199話 アルブラ動乱61
自動生活に変わってから二日目の夜。
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ゴンゴン
【無粋なノックですね】
「するだけマシだ」
そう言いながらトム店長は私の部屋に入ると近くの椅子に腰掛ける。
【こんな時間に若い女性の部屋に入るなんて、傍から見たら何を言われるか】
「ハッ! 別に構いやしねぇし、そもそもこの部屋に入ったこと自体が外から見てもわからねーじゃねぇか」
……まぁ、確かにそうですが。
【それで、こんな時間にどのような用事が? さすがにこれ以上の作業は拒否しますよ】
ここに戻って来るとすぐにPAを出すように命じたトム店長は、目の前に出されたハマルを見て数秒固まり、その後は烈火の如く怒りはじめました。
数秒後にはトム店長も私へ文句を言ったところで仕方がないと気が付くと、
『まぁ、本人が来るまでハマルをボロボロのままにしておく理由も無ぇよなぁ?』
と凄みながら言い、私を工房の修理ブロックへ押し込めると、日が暮れるまでハマルの修理をさせました。
「ハッ! 何を言っていやがる、修理っつーてもテメェがやったのは強制換装によって破損した装甲部分の修理とか、そこらのガキでも直せるようなとこばかりじゃねーか!
バカみたいに高いところまで跳んで、着地した際に破損した脚部のジョイントや、やたらと過負荷をかけたことで爛れた銃口部分なんかはオレが直したんだが?」
【限界点を超えるぐらいの負荷がかけられるようにバズーカを魔改造したのは、一体どこの誰でしょうねぇ……】
私のツッコミに対しトム店長は苦々しい顔をすると、イライラとした表情でこちらを見ています。ザマァ見ろです。
「……チッ、まぁええ。
それよりもアレがそろそろ鳴るっぽいからな、どうせならここで聞くのも悪くねぇと思ったまでよ」
【なるほど、そういうことでしたか。
早ければ昨日のウチに陥落するかとも思っていたものですが、思ったよりかは“公国が持ちこたえた”と言うべきでしょうか】
「フン、どうだかな……」
そんな他愛もない会話をしていると
ピピーッ、ピピーッ、ピピーッ、ピピー……
地上だろうがダンジョンの奥深くだろうが、どこに居ても必ず聞こえる特殊な音が街全体に鳴り響く。そして、
《神界より全土への放送です。
エルングラ公国、主城テ・ヴェルサーヌ城が独立国家ロイゼンの攻撃により落城。また、公王トルヴィーラ二世が死亡が確認された為、エルングラ公国が滅亡しました。
これにより独立国家ロイゼンが攻め落とした“ヤ・ガンダ”を含む七都市とそこに付随する街々、そして公都は侵攻部隊の直接統治区域となります。
なお、旧エルングラ公国の“ダ・リガド”と“ビ・ディン”については公王トルヴィーラより、それぞれを治める第二・第四王子への統治権の継承が完了しており、合わせて両王子とも独立国家ロイゼンの帰順に応じない為、各々が独立都市として統治を行います》
「公国が滅びるか……長い歴史があろうと滅ぶのは一瞬よの」
【勝者がいる以上、敗者も出ます。ただ、問題はここからですが】
《また、侵攻した第一王女フーラ・ゼ・デアモノードがテ・ヴェルサーヌ城を主城として“臨時国家カラドボルド”を興し、臨時元首に就任しました》
「はぁッ?」
【……まだ放送は終わっていません】
《なお、独立国家ロイゼンの王ザヴォル・ギ・デアモノードは公国滅亡の功績をもって、第一王女フーラ・ゼ・デアモノードへ王の座を委譲。
第一王女フーラ・ゼ・デアモノードは王の権限をもって独立国家ロイゼンを解体し、自ら興した臨時国家カラドボルドへその全てを移行しました。
これにより、独立国家ロイゼンは滅亡しました》
「……なっ! いったいどういうことだ!?」
【どういうこと、と言ってもそういうことだと思います。
しいて言うのであれば、独立国家と元公国の大半が一つになった巨大国家が樹立したということでしょうか?】
さすがにここまでのことは想定外でした。
「ハッ……ハハハッ! まぁ俺としちゃぁ構わねぇぜ。どんな理由にせよ、こういうのを切っ掛けとなって時代が動くことになるからな。
停滞気味だった世界が動く……色々と活発になれば、否が応でも面白いことが起こるからな」
そう言ってトム店長はどことなく歪んだような笑みを浮かべます……はぁ。
【これだから世界から逸脱している者というのは……】
「うるせぇ! テメェだって……チッ、クソったれが!
……まぁいい、今は気分が良いからな。で、とりあえずテメェの見立てではここからどうなるよ」
【さぁ、こればかりは創造神のみぞ知る、ということで】
この世界の頂点にいるのが何を考えているかなんて私にはわかりませんから。
「そうかいそうかい……って言うワケねーだろうが!」
【そう言われましても?
とりあえず今回のことについては、その主人公たる者達がいますから。その者達がどういうシナリオをもってここから先に繋げるのか……そこを期待して見るだけかと】
もっとも、それをするのがこの世界の住人なのか、それとも……
「ったく、しょうがねぇな……」
つまらなさそうにそう言うと、トム店長はおもむろに席を立ち、心底面白くないような表情をしながら部屋をあとにしていきました。
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「公国と独立国家の戦争が始まってから、まだ二週間ぐらいじゃないですか。
そんな……そんな短期間で簡単に国が滅んでしまうものなんですか!?
確か公都にある城も難攻不落と言われていたはずです。それだけ凄い城までありながら、守りきれずに国が滅ぶなんて……」
しかも、公都を占領した部隊は元々独立国家の兵だったのにも拘わらず、公国を滅ぼした後、そこへ新しい国を建てている。そしてこのタイミングで今回の戦争を起こした当事国である独立国家が己の判断で新しい国へ降り、すべてを吸収されただなんて正直わけがわからない。
「独立国家の住民共っていうのは土地柄か、それとも人種的なものかはわからねぇが昔からテメェより弱い者に頭を下げることはしねーが、テメェより強いと認めた者には喜んで従うような単純な奴らだからな。
今ままで何度となく辛酸を嘗めさせられていた憎い公国を滅ぼした奴らとなれば、進んで軍門に降ってもおかしくねぇだろうよ」
「でも、公国もですが独立国家だって何百年と続いた歴史のある国ですよね? それがこんな呆気なく無くなってしまうだなんて」
「フッ、国なんざ簡単に滅ぶもんだ。そればっかりは百年経とうが二百年経とうが、どれだけ経っても変わらねぇし、変えられねぇもんよ。
ま、確かにここ二百年ぐらいは滅亡した国が無かったから珍しいような気もするかもしれねぇが、永遠に滅ばない国なんざ有りえんからな。どんな国でもな?」
【もっとも、今回は独立国家の兵力というよりも主力として共闘していた“独立国家の兵と異なる部隊”というのが特殊であったと考えるべきでしょうね。
独立国家と共闘し、公国というそれなりの国を滅ぼすことができる力を持つ部隊。たぶん、彼らの動きと強さは殆どの国にとって想定外だったと思うわよ】
“もう一人のわたし”が言っているその部隊のって……
『それって、アルブラに侵攻していた部隊のこと?』
【そうね、ある意味では正解。でも半分かしら】
『半分……って』
【あくまでアルブラに侵攻していたのは、公国へ共闘して攻め込んだ部隊の一部と考えるべきよ? 公国へ侵攻した部隊こそが本隊であり、その本隊がスムーズに戦争を進められるように彼らは存在し、その役目を十二分にこなしていた。
もし、彼らがいなければ公国から援軍を求める使者はもっと早く到着していただろうし、援軍自体も公国が滅ぶ前に公都へ到着していて可能性が高いもの。
もしそんな未来になっていた場合、きっと今とは違った歴史が記されていた可能性が高いでしょうね】
『今とは違った歴史……』
滅ぶのが公国じゃなく、独立国家だったということになるのかな。それとも……
【ま、そういうことにも一切興味を持たず、ただ戦場でPAが暴れる様を見て・聞いて喜ぶような変人もいるけど】
『え、えーっとそれは』
“もう一人のわたし”がそう言いながら見る先にいるのは、もちろんここの家主な人なわけで……
「ほぉ、ひでぇ言われようじゃねぇか。そういやさっきもオレのことを面白おかしく言っていたようなぁ?」
「だ・か・ら、どうして心の中で話している内容をトム店長がわかるんですか!?」
ほんと、もうやだ……
【ほんとよねぇ……】
『そもそもあなたがトム店長のこと変な風に言ったり、おかしな解釈入りで強制見返ししたからだと思うんですけど! 思うんですけど!!』
わたしの非難に対し、“もう一人のわたし”は目を泳がせながら明後日の方向を向いてるし。
「はぁ……」
このダダ漏れ仕様、なんとかして欲しいんですけど!
誤字脱字のご連絡、本当にありがとうございますm(_ _)m
なかなか昔書いたところとなると見返すこともなく
こういった修正の指摘は助かります。
もっとも、最初から誤字脱字がなければ良いと言われてしまえば
それまでだったりしますが、なかなか減りません(´・ω・`)




