19話 見た目は少女、中身はおっさん。その名は
休みで余裕があったのでもう1話アップしてみました(*´ω`*)
自分で自分の首を絞めるタイプとは言われますが(・ω<)
「まいど~」
「「「まいど~」」」
何故ウチの部は入室時の挨拶がコレなんだろう。
「おやおや、副部長は何かお悩みかね?」
ぴょこんとポニーテールを揺らしながら、我が部が誇る最終兵器がお出ましになられた。
「んんーっ、なんか酷いこと言われてるような気がするザマス」
「フンガーもガンスも言いませんからね」
「くっ、やはり副部長は冷たい!そんな子に育てたおぼ」
「育てられてません」
あ、ポニーテールが萎びた。
「そんな冷たい事をいうのはこの豊かなオッp」
ガシッ
「ギャー!」
料研内に叫び声が響き渡る。
「痛いイタイ~暴力反対! 乙女は優しくしろと世のおっちゃんから言われてるやろ! 大体、あんなけしからんおっぱ……って痛い! ごめんなさいごめんなさい~」
「まったく、コイツは本当に中身おっさんだよな」
後ろから現れた男子がポニーテールの後頭部を片手で掴むと、ミシミシっと音が鳴るほど締め上げる。
『うわ~片手で宙に浮かせてるわ……』
うん、やはりこの人の扱いは彼氏さんが一番だなぁ。
しばらく折檻された後、頭を押さえながらポニーテールならぬ、料理研究部部長の水菱榛歌先輩は教卓の横のイスにちょこんと座る。
ライトブラウンの髪をポニーテールに括り、『ふんす』と胸を張る様は実際の年齢よりも三つは若く見られる幼げな見てくれだが、中身は四十過ぎのおっさんじゃないかと噂されている。
ちなみに学校の三奇才とも言われ、他校にも噂が流れる始末だけど本人は至って気にしていない。
「普通じゃないって誉め言葉だよん、諸君」が口癖になっているが、実際の人となりとは別に『料理の才能が異次元になってるんじゃないか』とわたしを含む部員全員が思っている。
そしてその手綱を握るのが彼氏の
「いや、違うから」
……彼氏と言われている松澤守先輩。料理研究部の横に部室を構える天文学部の部長さんで、水菱先輩とは腐れ縁らしく、ストッパーとして皆からの信頼も厚い可哀想な人でもある。
ちなみに水菱先輩が奇才と言われるのは、
「部長、味付けが合いません」
「醤油入れすぎ、匂いでわかりなさい」
「味かボヤけて……」
「お塩少し追加で、こら!それは少しじゃない!」
「ケーキが美味しくありません」
「砂糖と生クリームの分量正確に計ってないでしょ、食べなくてもわかるわ~」
と味見をしなくても、見た目と匂いだけでおかしな所を指摘できてしまう所と、
「部長昨日何作ったんですか?」
「ヤリイカの姿焼き~マスタードとアボカドと梅肉のソースがけ~」
普通では思い付かないような一品を作り上げてしまうこと。しかも味も悪くない(たまに大失敗も作るけど)。
柔軟というかなんというか……うん、こんな奇抜な物を考えるのは水菱先輩ぐらいと言うことで。
「んで、阿里沙? なんか考え込んだような素振りを見たけど、どったの?」
んー、この人は人物観察も長けてたっけ。 しょうがない、
「ちょっと美味しいものを食べさせる約束をしたのですが、その人が作る料理も最高に美味しいので、どうしたものかと」
「ふーん、それは深いねぇ~」
わたしの説明に水菱先輩は少し思案すると
「とりあえず、阿里沙が納得するもの作れればいいんじゃない? 下手に考えすぎると、しょっぱい塩味が効きすぎた料理になっちゃうゼ?」
「自分が納得するものですか……」
確かにベリアさんに認められるものということから、自然とレベルが高いというか、高級素材をふんだんに使った料理や見た目豪華な料理を考えていたけど、ちょっとそれは違うような気がしてきた。
「そう……ですね」
まだベリアさんの好みも知らないし、あの人が作った他の料理も味わっていない。
「部長ありがとうございます、いろいろと考えたいので今日の部活はこれで失礼します!」
「ちょ、ちょっと阿里沙!?」
わたしは荷物を手早く片付けると、みんなに挨拶して部室を後にする。
なんか遠くで水菱先輩が叫んでいるような気がするけど、とりあえずスルーしよう!
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「昨日の二の舞にはしないわよ」
晩御飯を作りながら、明日のお弁当のおかずも下ごしらえ。
なんとなく富士宮焼きそばが食べたくなったので、
以前に使い残してた冷凍油かすと、削り節を使った富士宮焼きそばみたいな物を作成。
明日のお弁当は具材をシーフードにした焼きそばにしよう。
宿題も得意な数学と苦手な英語に苦戦しながら片付けたし、帰ってから汗を流さないのも気持ちが悪いので普通にお風呂に入る。
あとからシャワーしたくなったらまたするだけよね。
時刻は18時。
「向こうは朝の六時だね」
熟練度が上がった魔法は楽しみだし、すっかり忘れていたPAについても調べてみたい。
ベリアさんの料理も食べに行きたいし、やること多いな~
「あ、要さんと那緒とも合流しておかないと」
こっちを忘れると後が怖い……
準備は大丈夫だね。じゃあ、
「アナザーワールド、リンクスタート」
―――◇―――◇―――
「ん~」
思いっきり伸びをしながら回りを見渡す。うん、神殿で借りている自分の部屋だ。
ピコーン♪
ん?システムメッセージのアイコンが光ってる。え~っと、
【記憶と記録の統合確認】
前回ログアウト時から今に至るまで、自動生活で活動していた際の記憶と、行動した記録をログイン時のプレイヤーに統合できます。
※注意:慣れない間、統合の副作用で気分が悪くなることもあります。統合時間を『もっとも遅い』に選択して実行して下さい。
なんだか微妙に怖い書き方。
まぁ、でもこれしないとログアウトしてた時に何をしていたのかが正確にわからないし。
「とりあえず注意書通りの『もっとも遅い』で統合っと」
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「うぇ、気持ち悪い……」
初めての経験だったからか、かなり頭の中が混乱している。いや、混乱と言うよりゲームとリアルが同時進行で動いていたのを、ゆっくり理解している感じがこの状態の要因だと思う。
『ちょっとクラクラするけど、時間が経てば大丈夫なんだよね』
数分すると統合が馴染んだようで記憶の齟齬もなくなり、頭の中もスッキリしたけど毎回これはキツいなぁ……
要さんや那緒はどうしているんだろ?
いつも読んでくれる方々に深い感謝です<(_ _*)>
引き続きよろしくお願いします!




