180話 アルブラ動乱42
『勝負はわたしの勝ち。それはそれで嬉しいけど……』
ちょっとだけ結果の出かたが面白くないというか、納得がいなかいというか……でも、とりあえず勝ったということなら、まずは良しとしないと。それにさっきのアレがめちゃくちゃ痛かったのも事実だし。
ただ、それよりも今は
「こんな結果と言うか、見ている方にも面白くない勝負のつき方のわりには、妙に周りが静かですね」
どういう経緯からああなったかまではわからない。ただ、それをわたしが良しとしてもあれだけ騒がしかった観衆から見たら、それこそ結果に暴動とまでは言わないものの、難癖をつけてきてもおかしくないはず。
だけどさっきからそういうのが一切無く、まるで何事もなかったような静かな公演に戻っているというのは、やっぱり違和感でしかないわけで。
「よく周りを見てみて」
「ロキシー?」
ラルさんとは逆の位置で治療魔法をかけていたロキシーに今頃気が付く。そしてロキシーに言われた通り周りを見てみると、
「これは……」
まわりをもう一度しっかりと見渡すと、あれほどいた観衆の姿は殆どいなくなっていた、
正確には若干名は残っていたけど、その人達も試合結果に怒っていることもなく、声は聞こえないものの、何やら楽しそうに話しているのが見えた。
……って、聞こえない!? この距離で?
『もしかして耳に何か異変が』
「あー、安心しな。オレ達にも向こうの声は聞こえねぇよ」
「……えーっと、一体何が?」
わたしが何に驚いていたのかを察したラルさんも、やや困ったような顔でそう教えてくれた。
「そっちの嬢ちゃんとアタシがここに入ったタイミングで、観衆とウチらの境目に遮断するような魔法がかけられたようね。
それも観衆の口の動きから読むと、みな結果に満足しているような話をしているみたいよ。まるでアナタが六尺棒で貫かれたのを見ていたのを忘れたか、それこそその場面をかき消されたかのような……」
「かき消すって、そんな簡単に出来るようなものじゃないですよね……」
記憶の改ざん? それとも……
「普通ならな。ま、そっから先はこれをやった張本人に聞こうや……なぁ?」
「えっ?」
ラルさんが声をかけた先にその人はいた。
子供と見紛うような幼い印象。でもそれは本当の姿かどうかはわからない人。そして王国内でも指折りの魔法使い……
「ティグさん!?」
「はい〜、なかなかリアさんも大変でしたね〜」
いつも会うときと同じ、屈託のない表情でわたしに話しかけてきたのは、間違いなく領主の館で見るあの笑顔。
「あら、アンタにしては犯人かもしれない人を前に意外に冷静なのね?」
「いや、オレが怒っているのは実際に勝負へ水を注した奴だ。今のところアノ人は、場合によっちゃあ無駄に戦いをしなくちゃいけなくなるような混乱を回避してくれているからな」
「そう……てっきりさっきのアレはこの人がやったものだと思っていたのだけど」
「ま、間接的に関与はしてるかもしれないがなぁ……でも、実体が無いのを殴るわけにもいかんからな」
「ええっ!?」
実体が無い? じゃあ今目の前にいるのは……
「あらら〜見破られましたか〜、さすが独国で有名な方なだけありますね〜」
「まぁこの場にいてアンタが幻覚つーか、幻影体だってわかったのはオレだけだろ?」
そう言うラルさんの問いかけにロキシーもベニさんも同じように頷く。というか、ティグさんが知っているということは、やっぱりラルさんって本当に凄い人ってことよね?
「まぁ、お互い腹を探り合うのはやめましょうか〜」
「あぁ、オレもそれは同感だ。下手に時間をかけるのは性に合わねぇからな」
二人を中心に生じかけていたピリピリしたものが、わたしにもわかるレベルで薄らいでいく。
「さて〜リアさん」
「あ、はいっ!?」
「リアさんが勝ったときにはこの亜人に知っている事を聞くという話だったようですが〜その権利を譲ってもらっても良いでしょうか〜?」
「え、えーっと……」
「オレは構わんぞ、どうせ何を聞かれるかなんて大体予想はついているしな。まどろっこしいのが無い分、こっちとしても助かるしよ」
「では〜」
そう言うとティグさんは色々と問いかけ、ラルさんもそれにまどろむことなく答えていた。
「なるほど〜亜人さん的には頼まれたからアルブラに来ただけで、そこで指示を出していた異邦人の言うとおりにしていただけ、と」
「ああ、嘘偽りは無いぞ? アンタぐらいのレベルの人なら、そういうのぐらい見破れるんだろ」
「さぁ〜、どうでしょうか〜?」
「ハッ! 噂通りに、そして幻術師っていう職名通りに掴みづらい人だな」
「うふふ、褒め言葉としていただいておきますね〜」
ティグさんが聞いたのはアルブラで起きている件について、どの国の誰がどういった意図を持って起こしたのか。そしてこれから先どういった事が起こるのかということ。
それに対しラルさんは『古い知り合いに頼まれてここに来て、面識もどういった人物かもわからない、ウザいクソガキに従って侵攻してくる相手を撃退していた。だけどそれもつまらなくなったから出てきた』ということだった。
『素直に信じることができないような話だけど、ティグさんはラルさんの話を聞いて頷くだけで、聞き直すこともなかった。
やっぱりラルさんが言うとおり、ティグさんぐらいの人だと話した内容の真偽とかわかっちゃうのかな?』
……うーん、色々と凄いというか怖い人。
ただ、ラルさんの話で重要なのは話の前半よりも後半。
「近日中にも撤退ですか〜」
「ああ、ある程度の期間ここの機能を麻痺状態にできれば良いって話だったからな。理由は……言うまで無いだろ?
まぁ、当初の目的が終わったら次の作戦に移るとは言っていたから、アンタ達も事を起こすなら早めが良いぞ」
「そうですか〜……では、あなた方が拠点にしているところを」
そうティグさんが言いかけたところ、
バァン!
「な、なんですか今の!?」
「離れた場所……南部の方で爆発音がしたようですね〜」
思わず発したわたしの声にティグさんが答える。そして、
「今の方角だと……たぶん、爆発音はアンタが聞きたかったオレ達のいた拠点、それを証拠隠滅も含めて爆破処理したやつだな」
「予定より早いわね、理由まではわからないけど」
ラルさんとベニさんはそう話す。
「全部隊撤退し、公国侵攻の応援に向かったんだろうよ。もっとも、元占領部隊としても後ろから来られるのはイヤだろうから、アルブラから公国への援軍を送らせないような手は仕込んであるはずだ。
ま、あとオレから教えられそうなのはコレぐらいだからな」
『公国侵攻……』
以前ファナさんから教えてもらっていたアルブラを含めたまわりの動静。遠い国の話だとしか思わなかったけど、実際には見えない所でつながっていたんだと聞かされ、なんとなく気持ちが暗くなる。
「大丈夫ですよ〜、私達も見ているだけなんてしていませんでしたから〜」
「何かわたしに出来ることは?」
「ええ、ありますよ〜リアさんがここで頑張っている間にコチラも色々と準備をしていましたので〜
よろしければ、そちらも手伝っていただけますか〜?」
「是非、お願いします!」
「リア!?」
迷うことなく即答したわたしに、ロキシーが驚いた表情でこちらを見る。
『リア、あなたは今日色々とやり過ぎよ。そんなに詰め過ぎたプレイしていたら、リアルの方に何か影響が出るかもしれないわ!』
『大丈夫、体も頭も問題なく動いているし、どっちにしろあと数時間しかログインできないから』
ロキシーが心配してくれたのは、VRMMOが盛んになるにつれメディアが提起している内容で、体の不調やリアルでの問題行動を起こすなど、実際にVRMMOが原因かどうかはわからないものの、因果性を完全に否定できないことから業界もログイン時間の制限などで、一応対応しているということになっている。
とくに痛みすら仮想世界で感じられる戦闘型VRMMOは『リアルで影響が出る』とメディアから目の敵とは言わないまでも、市場の成長度の大きさ・高さもあってか、良くも悪くも注目されている。
『前に強制切断された時だってリアルで変な影響とかなかった……わよね?』
自分の事なのにイマイチ自信が無いというのも……
結構問題だったりして!?
はい、なんとか無事に今週もアップできました。
リアルなことでお話を書くのには
あまり関係ないのですが、
今日から仕事が変わる(新しい会社へ)ことで
直近一ヶ月ぐらいはリアルが超バタバタしそうで……
なるべく今までのペースを崩さずにアップを
していきたいと考えていますが、
リアルの動向によって、難しくなることも
あるかと思います。
また何か動向があればコメントで記載しますので
よろしくお願い致しますm(_ _)m




