190話 アルブラ動乱52
「ミルザム……特殊支援型のPA……」
見たことも聞いたこともないPA。というか見たことあるPA自体が汎用型と言われる四タイプと特殊なシリウスやベガぐらいだけだから、見たことが無いPAの方が多いのは当たり前だったり。
『とりあえずPAのカラーがサーモンピンクということは、カラーリングが固定されている帝国のPAではないというのはわかる。
ただし紋章は外されているからみたいだから、どの国所属のPAかまではわからない』
そもそも今回は独国が主体となり、そこに帝国を離れた人がいたってことだから、黒色のPAじゃないってことは独国の所属ということなんだと思うけど、何か違うような気がする……
「ま、いまは相手がどこの誰なんて考える余裕はないし、とにかく敵となっている以上、目の前のPAをなんとかするのが先決よね」
……もっとも、あのPAもかなり厄介そうな気がするけど。とりあえず、
『あれが今まで見てきたどのPAとも何かが違うというだけのはわかるけど』
フォーマルハウトなどと比べ、やや重厚的な感じはあるけど、ロキシーが乗っているデネブに比べれば、まだ全体的に無駄が無いフォルムに見える。
だけどデネブやフォーマルハウトとは異なる、ミルザムだけが持っていそうな、背部の大型スラスターと一体化した装備からは、何かイヤなものを感じるけど……
『何だろう、スラスター自体も結構大きいのは特徴的だけど、あのスラスターと一体化した左右不対照のノズルというか煙突? それとも折りたたみ式の武器とか? あの装備は一体なに?』
変わった装備というのはわかるけど、さすがにアレが何かまではわからない。
それに左手に持っているのは、太く長い銃身を持つ武器。その太い独特な形態をした銃身も、よく見れば複数の銃身が何本か束になったような状態であり、そんな形状をした武器についても見たことが無い。
PA辞典によると、どうやら回転式多銃身砲というものらしい。
……うん、名前を見ても銃身がたくさんあるということしかわからないから、本当はPAのことも含めてきちんと調べてみたいけど、相手がそんな時間をくれるわけがない。
『最初は連続で撃っていたからただの機関銃だと思っていたけど、機関銃と比べても長い射程とここまで盾の耐久を削る威力を見る限り、一緒と考えるのは危険よね』
盾が持つ耐久ゲージの減り方が尋常では無かったことから、機関銃よりも優れた威力を持つ武器だと思う。
でも連続で撃ち続けた影響か、その銃口からは白い煙が出ているが見えることからも、それなりにクールタイムが必要な武器だというのも予測することができる。それに、
『あれだけ撃ったら弾だってすごい速さで減るはず。クールタイムにそのリロード分まで含めたら次撃つまでに時間はかなり掛かるは』
ガシャン
「……ず? はぁっ!?」
そう思った矢先、サーモンピンクのPAは躊躇なくその武器を手放す。そして次の瞬間、右手からワイヤーらしきものが近くにある大岩の陰へ勢いよく伸びる。そして、
ガチャ!
「うそっ」
さっき手放した武器と同じ武器が大岩の陰から現れたかと思うと、ミルザムは隙きなくそれと手元に引き寄せ、左手でガッチリと掴むと再びこちらに向かって銃口を向ける!
『ちょっ、冗談でしょ!?』
ゴォォン
「あっぶな」
さすがに連続で撃たれたらヤバイと思ったわたしは慌ててハマルを動かし、あの武器の射程外と思われる位置まで一気に距離を離して様子を窺う。
もちろん、この距離はわたしの武器にとっても射程外になる。でも、
『お互い当たらないこの場所だったらチャージして……』
クールタイムはまだまだ終わっていない。だけど待つことで終わるのだったら、それを待ってから攻撃した方が
「ふーん、私は一向に待っても構わないけど、あなたはそれで良いのかしらね?」
「!」
『そう……ね』
わたしには時間が無い。残りのログイン時間が一時間を切っている以上、出来ることは本当に限られている。
それにログイン時間の問題以前に、後発で到着するA隊が来る時間だって、それほど余裕は無いと思う。
……ま、タウラスさんにあれだけ見栄を切って出て来た以上、自分の手でなんとかしたいというのもあるけどね。
『それよりも』
というか、さっきから聞いたことあるようなこの声、確か……
「モモさん、ですか?」
「へぇ、よくわかったわね」
「ええ、耳には自信があるもので」
とは言ってもさっきまで自分が放った武器による爆発音で聞こえない状態だったけど。
「改めてよく来たわね、歓迎するわ!」
「どうしてモモさんがココに」
「理由なんて言わなくてもわかるでしょ?」
「ええ、それはわかりますが」
ここにモモさんがいるということは、モモさんが独国部隊だったということ。少し話したぐらいだからあくまで顔見知りのレベルであったとはいえ、知った人と戦うというのは気持ちのどこかで変な躊躇いが。
「私は自分から志願してここに残っているの。理由はとても簡単よ?」
「なんだかすごく聞きたくないような気がしますが」
距離は十分離れているはずなのに、何か嫌な予感がする。
「ここに残ったのは、私自身がこの手であなたを倒したかったからよ!」
「ええっ?」
どういうこと!?
「ありがとう、私の思い通りここまで来てくれて!」
カッ
「はいっ!?」
さっき目にしていたミルザムの背中にあったアレが回転すると、わたしの背後の地面が発光して……
ボンッ!
「きゃっ!」
背後が発光したことに対し、慌ててレバーを倒してその場から離れた瞬間、あたりに響き渡る爆発音と共に大量の土砂が離れた位置に移動したわたしのハマルに降り注ぐ。
そして前に出たということは……
「いらっしゃい!」
ドドドドドッ、ドドドドドッ、ドドドドドドドドドドッ!
「う、ぐっ!」
さっきとは異なり、ミルザムが手にした武器……回転式多銃身砲を撃ち始めたタイミングから盾で全弾を受けた結果は、盾の耐久ゲージを一気に半分以下まで減らす!
『くっ、耐久ゲージの残りがもう二割を切っている……次まともに受け続けられたら』
盾で受けながらもう一度射撃の範囲外まで下がり、改めて残ったゲージの量を確認しながら額にかいた汗を拭う。
「そうそう、良い事を教えてあげるわ! このあたり一帯には私のPAが作成した自慢の地雷が埋めてあるの。直に踏めばPAの片足が吹き飛ぶほどの威力よ?
半日かけてたっぷりと埋めておいたから……そうね、アルブラから公都へ向かう援軍ぐらいなら軽く吹き飛ばせる程の量になっているかしら?
ここまで準備したのだから、喜んでくれると嬉しいのだけれど」
「……」
「ま、あなたが私に直接攻撃をしたいのであれば、それらを踏まずにここまで来ることね。
もっとも、あなたのその下品なバズーカと私のガトリングと撃ち合うというのでも構わないけど、あなたと違って私には」
ヒュン
『まさか』
さっきとは違う岩の陰に再びワイヤーが伸びる。それは即ち、
ガシャン、ガチャ!
「すぐに撃ち合えるだけの準備があるけどね」
モモさんはそう言うとクールタイムとリロードが必要なガトリングをその場に捨て、手元に引き寄せた新しいガトリングの銃口を再びこちらに向ける。
「勇敢に突っ込むも良し、時間をかけて撃ち合うも良し……あ、そういえばあなたには時間があまり無いという事だったかしら? ふふふっ……」
『こっちの事情を知っている!?』
……いや、そんな筈はあり得ない! でも、だったらそんなことをわざわざわたしに?
『ううん、きっとこの状況で効きそうなブラフを出しているだけ、そうに決まっている!』
わたし個人を揺さぶるには、確かにこれ以上の問いかけはないだろう。
『言葉によるプレッシャーってヤツ? 何にせよこちらの判断力を鈍らせるなんて、嫌な手を使って来るじゃないの。
でも、』
「わたしはわたしに出来ることをやるだけ、時間とか関係ないですから」
『今の自分に出来ること』
ただそれだけを強く念じることで、揺らぎかけていた自分自身の思考をしっかりと支える。
「ふーん、動揺しないのね、面白くないわ」
「動揺したって何も良いことなんて無いですからね!」
そう、今のわたしにはそんなことで動きを止める余裕も無い。
『ただ、ここからどうやって攻めれば良いのか……それが問題』
限られた時間、色々と仕込まれた場所に追い込まれた現実。どう考えても厳しい状況に、唸るしかなかった。
はい、今回もなんとか予定通りにアップできました。
相変わらず誤字が無くならく、心暖かい突っ込みをいただきいつもありがとうございます。
では、次回のアップは7月15日の予定です。
祝日ですけどね、毎週月曜アップというので継続頑張ります!




