184話 アルブラ動乱46
ヴゥン……
そんな事を思っている間に視界に映っていたもの全てがその原型を失うほど歪む。そしてその歪みが元に戻ると、そこには入った時と同じような作りになった部屋。だけど、
「……転送は成功したみたいね」
同じ作りの部屋であっても、見渡す限りファナさんの姿は無い。それは結果として領主の館から、南門の地下に設置されている転送装置へ移動したことを意味するわけで。
「とにかく急いで向かわないと」
転送装置のあった部屋から出て階段を上がると、そこにはいかにも堅固そうな壁と巨大な門がわたしを見下ろすように建っており、その門はわたしの出撃を待っていたかのように大きく開いている。
『……いつでも出て良いってことね』
今一度気合を入れ直すと、
「召喚」
ピシッ……
アルブラに来てからは(正確にはトム店長のお店や、ハルとの特訓時などに)聞き慣れた、空間がひび割れる音。それはわたしのPAであるハマルが現れる音であり、同時にどう進もうとも戦いになる覚悟を決める音。
『短時間とはいえ、ちょっと無茶な使い方をするかもしれないけど……よろしくね、わたしのPA』
西洋甲冑のような外装に身を包み、手にした槍と盾を身構えたその姿は威風堂々としたものであり、わたしにとっては見慣れたもの。
ただし、以前とは異なる箇所が一点だけ。
「確かに使い方は教えてもらっているからわかるとはいえ……どういう場面で使えば良いのかな」
以前と異なるもの。それは右肩の後ろに取り付けられた固定パーツと、そこに接続され、背部にガッチリと装備された円筒形の銃器。
機体カラーの銀色から見ると異色としか言いようがなく、他の装備ともと溶け込みようがない、闇色に染まった銃器からは、自分が今まで使ってきた武器から感じたことが無い、重たい圧迫感を受ける。
普段は背中にあることで他の動きに影響を与えず、撃つ際には固定バーツから肩に担ぐように稼働することで、そのまま撃てることから、銃器に持ち替えるのも簡単に出来るようになっているけど、そもそも
「まともに使えたら強いと思うけど、どうなんだろうこのバズーカって」
取り付けられた銃器は【魔力連動式バズーカ】。通常の銃器と同じように撃つ事もできるけど、搭乗者が自分の魔力を流し込むことができる代物であり、魔力を流すことで命中率も補正される優れ物。
しかも流すだけでなく、バズーカ内の魔石に溜めることにより、その量によっては一発あたりの威力を通常と比較して数倍レベルに上げることできる優れた機能……らしい。
ただし、武器自体の重量も一般的な銃器と比べるとかなり重い部類になるらしく、その影響もあってかパワーが無いPAだとレベルの高い射撃スキルを持たない場合には命中にマイナス補正を受けるとの事。
『まぁ、わたしのハマルならパワーはあるから武器が重たい分には問題無いけど、わたし自身の射撃スキルのレベルが高くないからなぁ……
いくら魔力を流し込むことで命中に補正がかけられるとはいえ、銃自体の扱いに慣れないからキチンと命中させる自信があまり無いと言うか……』
『バーカ、テメェみたいな普通の銃すらまともに使えない奴が、そのままでバズーカを使えるわけないだろうが!
だから少しでも命中精度があがるよう、接続部を使うことで撃つ際に自動的に肩部へ担げるようになっとるんだ!
バズーカを肩に担いだ、しかも固定されてズレが起こらないその状態だったら、どんなヘタクソでも的に当てられるだろうて。
しかも、本来ならバズーカ本体に固定バーツや設定費を足して三百Gは徴収したいところだが、今まで店で働いてきた給与分で特別に相殺してやろう!』
と、トム店長は言っていたけど……動かない的ならまだしも、戦闘中にお互いが動き回る状態でバズーカをに当てられる自信がないわけで。
『ゲーム内のスキルに頼らない、わたし自身か高いエイムを持っていたら別なんだけどね』
あ、もちろんそんなものはありませんよ?
っていうか、装備一式にかかった三百Gとトム店長のお店で働いた分の給与と相殺って、本来貰えたであろう給与から考えたらかなり得している筈なのに、あまり嬉しいと思わないのは何でかなぁ……
「ま、色々考えたって仕方ないか。とにかくこうなった以上は、手持ちとしてあるもので何とかするしかないしね」
限られた時間に限られた戦力。とにかく今はできるだけのことをやってみるしかない!
「そういえば……」
とりあえずPAに乗り込み、前面に映し出された大きな門を見て思い出す。
『アルブラ三大名物の一つ【決断の門】。この門を初めて潜る人間は出るまでに一つ何かの決断を強いられると言われているわ』
アルブラに来た際にロキシーが話してくれていた事を思い出す。
『今のわたしにとって決断すべきものって……』
色々と思うものはあるけど、今のわたしにとっての目的は一つであり、その目標をクリアする為の決断になるのかな。
「とにかく戦果を上げる、例えそれがどんな相手であっても」
どれだけ相手が強い人であっても勝つ。そして上げた戦果でマチュアさんとロイズさん二人の自由を勝ち取る。
わたしを家族として大事にしてくれた二人。その二人にかけられた濡れ衣をティグさんの力で取り払ってもらうのが、今のわたしにとって一番望むもの。
【あなたの決断があなたの希望を叶えますように】
「えっ?」
門を潜ったタイミングで、どこからかそんな声が聞こえたような気がする。しかもその声はわたしにとって聞き慣れた懐かしを感じた声だったような……
「って、今はそんな事を考えている余裕なかったし!?」
ちょっとだけ声の主が気になったけど、そんな思いを今は頭の片隅にしまい込むと、握ったレバーを強く握りしめてから足下のペダルを踏み込む!
ゴウン
ペダルを踏み込む事によって魔晶石に流れた信号が、蓄積した魔力を駆動するパワーに変換し、背部のスラスターと両脚に内蔵された噴射口へ伝わると、機体を地面から強制的に浮かび上がらせる。そして、
ゴォォォ
「行くよ、ハマル!」
ブースターが稼働して推進力が排出されると、放たれた矢のように勢い良く前方へ!
『少しでも前へ……』
わたしは残された短い時間を最大限に活かすため、最大出力でアルブラから公都へ向かう道を進むのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
なんとか今週分は予定通りアップできましたが、(リアルが繁忙で)次回分以降をまとめる時間が無いことから、来週は一回お休みさせていただきます。
申し訳ありませんm(_ _)m
次々週の6/3にはアップ出来るように頑張りますので、何卒よろしくお願いします。
……お仕事たいへんや( ´;ω;` )
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