188話 アルブラ動乱50
ギャッ! ギャギャッ、ギャギャギャッ!
「はぁ、暗いし変な鳥の鳴き声はするし……まったく気味が悪いよなぁ。
だから夜の見張りには当たりたくなかったのによぉ」
「おいおい、まさかお前怖いのか? 確かにリアルだけどゲームの中だし、怖がる必要なんてないぞ?」
「ち、ちげーよ! ただちょっとイヤな感じがするのが気持ち悪ぃだけだよ!」
そういうわりには震えてるじゃねーか。
「つーかさぁ、本当にアイツら来るのか?」
「さぁな。来たら来たで面倒だし、来なきゃ来ないでアレの機嫌が悪くなりそうだし」
「いや、アレの機嫌が悪くなるかどうかはアイツらじゃなくって、アレの片思い相手をゲームで殺した奴だろ? つーかそんな面倒な奴って本当にココに来るんかねぇ」
「どうだろうなぁ……だって【あの人】を倒せる化物なんだろ?」
アルブラから公都へ続く道の真っ只中に作られた砦。そこの門にあたる部分に設置された見張り台から、俺とコイツらはそれぞれが自分のPAに乗りながら、アルブラへと続く道に異常が無いかをチェックしていた。無論、チェックするのはアルブラからついてきた無能な御一行様達であり、この場所に来る前に二度ほど手痛い思いをさせていることからも、そう簡単には攻めて来ないとは思われる。
だが見ていない時に現れ、もしも対応が遅れたなんて事があったりすると、色々とうるさい輩がここぞとばかりに口と手を出してくる可能性がある為、念のために見張っているという感じではある。
『普通に考えたらこんなヤバそうな砦、見つけたとしても朝まで攻めて来ねえと思うけどな』
こうやって夜間に見張っているのも『潜入系のスキルを持った冒険者が闇夜に紛れて砦に侵入し、そこからPAを絡めた夜襲を仕掛けてくるかもしれない』という可能性を【あの人】が考えたから。
『そりゃ可能性としてはゼロじゃないけど、そんなバカで無謀な事なんて早々無いと思うが……アレがいる以上、【あの人】が言ったことをしないと速攻でキレやがるからな』
結局、決められた作戦を確実に実行することと面倒な上司というか、【あの人】の事になると煩いアレの癇癪を回避するために仕方なくやっているというのが正解なんだろうな。
「でもよ、俺たちも一応模擬戦で【あの人】とは戦ったことはあるけどさ、全然歯が立たなかったじゃん」
「だべだべ、もし来るとしても追撃部隊の中、なくって、その後の本隊の中にいるんじゃね?」
「じゃ、俺たちとは戦わねーんじゃね?」
「だよなぁ……でもアレは『絶対来る!』って言って聞かねーし」
「嫌だねぇ、女の嫉妬って」
「え、嫉妬なのか? てっきり敵討ちだと思ってたが」
「いーや、違うね。あの目の色は敵じゃなくって、自分の男に手を出された嫉妬の炎に滾った色だね」
「なんか妙に断言するな……体験者か」
ぶほっつ
「そー来たか。そんな相手が俺にいると思うか?」
「あー……いねーな、スマン」
「なんかそれもひでー!」
こんなゆるーい周りの奴らと喋っていると、
ピーッ、ピーッ!
はぁっ!?
「おい、反応出たぞ」
「マジか!? どうせまだまともな戦闘なんてやらないから面倒くせえのになぁ」
『はぁ、とりあえず見てみるか』
警告音が鳴った場所がPAの画面に映し出されるように操作して、
「望遠望遠っと……ゲッ、銀色のハマルじゃねーか!」
「うはっ、マジでアレの言う通り来やがったし! つーか、アイツ単騎で来たみたいだぞ!?」
「はぁぁぁ?」
何考えてるんだハマル乗りの冒険者は!
「とりあえず俺はアレに来たのを知らせるから」
「……ちょっと待て、ハマル何か構えてるぞ」
「おいおいおい、ちょっと待てよ。どこ狙ってるかわかるか?」
「こっちを……真正面を狙ってやがるぞ!」
『まさか、アイツ知っているのか』
この砦の事を!?
「早く全員に知らせろ、じゃないと」
そう俺が言い終わる前にPAの画面が光に包まれ……
・
・
・
少しだけ前。
「チャージはこれぐらいかな?」
バズーカを撃つこと自体は練習していたけど、魔力をチャージして撃つことまでは練習していなかったから、どれぐらいチャージして良いものか加減がちょっとわからない。
『チャージ用のメーターとかあれば良いのに!』
普通こういう仕組みというか、機能だったりしたらメーターとかってあるんじゃないの!?
……ま、文句言っても仕方がないけどさ。
『何だかんだで全MPの30%ぐらい魔力に変換してチャージしたから、それなりに攻撃力は上がっているはずだけど』
正直なところ『ちょっとチャージしすぎたかな~』とは思ったけど、警告音とか何も鳴らなかったことから考えなしにチャージをしてしまい、慌てて止めたものの、さすがに注ぎ込み過ぎてしまったような気がしていたり。
『とりあえず注いじゃったものは仕方がないし、放出するなんてことも出来ない以上、あとは狙いを定めてシッカリと撃つだけしかないか』
果報は寝て待て……違う、あとは野となれ山となれだっけ?
さて、
「そろそろ砦が見えてくるはず……あっ、アレね!」
アルブラから公都へ続く道を遮るように、その大きな砦が存在していた。
『うわ、想像以上に大きいんですが』
アルブラの城壁とまではいかないものの、初期村にあった城壁よりも少し低いぐらいのそれは、遠くから見る限りかなり厄介そうなものに見える。
さて、
「あんまり近くまで行くとこちらが撃つ前に向こうから撃たれてるだろうし、この武器自体がある程度は長距離から撃てる代物だから……」
たぶん、もう相手にはこちらの存在は気づかれているはず。わたしの武器よりも長距離で撃てる武器を持っている相手がいる可能性もあるから、ここは素直にこちらの射程距離ギリギリの所から撃っておきたい。
ガチャ
魔力をチャージする際に使用したバズーカ専用のグリップを再び上部から降ろして軽く握る。すると、グリップの起動に連動して稼働するようにセットされた照準がわたしの目の位置にまでスライドして動き、照準とシンクロが完了したPAの画面が射撃モードへ移行する。
「まだ……まだ遠い」
照準を絞りながら射撃ゲージの信号が射程外から射程内に変わるのをひたすらに待つ。
『まだこっちがロックオンされた警告音は鳴ってないけど……早く、早くっ!』
ほんの数秒のハズが、まるで何十分もかかっているような錯覚に陥りかけたその時、
ピピッ
「来た! 射程距離内、ターゲットok、ロックオン確認!」
グリップをギュッと握り締め、照準から目を離さずにトリガーを引く!
「発射!」
その瞬間、わたしの視界は白一色で埋め尽くされていた。
次回も予定通り7/1(月)にアップできそうです。
ちょっと切りどころの調整が出来なかったので、若干短く見えますが、
ご了承くださいませませ<(_ _)>
では、次回にきちんとアップできるよう頑張りますので、
よろしくお願いいたします。




