192話 アルブラ動乱54(主人公視点ではありません)
【モモ・カグラウチの視点】
「地雷の爆発で出来た煙なんかに隠れたところで!」
バズーカで撃ったポイント、それは私とアイツ の中間地点。そこから考えられることなんてたかが知れている。
『あそこにある【斜め岩】をジャンプ台にしてこっちへ跳んでくるつもりなんでしょうけど、いくら加速したところで重装甲のハマルなんかじゃ私の所まで跳んでこれる訳がない。
だからこそ中間地点となる“あのポイント”を着地地点として考え、事前にバズーカを撃つことで地雷を誘爆させ、安全に着地しようと考えたんでしょうけど』
その行動、結局は“自分が今からそこへ行く”と宣言しているようなもの。
それに跳んであのポイントに着地出来たとしても、あれだけ加速しているわけだから、そこにピッタリと止まることなんて不可能なはず。
『確実にオーバーランし、まわりにまだ残っている他の地雷を踏んでお終いね』
ま、アイツにはそれぐらいしか選択肢がなかったからだろうけど、こちらとしてはその行動も予想の一つとして考えていたから、慌てるまでもない。
実際、いまの爆発が派手だったのも、あの岩を使って跳ぶような相手がいたら、“あそこが着地点となりやすい”と考え、複数の地雷が埋設してあったから。
まぁ、バズーカで撃って誘爆させることまでは考えてなかったけど、まだまだあの辺りにはまともに移動に出来ないレベルで地雷が埋まっている。
『アイツは着地後にオーバーランし、あの辺りに残っている地雷を踏んで爆発する。
私は行動不能になったアイツをガトリングで撃ちまくるだけ』
本当はもっと苦しめる、それこそシリュウが受けた痛みを十倍にして返したかった。でも、下手なことをして作戦失敗となったら“ただの馬鹿”でしかない。
「そうならないよう、まぐれでもアイツの攻撃を喰らわないようにしないとね。
……怖いのはあの異常な火力をしたバズーカだけ」
こっちの準備をしていたことでバズーカの射線上から外れていた。もし私がいる場所が入っていたら、一緒に死んでいた可能性は高い。
『癪だけどバズーカは予想外どころか、反則レベルと考えて行動することにするわ』
邪魔者達の進行を止める為に作っておいた門や塀を丸ごと破壊し、さらにその先の森まで焼き尽くす。
普通に考えれば間違いなく異常なレベルの火力と貫通力だと思うし、あそこまで高火力な武器なんて今まで聞いたことが無い。
……まぁ、バズーカに【異常な貫通力】があるというのも訳がわからないけど。
『正直なところ、あのバズーカの威力は普通じゃないから注意しすぎたところでおかしくはない……だから、確実な状態でアイツを殺す』
追って来た奴らをまとめて殲滅しようと考えて設置してあった、地雷と火薬類のほとんどを誘爆させ、失わされたバズーカの一撃。
あれだけは特に注意しなければならないと思う。そして大切なのは、
『焦らないこと、気を抜かないこと、相手を甘く見ないこと』
例え相手が格下の相手だったとしても、全力で倒すことが“確実に勝利を手中に収めること”だと教えられた。それを守らずに負けるようなことがあれば、シリュウに見限られてしまうかもしれない……
『もし、そんなことになったら……』
それは考えることすら苦痛なことであり、そうなってしまった場合には、私がこの世界に来ている大半の理由が無くなる。
「……そんなことは耐えられない!」
だから、
「煙が晴れるまで待っててあげるわ」
ガシャン
「待つのは好きじゃないけど、もっと嫌なものがあるから我慢してあげる!」
『とにかくあとは着地しているのを確認してから撃つのみ』
着地予想のポイントにガトリングの照準を合わせ、自動でターゲットにロックするのを待つ。だけど、
「もうあのポイントに着地しても良いはずなのに、ターゲットが反応しない。まさかあの岩からジャンプしていないとか!?」
『冗談じゃない!』
……冗談じゃないけど、だったらアイツはどうしてあそこに来ないのよ!?
『あれだけの速度で動いていたのがブラフだった? もしそうだとしたら、アイツは一体全体どこへ? どこへ行ったっていうのよ』
いつまでもターゲットにかからないアイツの存在。それがどうなったかを考えている間に煙が晴れていく。それと比例するかのように、私はザワつくような妙なプレッシャーを感じ始める。
「なに、この気持ち悪い感じは。悪意?」
……違う、この上から降ってくる感じは
「敵意! まさか!?」
慌てて上を見るのと同時にガトリングを向ける。しかし、その瞬間
ズガッ!
ミルザムに何かが深く突き刺さる。そして、
「ゴフッ……」
私はミルザムのコクピットの中で、歪んだフレームによって体が挟まれる。
『バカ、な』
割れたディスプレイに一瞬映ったのは、両手で槍を突き刺すハマルの姿。
「上……から、来たっていう、の?」
直前に感じた嫌な予感から慌ててガトリングを上に向けたことで僅かに攻撃は逸れ、ミルザムの心臓部が貫通されることは避けられた。
しかし、それでもハマルの槍はミルザムの肩口から腹部を貫くように刺さっており、その際に生まれた衝撃は、ミルザムの装甲やフレームを歪ませていた。
『体が……』
勿論、その衝撃はコクピットのまわりにも伝わっており、コクピットにいた私の体も半分近く潰された。
また、サブディスプレイに表示された機体の損傷状態も真っ赤に染まっており、そこから導き出せる答えは一つしかない。
『負け、るの? 私が、アイツに……』
機能の大半が停止したミルザム。そして私自身の体にも激しい痛みが走り、さっき吐血した量から見ても、もう私に助かる見込みの無いことがわかる。
「!」
そんな私の目に映るハマルの姿、それは
「外装を……ハマルの、外装を外して……跳んだ? バカ……で、しょ」
それは代名詞とも言える強力な外装を外しているハマルの姿。
すでにディスプレイはその機能を停止し、何も映すことはない。しかし、コクピットが歪んだことで出来た割れ目が、僅かとはいえ私に外の状況を見せていた。
そこには装甲を外したPAの信じられない姿が……
『いくら取り外しが可能な外装を持っているPAだからといって、わざわざそれを強制換装し、無理矢理PAを軽量化してまで跳ぶなんて予想する方がおかしいし、そんなことを考えること自体、普通はあり得ない』
確かにそれによってジャンプした際の高さと飛距離を伸ばし、私がいるところまで跳んできた。でも、それはこの先のことを何も考えていない愚者の選択だと断言出来る。
『ここで私を倒して先に進むのであれば、公都に行くことまでを考えているハズ。だけど外装の無いハマルじゃ、戦闘なんか出来るはずがない。まともに使える訳がない!』
弾除けとして使うことすら出来ない【邪魔な障害物】……コイツはそんなことすらわからないの?
『いいわ、そこまでしてここを抜けて先に進みたいというのであれば……』
私は唯一動く左手を、レバーの奥にある操作パネルへと伸ばす。
「と、届け……」
本来なら労せずして届く操作パネルまでが遠く感じるのは、槍に貫かれたコクピットが歪んでいるからか、それとも私の身体がもう保たないのか……
『お願い、この指一本が届くだけで良いから……』
薄れゆく意識を決して手放さないよう、痛みが出るほど奥歯を強く噛み締める。
パチン
『届いた……これで、この戦いは』
「私の、勝ち……よ」
な、なんとか今回も予定通りアップできました。
ちょっと危なかったですけどね(汗)
次回も予定通り7/29の月曜日にアップできるように頑張ります!




