195話 アルブラ動乱57
※19/08/12 誤字脱字修正しました
「さて、一応準備完了かな」
いつもと同じVRMMOをプレイする際のラフな服装やエアコンの設定、晩御飯も済ませた状態でベッドへ移動する。
明日は土曜だから学校も休みなので、お弁当を準備する必要も無い。
「もうすぐ18時だから、向こうはちょうど朝ね。とりあえず大きな問題が無いことを祈って……」
ベッドに横になると、いつも通りデバイスギアをセットする。
『準備ok』
「アナザーワールド、リンクスタート」
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パチリ
「この見慣れた天井は……」
アルブラに来てから見慣れた天井にホッとする。
それはここがトム店長の家であり、わたしが借りている部屋だということ。とりあえず無事にアルブラまでは戻って来れたってことだけでも気持ちが楽になる。
「もう使い慣れたベッドに枕、そして横にあるテーブルには花瓶と……桶?」
あれっ、桶なんて置いてあったっけ? 顔を拭くためとかに置いていたのかもしれないけど、水も入っていない空っぽの桶だし。うーん……
「ま、いっか」
さて……
『無事ログインが出来たということは、あれからどうなったのかな』
もし、わたしがログアウトした後に大きな戦闘が発生していた場合、最悪の状態としては死んでいてもおかしくは無いわけで。
そうなっていた場合には【時神モルフィス様】との取り決めにより、わたしはこの世界において【本当の死】を迎えることになり、二度とログインが出来なくなっているはず。
「とりあえずは大丈夫だったということだろうけど、問題はここからよね……」
無事にログインは出来た。ただ、あくまで“ログインが出来た”という事実だけ。
あの場所からアルブラまで戻って来るまで、そしてアルブラに戻ってからを統合で自分の中に入れないことには話が始まらない。
ただ、色々とあった後の二日間ということになれば、それそうなりにキツかったであろうという予測がつく。それを思うと、正直ちょっとだけ気が引けるというか何と言いますか……
【あら、そんな弱気でいられても困るのだけど。あなたの代わり私がしっかりと体験しておいたのよ? 何なら私の解説付きで統合してあげようかしら?】
『あ、いえ、結構です……』
わたし以上に自己主張というか、押しが強い“もう一人のわたし”だことで。
『というか、そこまで言われたら余計に統合し難いのですが……』
【ふふ、ちょっと背中を押してあげているだけよ】
……いつもより妙に押して来るのですが? 不安が募るばかりです。
「って、グダグダしててもしょうがないか」
躊躇っていたって時間が無駄に過ぎるだけど考え、意を決するとベッドに座り直して統合を実行した。
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「ゼー、ゼー……」
わたしは統合の影響によってもたらされた強烈な吐き気に我慢が出来ず、テーブルに置いてあった桶に吐いていた。
その衝撃があまりに強すぎた為か、未だに呼吸が元に戻らないでいる。
統合はログインしていない間に体験した内容を自分の記憶を記録として書き込む行為であり、書き込む際の情報量が多ければ多いほど、自分自身に負荷を与えることになる。
よって過去に統合した際にも、強すぎた負荷によって気分が悪くなるということはあった。
ただし、今回の統合によって受けた負荷の衝撃は、過去に体験が無かったレベルであり、そのあまりの強烈さによってダウン寸前の状態になり、目を回しかけていた。
【だから解説付きで統合したらって言ったのに】
『こ、ここまでだって思っていなかったし! っていうか、これを解説付きで統合なんてしたら、ほぼ今日一日のログイン時間が潰れちゃうんじゃないの?』
【そうね。だから私は今日のあなたがログインの大半をベッドで過ごす、半ば睡眠学習的なものになると思っていたの。ダウンするのも込みでね】
統合元である、“もう一人のわたし”としては、記録の多さと負荷の量はある程度、織り込み済みだったようで。
『そ、そう簡単にダウンしたらダメだから。時間的な意味もだけど、“もう一人のわたし”が体験したものであれば、それをしっかりと受け止める必要があるとは思っているし』
【ふぅん……】
な、なんだか興味無さそうというか、つまらなさそうな返事をしてくれるんじゃないの。ていうか、
『めちゃくちゃハードというか、よくこれだけのことをやり通したわね』
“もう一人のわたし”という些か抽象的というか、同じであって同じでないとも言える自分の中の自分に対して素直に称賛を送る。
【ふふ、私だってあなたに負けず劣らずってことよ】
うーん、返答に困っちゃうような言い方なんですが……
【あ、もちろんあなたと違って私はマゾじゃないけどね】
『わ、わたしだってマゾじゃないですけど!?』
【へぇ~……】
うっわ、なんですかその疑いの眼は!?
【模擬戦とはいえ色々な人にボコボコにされたりとか】
あっ……
【相手の攻撃を手のひらで貫通させながら受けるだけじゃなく、痛みに泣きながらそれを握って逃さないようしつつ頭突きで相手を倒すとか】
ううっ……
【えっろい格好で公衆の面前に出たりとか】
『そ、それはマゾとか関係ないし!』
【……えっ、まさか露出狂?】
『違います、断言します、違います』
【ま、何にせよあなたも私も“出来ることがあるのなら、出来るだけ頑張ってみよう”という風に思い、対処しきっちゃうタイプじゃない?】
『そ、それはそうだけど……』
はぁ……なんだろう、この感じ。
“もう一人のわたし”という“わたしであって私ではない自分”に親近感というか、壁を感じさせないって凄いと思いつつも、AIっとわかっていながらも話してみると、妙な安心感というか楽しさを感じちゃうのは何故なんだろう?
考えれば考えるほど、何か違うものがフツフツと湧いてくるんですが……
【で、どうするの?】
『……あはは、やっぱりバレてますよね』
“もう一人のわたし”が痺れを切らして聞いてくる。
【まだあなたは私が体験した記憶の上っ面を触っただけよ】
『うん、大丈夫。それはわかっているから』
料理で例えるなら皿に盛られた料理をひとくち頬張った状態。ただし口に入れた瞬間にその料理の中にあった旨味・苦味・甘さ・辛さといった様々な味が爆発したことで、口の中で“味わって噛み、飲み込む”ことが出来ていない。有り体に言えば、ここから先に進む勇気が無いだけ……
『はぁ、食べるのに勇気がいるだなんて』
……って、よく考えたら水菱部長の作った料理を試食する時なんて、いつでも食べる前に気合いと根性入れてたっけ。
“やる前から気持ちで負けてちゃダメよっ!”っていう部長の声が聞こえてきそう。
『よしっ!』
【あら、表情が変わったわね。先に進む気になった?】
“もう一人のわたし”が少し嬉しそうな顔でこちらを見る。
『うん。あなたが体験した内容を、余すところ無くキチンと自分の血肉にしたいのであれば、どれだけキツい記憶であっても理解する努力をしないとね』
【そうそう、記憶の上辺だけを見て体験したつもりじゃ、本当の意味で成長しないもの】
“もう一人のわたし”がわたしを見てウンウンと頷く様が第三者的な視点で見れたら面白かっただろうな~と考えながら、彼女を自分の横へ移動するように促す。
『じゃ、お願いします』
これからお願いするのは、あくまで自分の中に既に記憶として記録した内容を理解する為の行為。言うなれば記録した内容に対し、解説をしてもらいながら正しく見返すことで、自分の記憶として正しく認識すること。
【大丈夫よ、体の力を抜いて。痛くしないように優しくするから】
『えーっと……』
まるでいかがわしい“何か”をするようなセリフなんですが!?
【あら、ムッツリ?】
『違います、断言します、違います』
何回同じ返答をさせるのかな!?
【じゃあ、やっぱりオープンで露出狂なんじゃないの】
『そ、そういう意味でもありませんから!!』
「はぁっ……はぁっ……」
どうして統合された記憶の解説を聞くだけで疲れるのかなぁ!?
【ま、冗談はさておき。無理しないレベルで、それこそゆっくりと反芻しながらでも良いから私の話を聞きいて、キチンと自分の中にある“書き込まれた記憶”を自分の中へ落とし込みなさい。
それがあなたの力に変わるはずだから】
『うん』
再び統合するわけでも無いのに、体に妙な力がかかっているような気がするのは緊張か、それともこれから読み取っていく記録に対して何か怖がっているのか……
『すぅー……はぁー……』
ゆっくりと深呼吸をし、改めて楽な姿勢で“もう一人のわたし”が置いている手に自分の手を重ねる。(実際にはイメージだから重ならないけどね、)
【うん、大丈夫そうね。では始めるわよ】
そう言いながら“もう一人のわたし”はゆっくりと統合された記憶について話し始めるのだった。
最近はやらないようになっていたのに、
つい、うっかり、ばっさりと元原稿を破棄して吐きそう……
やっばい、ざっくり三話分ぐらい飛んだ……(゜∀。)
とりあえずサルベージは失敗したので、あとは頭の中にある元原稿の原稿を思い出し、書けるところから書いてみるしかないけど……これがかなりツライ。
……来週、アップできないかも(´・ω・`)




