178話 アルブラ動乱40 vsラル 5
【ラル・グ・ダーズの視点】
『あのバックステップは逃げる為じゃなく、今から出す大技系闘技を使う為の間合い取りか』
さっき使っていた【闘気練成】も合わせて考えれば、これから出すであろう闘技はそれなりに大ダメージのものになるのは明白。
そう考えた場合、来るとわかっている大技に対してどう対処するかがカギになるわけだが……
『ほぼ使うであろう闘技は勁力系か気系のもの。であれば【剛気】を使って確実に被ダメを少なくしておき、嬢ちゃんが闘技を出した後の隙へ反撃を叩き込むのが正解なんだよな。だが、それなりに大きな与ダメを与えてくるような闘技であれば、正直なところオレの闘技と真正面から撃ち合いてぇ!』
禍々しくすら思えるような赤い闘気。そんな見たことも聞いたことも無い攻撃力向上のバフを使い、それにプラスして【闘気練成】の与ダメ追加。そしてこれから出すであろう、『最大・最強』と話すほど自信がある闘技……
「あぁ、ゾクゾクするぜ!」
「存分に味わって下さい!」
そう言うと嬢ちゃんの姿が霞む!
ゾクッ
『ヤベェ!』
嬢ちゃんの姿が霞んだように見えたのは移動速度が高速すぎることからの残像か!?
目で追い切れないとかいうふざけた動きに対し、とにかく全身の感覚を針のように鋭くしたことで
『そこかっ』
視界では捕らえきれなかったものの、ギリギリのところで目の前に向かっているということだけは認識できた。だが、既に目の前まで来ているなんて冗談じゃねぇ!
「クソッ!」
こうなったらガード一択しかねぇ!
《剛気》
このあと来るであろう闘技に対し【剛気】で確実にガードすることを選択する! ……が、
ふわっ
「なぁっ!?」
ガードで構えたオレの視界を白い何かが覆い隠す。慌ててそしてそれを掴み、払おうとした瞬間、
ガンッ!
「う、を゛……」
最初は激しい衝撃。そしてそれが鈍くも鋭い痛みに変わると、血の気が引きながら思考能力が停止するほどの痛みが津波のよう全身を飲み込む。
その痛みの発生源……それはオレの下腹部。つーか股間。
「うわ!」
「あれはヤバイだろ」
「……男にしかわからないよ、あの痛みは」
「割れたんじゃね?」
「お゛……お゛お゛お゛お゛……」
まわりがなんか好き勝手言っているが、そんなもんは耳にすら入らない。
『く、そっ……防御用のカップを装備していたから割れちゃいないだろうが、衝撃がモロに来てやがる……』
なんとか今の攻撃によるダウンは免れる事はできた。
だが、流石に痛みを耐える際にやや屈んだ態勢になると、そこには赤い闘気に包まれながら、今まさに突きを出さんとする嬢ちゃんの姿が……
―――◇―――◇―――
『勝機は一度』
今からやるのは自分でも邪道だと思う。けど、そんな事に拘れるほどの余裕は無い。勝つ為なら……何でもやる!
《羅刹の息吹》
『うっ……』
真っ赤に染まる視界。ちょっとしたカウントダウンばりに減少していくHP……そして、
『体が……熱い!』
火照るなんて生易しいものじゃない、正しく全身が滾るような異常と感じられる熱量に、妙な渇きを覚えるほど。
……これ、マズい。早く決めないとわたしの中の何かが壊れる!?
「行く!」
もはや1秒たりとも止まっていられない!
ダッ!
強く踏み出した一歩。その足音が妙に大きく聞こえると、視界に映る全てがスローになっていた。それはリュウとの戦いの際に起きたあの状態に酷似している!?
でも、あの時聞こえた不思議な声は聞こえていないし……
『あぁ、もう考えるのも面倒! とにかく予定通りの行動をするのみ!』
ダダッ!
わたしとしては踏み出して二歩目。だけど間合いは既にかなり近づいている。
『やるなら……ココ!』
あとは野となれ山となれ!! 軽くジャンプしてからの
《チェンジ》
本来の意図とは異なるスキルの使い方。手にすべき代わりの装備が無い以上、その結果は
ふわっ
「なぁっ!?」
『よしっ!』
わたしがついさっきまで身につけていた神官服、それがラルさんの顔面に貼りついた!
所謂強制脱衣になる、かなり恥ずかしい状態だけど勝つ為なら背に腹は替えられない。
『最初に言った大技を出すという宣言と【闘気練成】による『とにかく強い攻撃を出す』というブラフ、そして目的通りに隠すことに成功したラルさんの視界。
これで攻撃が当たらなかったら……ううん、必ず当てる!』
顔に付いたわたしの服を剥がそうとするラルさんに対し、
《弾腿》
シンプル且つ弾くような鋭い蹴りが、狙い通りにラルさんの股間に入ると
ガンッ!
蹴った場所からはかなり硬質的な音と感覚が。でもしっかりとダメージは通ったようで、ラルさんはやや前屈みな状態になりながら呻き声を上げている。
『このまま……終わらせる!』
構えや出し方は今までの【鎧通し】と同じ。ただし全身から溢れそうな力を全て掌に集約すると、
《嵐月》
ゴッ!
「ゴハッ……」
赤いエフェクトが灯った掌打がラルさんの鳩尾にきまると、腹部に移ったエフェクトが全身に広がる!
【嵐月】
勁力系の闘技。勁力だけでなく、相手に攻撃を与える際に気の力も流し込むことで威力を上げるだけではなく、命中した相手の気脈 (体内に巡る気の流れをコントロールする機能)にも影響を与え、数秒間麻痺効果を与える。
『決まった!』
技を出すイメージは今までと同じだったから何とかなるかと思っていたけど、初めて使う闘技が成功したのは嬉しい!
……って、喜んでいる場合じゃなかった! ここからは正真正銘初めて使う闘技であり、連続技となる特殊な攻撃。とにかく集中力を切らさずに闘技を出し続ける!
「次!」
力を入れる溜めるように少しだけ身を低くすると、麻痺状態で固まったラルさんに対し、
《孤月》
低い態勢から、上に向かって円を描くように蹴りを出す!
【孤月】
勁力系の蹴り技。威力もさることながら、同時に得られる空中への打ち上げ効果がこの闘技の特徴。また【嵐月】など麻痺で硬直している相手に当てることで、通常以上に高く打ち上げることができ、更に麻痺時間も数秒間だけ延長する事ができる。
なお、【孤月】で打ち上げた相手に対し更に【孤月】を追撃として放つ事で、追撃を兼ねたさらなる上空への打ち上げも可能。ただし打ち上げすぎると追撃の成功率が減少します。
ガッ!
ただの蹴りだったらラルさんほどの巨体を蹴り上げるなんて出来ないし、まず不可能だと思う。だけど単純な闘技ではなく、【嵐月】からの連続技としての【孤月】であれば、その不可能を可能にする!
「もう一発!」
ガガッ!
一撃目で二メートルほど浮いたラルさんに対し【孤月】を追撃でいれると更に上にあがる。結果、地上から五メートルほど浮いた状態に。麻痺した状態のラルさんは防御が出来ず、無抵抗な状態で二発の【孤月】を受けたから、それなりのダメージも受けたはず!
『あとは最後の闘技、【招月】を出して連続技を締める!』
【招月】
気力系の闘技。体内に溜めた気を両手から球状態になるように打ち出すことで、相手をエネルギー体の中に閉じ込め、継続的なダメージを与える。
孤月やエリアル・キャノンなどの締め技として使うことで、避けられない相手に大ダメージを与えることが可能。
ここまで繋げた闘技が勁力系だったのに対し、今から出す【招月】は【衝波】の上位技となるだけあって気系の闘技になる。
もっとも、【衝波】は相手に当てるタイプの闘技だったけど、【招月】は相手をダメージ空間に嵌めるタイプの闘技ということもあり、似た感じで出すような闘技でありながらも使うシチュエーションが異なる所に頭を悩ませる。
だけど今回のように連続技の一環として出すことができると、そういった類の悩みを持たずに出せる分だけ、シンプルで助かるという思いがあるのも事実。
『何にせよ、これで終わらせる!』
上空から落ちてくるラルさんに向かって両手を突き出し【招月】を出す構えに移行する。そして
ドッ!
【招月】を出した音と一緒に何か変な音が聞こえた。
……わたしの体から。
『な、に、いまの』
【招月】を出した瞬間、何かがわたしの体にぶつかる鈍い音が。そしてその聞きなれない音がしてからは発動した【招月】の効果音や、あれだけ騒がしかった観衆の声すらも聞こえない状態になり、それと同時に思考が緩やかに止まり始める。
「……えっ?」
下を見ると、その音を生み出したモノがわたしの背中から腹部までを貫通していて……
ドサッ
「ゴフッ……」
想定外の攻撃と衝撃、そして腹部を貫通するだけの大ダメージによってわたしの体はその場で崩れ落ちたのだった。
はい、本日も予定通りアップすることができました!
め、めさめさリアルが繁忙でここから先がまだまとまりきれていなかったり(´・ω・`)
な、なんとか次回も予定通りアップを目指したいのですが、
もしかしたら次回は4/8ではなく、一週遅れて4/15になるかもしれません……
なんとか頑張りますが、引き続き生暖かい目で見ていただけると幸いです。
引き続きよろしくお願いいたします<(_ _)>




