193話 アルブラ動乱55
『この爆炎と土煙が少しでも相手の視界を奪っているうちに!』
わたしはペダルを踏み込み、斜めに切り立った【斜め岩】に向かってハマルを移動させる。
ここからあの岩までの距離は百メートルほど。この間に地雷が設置されている可能性はゼロではないと思うけど、さっきのモモさんの話から考えると、たぶんそれは無いと思う。
『あれだけ“自分の手でわたしを倒したい”と言っていた人であれば、きっと自分の手が届くような位置までは来させたいはず。しかも、こちらが動くに動けないようなイヤらしい場所にハメて』
だからこそ、あの【斜め岩】をジャンプ台代わりに使った場合に着地するであろうポイントに向け、わたしはバズーカを数発撃った。
結果、思った通りというか、それ以上に地雷は設置してあったようで、撃った場所を中心にいくつか誘爆した。
「行っけぇぇぇ!」
わたしは自分の考が正しいという結論のもと、“あの岩までは地雷が無い”という予測を頼りに、一気ハマルを加速させる!
ゴォォォ!
『でも、まだこれだけじゃダメ。
バズーカを撃った所に行けても、勝ちを拾うが難しいのに変わりはない』
あの場所へ行くのが目的じゃない。わたしの目的は
「モモさんに勝つ」
その為にはもっと……、もっと先へ!
ガトリングとわたしのバズーカとじゃ撃ち合っても勝てない。武器の性能というより、PAとの相性が悪すぎる。だから勝負は彼女に手が届く間合いに、近距離戦闘ができる間合いまで行かないと!
「……でも、近距離で戦おうとしているのに、今からするのって本当はダメなんだろうな」
『初撃を外したら負け確定』
そんな分が悪い賭けになるけど、あの場所へ行くためには勝負に出る!
「強制換装!」
ガシャ! ガシャン!
ハマルの二大特徴のうちの一つである、多重外装を全て外す。すると、
ギュゥン!
「う゛っ!?」
肩・胸・腕・腰・脚、それぞれに付いていた外装全てが外れたことでハマルの重量が激減する。
もちろんスラスターとホバーは外装に含まれていないからそのままであり、ハマルの駆動力自体は維持されたままの状態。
よって、高い駆動力が維持されたままで総重量が半分近くになったことで、ハマルはさっきまでと比べて、約倍の値となる加速度が出せることになる。
『くっ……』
もちろん、加速力が倍になるということは受けるGも倍になり、わたしの体はシートに埋まるというか、シートと一体化しそうなレベルで圧しつけられる形になる。
その圧しつける力は凄まじく、全身が“見えない強力な何か”覆いつくされた上で押さえつけられるような状態であり、その圧によってか、徐々にだけど視界がボヤけ始める。
「い、息が……」
まともに呼吸をすることすらままならない、そんな苦しい感じ。これに似たようや感じは以前にも経験している。ただ、今感じているのは“あの時感じたもの”よりも何倍も強力であり、ボヤけていた視界もグレーアウトから、更に悪化してブラックアウトの状態に。でも、
『苦しい、し、見えない、けど……だ、大丈夫』
どうせ視界は爆炎と土煙によって見えない状態、だから過度に戸惑うことない。あとは事前に予測したラインを、とにかく維持することにだけに集中する。
そして、
「こ、ここっ!」
ゴウッ!
右足で踏み込んでいた加速のペダルを一瞬離し、左足でスラスターの角度を変えてから再度ペダルを強く踏み込むことで、前に向かっていた推力を斜め上へ調整する。
「ひっ!?」
どうやらペダルを踏みかえたタイミングは完璧だったようで、想像していた以上のスピードで上昇していく!
『ちょ、ちょっ!?』
下手に喋ったら舌を噛みそうな状態だったから心の中で叫んだけど、ジェットコースターなどのリアルなアトラクションや、体験がウリのVRシステムでも経験したことないレベルでかかるGの強さに、体の中から色々なものが出そうになるを必死で押さえつけて我慢する。
そんなヤバい状況を必死で我慢した、ほんの数秒後
ボン
「えっ」
上昇することで煙を抜けたその先には、視界を遮るものが何も無い、全てが青一色の世界が広がっていた。その美しさに思わずペダルを踏むのも忘れる。
「凄い……」
その景色は現実では勿論のこと、VRの世界でだって見たことが無いような、ただ感嘆することしかできない世界。
『もっと見ていたい』
何かに手が届きそうで届かない、そんな不思議な状態は
……ヒュン
「あ」
一瞬感じた浮遊感と共に消え去り、あとはただ猛スピードで落下していく。
「は、速い速い速い速い!」
外部装甲が無くなったことにより、どうやらハマルの中で最も重い部分は背部のスラスターになったようで、仰向けになった状態のまま、もの凄い速さで落下していく。
わたしはハマルの向きを変えようとしてレバーを握り直すけど、すぐにその行動をやめる。
『本当は相手を視界に入れて落下したいけど、そんなことをしたらハマルに設定された機能によって、ミルザムを自動でロックオンしてしまう。そうなったら、折角気づかれないように跳んだ意味がない。
……だから、ギリギリまでこの体勢のまま落下して、直前で向きを変える』
向きを変えずにそのまま落下していくのを継続させたまま、手元に唯一残した武器である槍を装備して握り締める。
『な、なんとかこれで……』
一応操作パネルの横には背後の状態がわかるように小さなディスプレイが付いているけど、正直なところ猛スピードで落下していく状態において、冷静にそれを凝視し続けるだけの技術も技量もスキルもわたしにはない。
だから、ある程度は自分の予測と計算を信じて落下していくだけ。
9
8
7
『も、もう少し』
落下速度に意識を持っていかれないよう、歯を食いしばる。
3
2
1
「今っ!」
レバーを引きながらペダルを強く踏み、片方のスラスターだけ全力で噴射させると、落下時にかかっていた力の向きが一瞬で変わる。
『気付かれた!?』
しかしその先にはガトリングをこちらに向けようとするミルザムいの姿が。
「って、今から何かを変えるなんて無理!」
わたしは槍を両手で持つと、そのままミルザムの胸に向かって
ズガッ!
こちらに構えようしていたガトリングごとミルザムに槍を突き刺す!
『ダメージは通った』
槍はガトリングを貫きミルザムに深く突き刺さったものの、ガトリングに当たった事で狙った場所から若干逸れている。ただ、それでも肩口から貫いたことによるダメージは、ミルザムの活動を止められるだけの手応えは感じた。そしてそれを裏付けるように、ミルザムが動く気配は無い。
『どうなの!?』
刺さった箇所から何かを垂れ流すミルザム静かなまま。
「勝っ……た?」
とりあえずとはいえ勝利を収めることに安堵し、シートに体を預けた瞬間、
ガシャ
「えっ」
ミルザムの背後から何かが動く音がすると、上空に向かって勢いよく何かが発射される。
それは幾色からに輝きながら赤い煙を出しながら飛んでいき……
ドン! ドドッ!
『今のは』
ここからでは視界に入らないけど、遠くで爆発する音が数回聞こえる。
そしてその数秒後には遠くの方から複数の爆発音が。ここまで聞こえてくる爆発音ということは、かなり大規模なものだということがわかる。
『今の爆発音は……って、まさか』
「あなた、との戦いには負けた、けど……ここでの勝負は、私の、勝ち……よ」
苦しそうな、それでいて笑いをこらえるような声で、モモさんはわたしにそう言い放つ。
「たぶん……あな、たが思ったのが、正解」
わたしの槍が刺さった衝撃で幾つかの場所が歪み、装甲が剥がれたり亀裂が走っていた。その
亀裂のうちの一つはコクピット部分に出来ており、亀裂の先には体を真っ赤に染めたモモさんの姿があった。
「まさか、本当に渓谷を崩したっていうの!?」
「万が一、に備えておく…常套、手段でしょ? 気を抜いた……あなたが、ばかだった……のよ」
「!」
動かなくなったミルザムを前にわたしは決着がついたと勝手に思い込み、とどめを刺すことを怠った。もし、あそこで油断せずにとどめを刺していれば、こんなことにはならなかったはず。
「私達……、の作戦が、遂行できなかった……場合の、奥の手、よ。
あなた……達はここから進めない。くず、れた渓谷が、あなた達を歓迎して、いる、わ……
また……どこかで会いま、しょう……その、時こそ、シリュウの……」
モモさんがそう言い終わるのが早いか、ミルザムは一度鋭い光を発してから消えていく。
今の消え方はバンダナ男の時のように、PAが二度と起動できなくなるような爆発的な消え方とは異なっているはずだから、操縦者の死亡と共に自分の格納庫へと戻るものだと思う。
そして、それはこの戦いにおいてわたしがモモさんに勝ったということだけど……
「勝ったは勝ったんだけど、今の話を聞く限りでは素直に喜べないじゃないの」
今の話が本当だとすれば公都への援軍、その進行を止めるだけのことをされてしまったということ。この先は渓谷に挟まれた道だったことから、ここまで聞こえてくるような爆発音から出る答えはたった一つ。
『……渓谷を爆破して道を塞いだってことよ、ね』
わたしはその結論を出してから、一歩も動くことが出来なくなっていた。
なんとかアップできました~が、
ちょっと表現と文章とで自分の中で噛み合っていない箇所がありまして、
後日納得いった表現が出来れば書き換えるかもです。
次も来週月曜、8/5のアップ目指して頑張りますので
よろしくお願いします。<(_ _)>




