196話 アルブラ動乱58
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【さて、一応ココでやるべきことはやりました】
強制換装したことで散らばった外部装甲の回収は一通り終了。破損した箇所もいくつかありますが、それについては別に構いませんね……私の問題では無いのだから。
ついでに面白いものも拾えました。まぁ、一緒に持ち帰れば良いでしょう、少々荷物が増えますが。
【それよりも、色々な点から踏まえる、と寧ろこれからの方が問題かと】
そう呟きながら、遠方からやってくる複数のPAを視界におさめます。
「ご無事でしたか!」
【ガルゼさん、でよろしかったでしょうか】
「え、ええ。先程お会いした際にお話しをしていたかと……」
【ああ、すみません。今の私は自動生活でして。先程お話ししたのは本人だったのですが、どうしても自動生活へ移行した後の記憶の引き継ぎに、若干ですが時間がかかるもので】
「なるほど……色々と難しいものですな」
そう言うとガルゼさんはウンウンと頷く。
「それでも自分の自動生活とはまるで違う。今の会話を傍から見ている限りでは自動生活なのか本人なのかわからないレベルだ」
【そうでしょうか、タウラスさん?】
ガルゼさんの向こう、タウラスをはじめとして数名の冒険者がこちらへやって来る。
【随分と早いお越しですね、てっきり私が報告に行ってからこちらへ来るかと思ってました】
「確かに。自分もそのつもりだったのだが、斥候から砦が壁ごと破壊された聞かされたからには、居ても立っても居られなくてな」
【そういうものですか】
まぁ、別に私としてはどうでも良いですけど。
「しかし、本当にこれは凄いな……かなり強固に作ったと聞かされた砦が壁だけじゃなく施設全て消し飛んでいる。そして砦の向こうにあったものまでも跡形も無くなっている。
壁の破壊と誘爆だけでここまで破壊されるものなのか」
タウラスはそう言ってから私を見ます。
【私のPA、その武装にあるバズーカは改造主が遊びで改修したチャージ式バズーカです。
それを“もう一人の私”が限界ギリギリの魔力を込めて撃ちましたので、それそうなりのダメージにはなるかと】
「なるほど、そこまで威力を誇る武装を持っていたとは……それは聞いていませんでした」
うーん、なんだか嫌な流れですね。こういう時は話の切り替えが大事です。
【今はその話よりも、この先を確認した方が良いかと。
“もう一人の私”が戦った相手が死ぬ間際に渓谷へ向かって信号弾を放ちました。その後すぐに連続する爆発音とともに、崩落する音がいくつも起きていましたので、恐らくは】
「それが本当ならかなりマズい! ガルゼ殿」
「はっ」
タウラスに言われ、ガルゼさんを始め数名が渓谷へと向かいます。
あっちの方はこれで大丈夫でしょう。そしてこちらもこれで会話が切れました。
【では】
「どちらへ?」
【私のPAは稼働時間がほとんどありませんし、先程敵のPAと戦った際に大きなダメージを受けています。これ以上ココにいても何もできませんのでアルブラへ戻らせていただきます】
……そうそう。
【ついでに今の状況を領主へ報告するのも悪くないでしょう。よろしければ“もう一人の私”の為にも一筆書いていただけませんか?】
「なるほど、確かそれは一理ある。この状況を領主殿やファナ殿へ伝えておいた方が良いでしょうし、貴女の戦果にもなる」
【ええ、お願いします】
タウラスは懐から紙と筆記具を取り出す。そして私が見ている前でここの状況や、部隊の現状について書き記すと、封をしてから私へ手渡す。
【ありがとうございます】
「いえ、こちらこそ。
ああ、そう言えばアルブラに戻るということは、途中で公国へ向かう援軍の本隊であるA班と会うはず。出来ればその際にこちらの手紙を渡していただけませんか」
そう言って先程とは別の手紙をこちらへ手渡してくる。
【時間短縮のため、山道をショートカットして戻る可能性もあります。そういった場合、タウラスさんが望むような後続の方とのすれ違いが無いかもしれません】
「その場合はその場合です、一応保険的なもので渡してあると思って下さい」
うーん、そこま言われると受け取らない理由がありませんね。
【承知しました。あくまで“すれ違った場合には手渡す”ということでお預かりしておきます】
「ええ、それで構いません」
ま、預かって渡すぐらいなら構わないでしょう。些か面倒ではありますが。
【それでは、改めて失礼します】
私はそう言うと、まだ何か話しかけたそうなタウラスに背中を向けると、振り返ることなくその場を後にしました。
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『何微妙な空気を残してきているのよ!?』
別に面倒事を起こした訳でもないのぐらいわかっているけど、会話の端々で引っかかるというか、素直に受け取りきれないわたしがいるんですが?
というか……タウラスさんとの会話の中で、妙に気になる内容があったのだけど。
『とりあえず今は保留にしておこ……』
【そうね、今のあなたにはそれよりも大事なことがあるし。まださっきので三分の一なのだから頑張らないと、本当に今日一日を自動生活の解説につぎ込むことになるものね】
『あはは、ですよねぇー……』
うん、わかっているから大丈夫だし……たぶん。
【ちなみにA班とは会わなかったわ。というか面倒だったので、すれ違いそうなポイントは全て山道を走ってショートカットしたから】
『えぇ……』
余計面倒なことにならなければ良いのだけど!?
ま、それについては考えたって仕方がない。それよりも、
『“あとにした”ってあるけど、どうしてあの場所から走って帰ってるのよ!? しかもフルマラソン以上の距離を走って帰るとか!
一応、ハマルの稼働時間に余裕は残しておいたはずなんだけど?』
ゲームの世界で異邦人やNPC始め、様々な人達と会話をすることで情報量が貯まる。情報量が多ければ多いほど、それに紐づく内容を把握することになるから、統合した際の負荷の高さに比例する。
だけどそれ以外にも負荷が増える要因として、戦闘や訓練など身体にかかった負担が経験値になる際に情報量へと変質することも、負荷の要因として挙げられている。
そして、今回経験した“吐くほどの負荷”を感じた統合、その理由の一つが身体にかかっていた高負荷……即ち、過度なレベルでの運動だった。
……道理で統合の負荷が凄いはずだわ。
『しかもただ走るだけでなく、A班との接触を避けるための山道走破なんてするものだから、山中でダース単位で魔物と遭遇して、数えるのも面倒なぐらい戦ってるし!』
百歩譲って走って帰るのは仕方ないとしても、ウッドオークやキラーラビット、はたまたダークキマイラやツインヘッドロックマンなど、かなりレア度が高い魔物とまで戦っていたのは想定の範囲外だった。
……っていうか、この魔物達が例の砦の所にいなくて本当によかった。いたらと思うと、正直それだけでゾッとする。
【A班との接触は、会話することでの余分な情報を増やさない為でしたが。まぁ、その分魔物と戦うことになったのは】
『なったのは?』
【お腹が空いたので、現地で食材調達をしたからですね。携帯食料は少しぐらい持っておくべきですよ】
『うん、それはごめんなさ……って、違うじゃん!』
そもそも最初からズレているし!?
【チっ……】
『舌打ちしない!』
確かに統合された中を確認すると、キラーラビットとか捌いて食べてるし。
【美味しかったですよ、キラーラビットの香草焼き】
『あ、うん。それは統合情報で共有できているからわかるけど』
ログアウト中、自動生活によって経験した内容。それが訓練や戦闘だった場合に、結果が経験や数値的な面で得られるのは把握していた。
でも、今回のように食事といった普段気にしない所でも、自動生活で体験した内容が経験として自分の中に記録されているのを理解すると、改めて自動生活と統合に対する考え方というか、扱い方を改めるべきだと感じたわけで。
『結果と経過、そして経験……か』
【大事なことだけど、異邦人の大半は軽視していますね】
うん、反論できません。
「改めて一度統合した情報をキチンと理解し直すのも、こうやって体験してみると悪くないかもしれないとは思うかな……色々キツい所もあるけど」
特に今実行している解説付き統合情報の再読込みは理解がしやすく、思ったよりかは体へのダメージも少ない。
もっとも、その分自分の中へ浸透させるのに時間はかかるけど……
【良くも悪くも時間は必要、そう思った方が楽よ】
“もう一人のわたし”は平然とした表情でそう言うけど、なかなか即決できるものでも無いし。
『負担と時間のトレードオフは判断に迷うものなのよ?』
統合による記憶の注入は今まで“そういうもの”という認識でしかやってこなかったし、やはり理解する為の“時間を余分にかける”ということ自体に抵抗があったのは否めない。
しかし、今回やってみることで思うところがあったのは事実。
『体験を知識にするには、正しい理解とそれに見合うだけの辛さを体感するのが必要であり、それを経たことで』
【正しく、己の血肉なる】
『うん、なんとなく理解できた』
やりたいか、やりたくないかというのとは別だけどね……
【さて、じゃあ次はアルブラに戻って来てからの話ね】
『……あ、はい。お願いします』
もうこうなったら、トコトン話を聞こうじゃないの!
と、とりあえずアップできましたが、まだ削除してしまった部分の全回復に至っておりませぬ……(´・ω・`)




