。


『この音って』

 ついさっき統合(インストール)見返(ロード)した時に見聞きした音と似ている。

 でも、どことなく心の中がザワつき感じを覚えるこの音は、さっきの音と似てはいるものの、何か根本の部分で違うような感じがする。そして、それは目の前にいるマチュアさんの表情からも感じ取れた。


「マチュアさん、この音は」

「私も聞いたことが無いわ。でも、この音を聞いているだけでこれから大変なことが起こる気がするわね」



 ドン!



「トム店長!?」

「表に出ろ。これから“クソ面白くない放送”が始まりやがるから見ておけ!」

 


 ……“クソ面白くない放送”って一体!?



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