2話 アナザーワールド、リンクスタート
せめてログインまでは……
※1/15 文頭部おかしいところを修正しました
『PAW〜P・A・W・オンライン〜』
今最も人気なVRMMOであり、リリースしてからも日々爆発的にプレイヤーが増加している注目のゲームで、ちょっと変わった世界観が幅広い世代から支持されているらしい。
ちなみにPAWとは
・private
・armor
・war
と言われてるらしい。
『らしい』というのも運営がPAWが何の略語かを公式に発表していないからで、まとめサイトによっては『これはプレイヤーズ・アドベンチャー・ワールド』とか『いや、パーソナル・アカウント・ウォーだ』とか好き勝手言っているみたい。
まぁ、そういうのは自由に考えてもいいかな~とは思うけど、製作側の思惑って何なんだろう?
「阿里沙聞いてる?」
「あ、うん。ごめんちょっと考え事してた。といってもこのゲームのことだけどね」
那緒は『先生の話は聞くように!』とわたしに注意を促しながら説明を続ける。
「剣と魔法ってよくゲームで聞くと思うけど、この『PA=メカ』っていうのがPAWの売りの一つで、世界観にも影響を与えてるの。
これは誰でも最初に一台貰えるから、メカ好きには堪らないんだって」
説明がてら画面を切り替えると、人と比べて三~五倍ほどある、大きく無骨な人型の何かが映されていた。
「あと特徴的なのはログイン時の時間の流れが現実と比べて三倍になっている点ね。このお陰でリアルでログイン時間が短くてもしっかり遊べるの。
その分ログイン時間も連続八時間、一日最大十二時間までしかできない仕様になっているのよ。
これのお陰でログインし続けることも出来ないから、廃人さんお断りの親切設計なんだよ~」
お~なんかスゴい。それならこちらで二時間ぐらい取れれば向こう(PAW)で六時間遊べるわけだ。
部活で忙しいはずの那緒がハマってる理由も頷ける。
「とりあえずログインするといろいろ説明してくれるオペレーターが出てくるから、指示に従って所属国家を決められるとこまで行ったら、『アステリナ王国』を選ぶこと!
そしたらわたしやバカ兄、要っちもいるから色々サポートできるよ。あとスキルとかは……」
一通り説明を受けた後、わたしは那緒に教えてもらったPAWに関連したプログラム(運営が公式に用意した関連データ集等)をダウンロードし、デバイスギアにVRMMOの設定をする。
メインシステムはPAWの運営サーバ側が持っている為、設定と言ってもログインに必要な基本的な設定とか、ネット上で必要な個人認証キーぐらいなのでそれほど時間はかからない。
那緒が『お母さんに呼ばれた~』と帰るタイミングで、わたしは晩御飯をササッと済ませ、明日の準備も用意しシャワーをいつもより短めに終わらせるとラフな服装に着替える。
そしてVRログイン用のデバイスギアを自分にセットし、ログイン中に冷えすぎないようにエアコンの設定を済ませ、ベッドに転がり天井を見つめながら、つい今からログインするVRMMOのことを色々と考え始めた。
「さすがにちょっと緊張するかも」
VR美術館へログインした時は学校のみんながいたし、旅行の下見として北海道の散策VRへログインした時にはパパとママがいた。
VR空間へのログイン自体は何度もしているけど一人で、しかもまったく知らない場所へのログインはこれが初めて。
向こうに行けば要さんがいるから大丈夫って那緒は言ってたけど。
『あ、どうやって会えばいいのか聞いてなかった!? ……ん、まぁなんとかなるでしょ』
時刻は19時。
PAWの世界だと午前九時かな?
わたしはゆっくりと深呼吸すると目を閉じ、身に着けたデバイスギア声をかけた。
「アナザーワールド、リンクスタート」
―――◇―――◇―――
「阿里沙はきちんとログインできてるかな~?」
リビングで未だに消化できていない宿題を相手に悪戦苦闘しながら、VRMMO初ログインの幼馴染を思い浮かべていた。
本当なら一緒にログインして阿里沙の手助けをしようと思ったものの、母親から『ゲームするのはいいけど、やる事やってからね』と釘を刺されているし。
とりあえず自分の部屋だと疑われるので、やってますアピールも兼ねてリビングでしてるけど、阿里沙のことが気になって宿題が手に付かない(注:いつものことです)。
さすがに『ゲームの中で友達を助けたいから』といっても母さん納得しないよね。
とりあえず今日のところは宿題を片付けることに全力……って、阿里沙に宿題見せてもらえば早かったじゃん!失敗した!
ま、要っちにはメールで阿里沙がいつごろログインするかと、ログイン時のプレイヤーネームを伝えてあるから大丈夫っしょ。
明日はログインできるからいろいろ聞いてみよっと!
持ち前の巻き込まれ体質とかで大変な事になっていなければいいけど……