187話 アルブラ動乱49
「正気ですか!?」
あはは、ガルゼさんもめっちゃ驚いてるし。
『まぁ、普通だったら一人で攻めるなんて言わないわよね……』
わたし一人の個人的な思いを叶える為の戦闘でしかない以上、他の誰かに『一緒に攻めよう』なんて言えない。
『それこそ、わたしが正面から攻めて敵の注意を引きつけている間に、別働隊を編成して違う場所から攻めてもらっても構わないし』
一人で一気に攻め込む以上、どう考えても派手なものになるわけで。
「かなり暴れることになりますから、それこそ囮としても十分に役立つことになります」
そういった攻めをタウラスさんがするかどうかは分からないけど、わたしとしては使い捨ててもらっても構わない。
『……もちろん、死ぬ気はないけど』
「奴らとしてもコチラが一人で攻めてくるとは思わないだろう。それこそ何かしらの罠かと思う可能性もある。故に貴女が単騎で攻めたとしても、夜という事もあり、しばらくの間は大丈夫かもしれない。
だが、さっき索敵班からの話でもあったように、今までと比べても大きな砦である以上、奴らも充分な戦力をそこに控えてある可能性が高い。
それこそ、一体どこから集めて来たかわからないような、予想外な戦力を揃えてあるかもしれん。
……下手をすれば、ただの犬死にしかならんぞ」
「……」
わたしだって自分から自殺行為と思われるような無駄な戦いはしたくない。でも、このままではいけないような気がしてならない。
『でも、今動かずにこのまま後続の部隊が来るまで静観することになれば相手にとっても時間を稼げたことになるはず』
相手としてもそれだけ大きな砦をここに作ってあるということは、そこで出来るだけコチラの進行を遅らせ、公都への援軍を阻害させたいってことだと思うし、大きな砦が故に『今いる残存戦力では対応が難しい』という判断がタウラスさん達によってされつつあるのも、結果的には相手の思う壺だと思う。
『でも、逆に砦を破壊することが出来にれば、相手にしても予定が崩れ、単純なダメージだけに収まらない【戦略的な意味】での影響を与えられることになるはず』
とにかく、今のわたしには”やる”しか選択肢がない。
「お願いします!」
「……」
『砦の破壊と、そこに残っている相手に少しでもダメージを与え、後続が来る前にこれらの支障をすこしでもクリアすることが出来れば……』
その効果は高く、それなりに戦果としても認められるはず。
「……わかった、許可しよう。
奴らとて我々の攻撃を予測しているだろうから、いつ攻めた所で大差は無い。
但し、くれぐれも無駄死にだけはするな」
「はい!」
『急がなきゃ!』
わたしはタウラスさんとガルゼさんに一礼すると、足早に自分のPAへと戻るのだった。
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「タウラス殿、本当によろしかったのですか?
彼女のPA自体が強いのはわかります。ですが彼女自身がどれだけPAを操作するスキルを持っているかわからない上に、これまであった砦よりも大型のものとなれば、彼女一人で何とか出来るようなものでも無いと考えますが」
我々追撃部隊にたった一人援軍として現れた異邦人。ファナ様をはじめとしたアルブラの人々から信頼を得ているようだが、如何せん信頼と能力とは話が違う。
下手に砦で待ち構えている敵部隊に刺激を与え、より面倒なこと起こらないとも言い切れないと思うのだが……
「確かにな。だが、彼女もあれで引かない性格なのは知っているのものでね」
「せめて今までの砦でどういった攻撃やトラップがあったかぐらいは教えておくべきだったかと」
「そこについては正直思ったが、下手に教えて彼女の判断が鈍ってもよろしくないと考えたものでな。
それにあの状態であればとにかく無理矢理にでも突っ込むだろうから、あとは我武者羅にでも戦ってもらうことにしてもらおう。
結果、残った我々が損壊しているかもしれない砦へ対処するスキを得られるかもしれん」
「……そういうことでしたら」
どうやらタウラス殿も何やら考えがあるようで。ならば後はお任せするしかないということか……作業服の異邦人とタウラス殿に。
―――◇―――◇―――
「とりあえず索敵の人から簡単な地図を貰えたけど……」
わたしは手にした手書きの地図を見ながらPAを起動させる。
『さすがにまともな灯りが無い外じゃ見れなかったけど、コックピットの中でもコレだと大まかにしかわからないわね』
方角や距離などが正確な地図を作成するにはマッパーのスキルが必要らしく、残念ながら索敵に出ていた人は索敵・諜報スキルしか持っていなかった事から、わたしが見ている地図には道と砦が大体の位置で描いてあるだけだった。
『何も無いよりかは全然助かるけど、これで五Gはちょっとボッタクリのような……』
ま、この際贅沢は言ってられないよね。
さて、
『ここから一本道。その先に砦が待ち構えてて、砦とその周辺はこのあたりと同じような森林と、背丈の低い茂みが存在する開けた平原に。そしてそのまま進めば渓谷の道……』
さっき聞いた話からいけば、砦を壊して先に進むことが出来た場合には、たぶん相手は森林で待ち構えているって感じなのかな。
砦を破壊するだけでも大変そうだけど、問題はそこから先。
『相手がこちらからは見づらい位置で反撃を窺っている以上、ある程度ダメージを受けることを計算しながら強引に突っ込むしかないと思うけど、本当にそれで良いのかな……』
ただでさえ、PAでまともにな戦闘をしていないのに、そんな難易度が高そうな戦いがわたしに出来るのか。
「って、自分で決めたんだもの、とにかくやるしかないわよね!」
レバーを強く握り、左右のペダルに足を乗せる。
「あ、そうだ。まずは砦を何とかするのが先だから」
わたしはそう言いながら座席の上部にある大きな黒いレバーを手元に引っ張る。
ガッ! ガシュン……
背部スラスターの横にあったバズーカが可動部を軸にして動くと右肩へ乗った状態に移動する。そしてそれと同時にグリップと呼ばれるパーツが下にスライドし、いつでも握れる状態に。
『元々はPHYシステムのレバーや機器があったところを利用したっていうぐらいだからコクピットの上部にきちんと収まっているわね……』
配線とかもかなり大変だったはずなのに、あの僅かな時間で全てを終わらせたっていうのはトム店長にしか出来ない事だと思う。
「だってわたしラルさんと戦っていたり、それに附随して色々とやっちゃっていた間に、たった一人でバズーカと可動部の設置から配線部分に至るまで全部こなしちゃっているだもんなぁ」
さすがというか、正直怖いというか……
もし同じことをわたしが一人でやったとしたら、数時間どころか数日かかっても出来ない可能性が高いわけで。
「ま、とにかく今はこのバズーカに感謝しておかないとね!」
まだ使っていないから、魔力チャージでどこまで威力が上がるかわからないけどトム店長が『十分頼れる武器だからな、使うまで楽しみにしとけ!』って言っていたぐらいだから、きっと楽しい結果が出ると思う……というか思いたい!
「おもいっきり頼りますからね」
ゴォン
ホバー状態に移行したPAに対し改めて足元のペダルを踏み込むと、わたしは敵がいる砦に向かって一直線で進むのだった。




