179話 アルブラ動乱41 vsラル 6(主人公視点ではありません)
【ロキシーの視点】
「凄い!」
【羅刹の息吹】という闘技を使ったリアの動きは私の目には見えなかった。ただ、次に視界の中に捉えたリアは既に亜人の前に移動しており、チェンジを使って相手の視界を奪っていた。
……まぁ、あの使い方は正直どうかとも思ったけど、その後の亜人へ対する金的蹴りとボディに入れた突き、そしてそこからあの巨体を空中へ蹴り上げた連続技は今まで見たことがないものばかりであり、次に大技を出そうとするリアの構えを見てこの戦いが勝利に終わることを確信した。
だけど次の瞬間、
ドン!
リアが落ちてくる亜人に対して闘技を放ったタイミングと同時にそれは起きた。
「……嘘」
リアが亜人に闘技を放ったタイミングと重なるように、漆黒の棒がリアの背後から体を貫く。それはあの亜人が普段使っていると言っていた武器であり、リア曰く『たぶん普通じゃない武器』と言っていたモノ。そんな武器がリアの体を貫いている状況に私も含め、辺りの観衆が皆驚いた表情で見ている。
それは二人の亜人にとっても想定外の状態らしく、ベニと呼ばれた女の亜人も私の横で驚いた表情を。そして今もリアが放った闘技に閉じ込められ、ダメージを受け続けている男の亜人も信じられない表情でリアのことを見ている。
ドサッ……
自分を貫いていたモノを見たリアが力なくその場に崩れる。
「って、見ている場合じゃない!」
リアが倒れたのを見てやっと今の状態を理解した私はその場へ行こうと一歩踏み出した。その瞬間、
「ふっざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「いいっ!?」
それこそ鼓膜が破れるかと思うような大声が一面に響き渡る。それは未だに光の球の中に閉じ込められている亜人が発したもの。そして亜人は怒り狂った表情のまま球の内部から無理矢理腕を突き出すと、光の球に亀裂を作り、こじ開けるように出脱出。そのままリアの元へと駆け寄る。
「ああ、もうっ!」
『何ボーッとしてるのよ私は!』
目の前で起こった状況にタイミングが遅れた私もすぐさまリアの元へと向かったのだった。
―――◇―――◇―――
【ラル・グ・ダーズの視点】
『あ、こりゃマズったわ』
股間に受けた強烈な攻撃もさることながら、そこからの突きと空中に蹴り上げた連続技はオレの体から自由を奪う効果があるのか指一本すら動かない。
『たぶん、闘技が持つ特殊効果でこっちを麻痺状態にしているんだろうなぁ……』
オレは使えないけど、そんな闘技があるというのは聞いたことがある。嬢ちゃんが使えると知っていれば回避することも出来たかもしれないが、ちょっとばかし嬢ちゃんの攻撃を警戒し過ぎて対応が遅れたし、その前に脱衣ので視界を奪われるとも思っていなかったからなぁ……
『つーか、年頃の嬢ちゃんが人前で脱ぐか?』
ま、脱いだといってもその下にはシャツとか着ていたから嬢ちゃん的には恥ずかしくなかったのかもしれないがな。オレとしちゃそういうものは戦いの場じゃなく、ベッドの上でじっくりと見せて欲しいもんだ。
てか、なんだあの構え? 落下するオレを迎撃というか追撃するのに更に大技を出すってか? 両腕から光のエフェクト出してやがるし……出す前からヤバい気を辺りにまき散らすような闘技って、どう考えてもダメだろ?
『今まで【剛気】を使うことで被ダメを抑えていたのに、さっきの突きはダメージも高かったのもあるが【剛気】を無効にしやがった。おかげでモロに食らった蹴り二発と合わせ、被ダメは四割いったんだぞ? 麻痺状態が抜けねぇから【剛気】をもう一回使う事も出来ないし、そもそも防御姿勢自体が取れねぇ……
あんな派手なエフェクト付の闘技を【剛気】も防御も無しで食らったら間違いなく死ねるな』
今まで自由気儘に戦場で暴れてきたオレの最後があんな嬢ちゃんにやられて終わるというのも、いろんな意味で感慨深い……
ドッ!
「や、ば、い、これ、は死ん…… あ?」
全身が嬢ちゃんが放った光の球に包み込まれると、体中を激しい痛みが襲う。
……だが問題はそこじゃない。
『おい、なんで嬢ちゃんの体をオレの六尺棒……【黒麒麟】が貫いているんだ!?』
六尺棒、固有武器名は【黒麒麟】。伝説級アイテムほどではないが、武器を作成した際に核となる部分に特別な宝玉を仕込んだことで、意志持つアイテムとなっている。その効果は持ち主であるオレの命令に従い遠隔的に動くことが出来るほか、オレの身に危険が迫れば自動行動で防御もしてくれる。
『今までにオレを護って防御をとったことはある。だが、オレの意志に反して勝手に攻撃するなんて今まで無かったし、そもそもこの対戦が始まる際に勝手に動いたら不味いから自動行動は切ってあったはずだ! どうしてそれが今、この場面で動く!?』
……ふざけるな。
「ふっざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
光の球に閉じ込められたときに比べて拘束力が弱まったように感じるのは、嬢ちゃんか六尺棒に貫かれたからか、それともオレの怒りがなしたものか……
『そんなもんはどうでも良い!』
ブチッ!
とにかく体が動く部分に力を込めると、鈍い痛みとともにおかしな音がする。だが、今はそれよりも目の前で起こったことの方が何倍も……いや、何十倍も問題なんだよ!
「腕が動くなら……クソったれが!」
無理矢理目の前の光の壁に手を突っ込むと新たに焼けるような痛みが生じるものの、思ったよりも柔らかく感じた光の壁に穴をこじ開けることが出来た。そこから力づくで脱出できるまで穴を広げると、倒れている嬢ちゃんの傍に飛び降り、六尺棒に手をかける。
『なんだ、この感じ……』
六尺棒を掴んだ瞬間、今まで感じたことが無いおかしな情報がオレに流れ込んでくる。
「そういう事か……クソっ」
色々と思うところもあるが、今はそれよりも嬢ちゃんを何とかするほうが先だ!
ズシュ
「出血量がヤバいな……ベニ、アレを寄こせ!」
「えっ、アレ……アレって」
「いいから早く!」
「わかったわよ!」
嬢ちゃんの体から六尺棒を引き抜くと、ベニから渡されたポーションを傷口にかける。ポーションがかけられた傷口からは煙のようなモヤが立ち、肉が焼けるような不快な臭いが立ち込める。
だが、その臭いの強さに比例するかのように酷かった傷口が驚異的な速度でキレイに修復していく。
『チッ、傷口はこれで良いが顔の血色が良くならねぇ……』
嬢ちゃんの胸に耳を当てると、鼓動もかなり弱まっているのかわずかな音しか聞こえない。
「飲めるか?」
譲ちゃんの口にさっきのポーションを少し流し込むが思ったように飲み込まれずに口から溢れる。実際、意識自体も戻ってないようだから無理も無いが……こうなったら、
「あとで好きなだけ殴られてやるから勘弁しろよ!」
グイ
ポーションの残りを自分の口に含むと、嬢ちゃんを抱き上げ、無理矢理開いた口のその奥に直接流し込む。すると、さすがに喉の先まで流れたのか
「ゴホッ……フ、ゴフォッ」
嬢ちゃんは咽るの同時に意識を取り戻す。
「大丈夫か、オレの声が聞こえるか!」
「……あな、たは……わたしは一体……」
自分に何が起こっていたのか。そして目の前にいるオレを見てさっきまで起きていたことを思い出そうとしている。
「……そっか、ラルさんと戦っていて、最後に【招月】を出して……」
「とりあえず、すまなかったな」
「あ、はい……」
さすがにまだ意識がはっきりしないのか、ちょっとフワフワとした感じでオレのことを見ながら回りの様子を見渡す。そして、
「勝負は……」
「オレの負けだ。何があったかまではまだわからんが、オレが決めたルールを実質オレが破ったようなものだからな」
「なんだか……スッキリしませんね」
「イヤ、嬢ちゃんの場合はそれよりも今は自分の体が大丈夫かを気にしろよ」
スッキリしない勝負の結果についてはオレだって同じだが、そんなもんより自分の体を優先して考えろよ……はぁ。
なんとか無事にアップができました~
そしていつもながらですが、本当に多くの誤字脱字報告をいただき、
本当にありがとう、ありがとうございます<(_ _)>
ほんとね、多いですね……ごめんなさい。
予告通り一週遅れてしまいましたが、この先できるだけ予定通り
毎週アップできるように頑張りますのでよろしくお願いいたします。
次回は予定通り来週の月曜にアップ出来るように……




