189話 アルブラ動乱51
「発射!」
カッ!
「うっ、眩しっ!?」
自分で撃っておきながら、武器から弾が発射された際に生み出された真っ白な閃光、その眩しさに思わず目を瞑りかける。
それの閃光は真っ白でありながらも、まるで意志を持つかのように渦を巻きながら視界の中をうねりつつ、そこにある全てを飲み込んでいくようなイメージを受ける。
『なに、これ!』
自分で思っていなかった上記に唖然としかけたその時、
ドッガァァァァァァ!
「ひっ! な、な、なに!?」
眩しくて視界が見えなくなりかけた事よりも驚いてしまうほどの爆裂音。というより桁外れとも言える破壊音によって、頭の中の思考が強制的にリセットされる!
その破壊音は凄まじく、もはや異常なレベルと呼べる代物であり、バズーカを撃った際の閃光で視界がおかしくなっただけでなく、今の破壊音によって聴覚までもが完全に麻痺状態に陥ったわたしは、その場で右往左往しかけてしまう。
『お、お、落ち着けわたし!
聞こえないのだってずーっとじゃないし、ちょっと耳が驚いているだけよ! ……たぶん』
と訳のわからないことを口走っていると、
ドン! ドドン! ドガン! ドドッドガガッ!
まだ完全に聴覚が戻っていないのにも関わらず、何かに誘爆しているかのような連続する爆破音が、砦やその周辺のアチラコチラから聞こえてくる。
「えっ? ええっ? な、何が起きているの!?」
閃光によって見えなくなっていた視界が少しずつ戻り始めるけど、今度は連続する爆破によって生まれる爆煙や土煙達が、あたり一面を完全に覆い尽くす状態に思考が止まりかける。
『自分がやっておいて『何が起きているの』っていうのは問題だとは思うけどさ、さすがにこの誘爆みたいなものにわたしは関係ないよね、ね!?』
っていうか、さっき撃ったバズーカの威力があまりに有り過ぎた事で、『もしも近くに魔物とか潜んでいて、そっち影響が出ていてたら……』という、ちょっと的はずれな考えが生まれると、それに附随して色々な事が頭の中でグルグルと回りながらループを繰り返す。
そんなわたしを他所に、次第に煙が消えていき……
「はいっっっ!?」
眼の前に広がる光景は凄まじいものだった。
「砦の向こうが何も無くなってる!?」
壁の向こうに見えていた見張り台のようなものや、その先にあったであろう森の大半までが綺麗サッパリと消え失せており、所々では未だに小規模ながらも爆発が起きていた。
『これって……わたしが撃ったバズーカによってこうなったってことよね』
えーっと、
「どんだけ威力あるのよっ!?」
っていうか、たぶんわたしが武器に魔力を注いだ結果により、ここまでの威力を出したのだとは思うけど、さすがにこれは無い。
というより、こんな状態になるのを予測しろという方が無理!
『第一、撃ったのはあくまでバズーカであって、あっちこっちで起きている爆発なんて訳わからないし!』
実はバズーカから撃った弾頭に拡散能力がついていて、それが砦の壁を破壊した後に散開したことで誘爆になっているとか……ありそうで怖い。
ゴォン
「と、とりあえず惨状についてはあと! 今はそれよりも砦にA班が到着した際に問題なく通り抜けられるようになっているかを確認しないと」
『……現実逃避? えっ、違いますよ!?』
見えない誰かに説明と言う名の言い訳を続けつつわたしはレバーを倒すと、完全に消え失せた砦の壁だった部分をホバー走行で通り過ぎて中へと進む。
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「なんだかもう……笑うしかないかも」
破壊された砦から、森だった所を確認しながら奥へと進んでいくけど、手元のレーダーにはPAどころか、人も含め一切の反応が出ない状態に冷や汗を流しながらレバーを固く握りしめる。
『レーダーに反応なし……
さっきの攻撃で、ここにいた敵全員を倒せたとかいうラッキーがあったら嬉しいけど、そんなことは』
ピーッ、ピーーーッ!
「無いわよね!」
砦だった所を過ぎ、もと森だったものの大半を過ぎた頃、進行方向の斜め前方からわたしを射程に入れたしたことを知らせる警告音がけたたましく鳴り響く!
『とにかく相手のターゲットから外れるように避けながら動かないと!』
簡単には撃たれないよう、ランダム蛇行しながらその場所へと向かう。そこはさっきまでとはちょっと景色が異なる、低いブッシュが生えた平原に所々大きな岩が転がって入る場所。
『敵は……どこ』
ほとんどが低いブッシュしか無い以上、視界を遮るものは点在する大きな岩だけ。たぶんそこに隠れることで、PAのレーダーに反応しない状態になっているのだと思う。
「こうなったら岩ごとバズーカで破壊すれば……って、何よこの再射撃時間の長さは!」
わたしが通常PAで使うハンドガンは威力がそれほど高くないこともあってか、マガジンの交換をする時間ぐらいで再射撃時間がクリアされることもあり、今まで苦にしたことは無かった。
だけどさっき撃ったこの武器は、次撃つまでの再射撃時間として【600秒】という見たことも無い時間が記されていた。
『練習で撃った時だってこんなに長い再射撃時間は無かったのに……もしかして魔力をチャージした影響!?』
砦の壁を破壊し、その向こうにあったものを軒並み消し飛ばすような威力だった以上、その威力と相殺されるだけの再射撃時間があったっておかしくないとは思う。思うけど、
『トム店長、さすがにこういうのは言って欲しいかも!』
そんな心の叫びを上げた瞬間、
ドドドドドッ、ドドドドドドドドドドッ!
「ちょっ!?」
今まで見たことが無い、途切れることの無い射撃がわたしの動きに合わせて移動してくる!
『ヤバっ、逃げ切れない!』
最初こそ蛇行して避けれてはいたものの、足場の起伏がかなり凸凹な場所へ誘導されるかのように入ってしまったことで、ホバー機構により移動能力が優れているハマルといえどもバランス維持が厳しくなり、一気にスピードが低下する。
そして“それ”を狙っていたであろう相手はその隙を見逃すわけもなく、こちらをあの強力な射撃で撃ち続ける。
「くっ!」
こうなってしまった以上、右肩部分に構えた武器は邪魔になるだけだったので間髪入れずに元の位置に移動させると、左手に持った盾で相手の射撃を受け切ることに変更。
ただしその射撃は数秒で終わらず、最終的には十数秒ほど受け続ける状態になってしまったことで、盾の持つ耐久ゲージが一気に三割以上削られていた。
「な、何とか今のは凌いだけれど、同じ攻撃をもう一回受けきったら盾が保たないかもしれない」
機体自身が高いシールド能力を持っているとはいえ、それよりも秀でた性能を持つ盾の耐久ゲージがここまで減らされた以上、以前やったような機体の持つシールド能力に依存した戦いに切り替えたところで長くは耐えきれない。
『出来れば一気に近づいて勝負を決めたいところだけれど……』
こちらの弱い部分をキッチリと突いてきてるのを考えたら、どう見ても厳しいと思う。
「さすがに今の攻撃だけじゃ無理だったみたいね、でもその方が嬉しいわ!
だってそれだけあなたを苦しめることがまだ出来るってことだもの!」
「誰っ?」
茂みの向こう、さっきまで誰もいなかったはずの岩の上にサーモンピンクのPAが。
『あのPAは……』
わたし自身が見たことがないPAなんていっぱいいる。だからこそわたしのPAにはPA辞典とも言うべきものが入っている。そしてそのPA辞典から表示された内容は
「ミルザム……聞いたことない。型は特殊支援型!」
っていうか、あれだけ強烈な射撃をするPAが支援型って冗談でしょ!?




