177話 アルブラ動乱39 vsラル 4
ガシャン!
「かはっ!」
ラルさんが出した蹴りを喰らってしまったわたしはグラウンド横にあるフェンスにおもいっきり激突! その衝撃によって肺に溜まっていた空気を絞り出されるのと同時に、受けた攻撃によって体の内部を痛めたことによる吐血。
一瞬とはいえ目の前が何も見えなくなりかけたのも合わせて、今の攻撃がかなり強烈なものだったと推測は出来るし、吐血するような衝撃を与えた攻撃には恐怖よりも『まさか』と思えたのが事実。
『HPが減った量以上に、受けたダメージの方が高く感じた?』
減ったHPは全体の約二割弱。変な言い方をすると、それで吐血してしまうほど(マチュアさんから)軟弱には鍛えられていない。
『たぶん蹴りの衝撃とフェンスに激突した時の衝撃、その二つが合わさった結果が受けたダメージとは異なる別の要因を作り出し、吐血するような結果になったんだと思うけど……』
今まで経験していないことからそんな仮説を立ててみるも、もしかしたら全く別の……それこそあの蹴り自体に『相手を吐血させるような効果』があったのかもしれないけど、正直そこまで断定出来たりはしない。
もっとも、
『あの攻撃を食らう瞬間に【剛気】から【金剛体】に変える事が出来たことによってこれだけのダメージで済んでいる訳で、もし【剛気】のままの防御だったとしたら蹴りのダメージだけで即死していたかもしれないとか?』
本当、シャレにならないレベルのパワーを持った人だと改めて痛感する。
互いの攻防の中から、一瞬生まれたと錯覚したラルさんの隙に近い動き。攻めあぐねるとは言わないまでも、攻めきることが出来なかった状況を何とかしたいと考えていたわたしは、ついその動きに反応……そしてあの攻撃を喰らってしまった。
『でもそれは隙なんかでは無く、ラルさんがこちらの状態を見てワザと作り出したもの。完全にフェイントというかトラップに掛かっただけ……あーもうっ! 悔しい!』
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『だからいつも言ってたじゃないの。あなたは格段に強くなっているけど、まだまだ経験が無さすぎる。もっとズルくならないと足元をすくわれるって』
マチュアさんとの修練時によく言われていた言葉。それが頭の中で何度も繰り返しで流れる。
『ほんと、そうですよね……でも、そうやってマチュアさんがわたしを修練をしてくれたおかげで、今こうやって死なずに済んでいる事に繋がっている、そうですよね』
実際、マチュアさんとの修練時にも同じような事は何度もあった。こちらが攻めやすく感じるようなポイントをワザと作られては、ついそれに反応して動くことでわたしはカウンターを喰らっていた。
その度に『巧者になればなるほどフェイントがあるから気を付けるように』と注意されていたのを今更ながらに思い出す。
『あはは、マチュアさんとの修練でも危険な技を食らう度に(正確にはマチュアさんから闘技を食らう直前に)何度も感じさせられていた警鐘と同じだったから、ついその時の癖で【金剛体】を使っていたって話したら、褒められるのか怒られるのか……どっちかな』
ま、その為にもこの勝負に必ず勝たないと! ただ、その為ににも今は……
「回復しな」
そんな事を考えていたタイミングでラルさんから思いがけない言葉をかけられる。
「……どういう意味ですか?」
正直、回復を促されるというのは信じられない事だった。
「このままじゃ面白く無ぇからな」
ラルさん的にはさっき話していた通り、先の剣士との戦いでわたしの【鎧通し】を先に見てしまったことで『つい【剛気】でガードしちまった』ということが面白くないらしく、それを埋める為にも回復させたいとの話。
『……罠じゃない、わよね?』
つい穿った見方をしてしまうものの、ラルさんが何かを仕掛けて来るような素振りは見えない。
次は無いであろうチャンスであることは明白。でも、さっきと同じような展開になれば、結局その先の見えてくるモノは変わらないと思う。
……わたしが負けるという意味で。
『だけど拾えるチャンスがあるなら、それを使わないのはなにもしないよりもっとイヤ!』
「わかりました、だったら遠慮なく! 《ヒール》」
「そうそう、そうやって素直に回復しときゃいいんだよ。コレで借りはナシだ……次は無ぇからな」
そう口で言いながらも、獰猛さを含む笑みでこちらを見るラルさんは実に楽しそうでとてもムカツクというか何というか……まぁ、まだ戦えるだけ感謝しておくけど。
さて、
『ここからどうすべきか……』
さっきまでのシンプル且つ後手に回らないよう速度を意識した攻め方。優位には立てていたとはいうものの、HPの削りあいという意味においては分が悪かった。
わたしはラルさんの攻撃に対し【剛気】を使った上でガードをしていたのにも関わらず、殴られる度にHPが減っていた。もちろん【剛気】を使っているからこそ、それぐらいの被ダメで済んでいるわけであり、こちらからラルさんへ与えるダメージよりかは少なかったはず。
ただし、それでもラルさんと体力差、所謂HP差から考えればあのまま行っても最終的にわたしのほうが先にHPを全損して死んでいたと思う。
『ま、それ以前にさっきの蹴りでこっちのHPが二割近く減っていた訳だから、あのまま続いていたとしてもそこまで時間をかけずに負けていた……ラルさんがわたしに回復をさせなければ』
そうなると追いつめられる前にこちらから仕掛けるしかないのだけど……どうやって仕掛けることでラルさんを超えることが出来るのか。正直、そういった事が簡単に出るほどわたしには戦闘の経験がまだ少ない。そうなると過去の対戦から思い出して使える術を考えるしか無いわけで……
例えばトロールとの戦い。あの時は【大地共鳴】を使うことで勝つことが出来なかったものの、それなりの結果を出すことは出来たと思う。ただし、あの闘技としては時間が切れた後にそれまで受けた被ダメが通常HPしかない状態の自分にそのまま返ってくることから、(どう考えても)ほぼ間違いなく死亡するであろうことも踏まえ最後の最後まで取っておきたい、切り札として残しておきたい。
例えばタウラスさんとの戦い。最終的に強制武器解除を使用した攻撃などで勝てたとはいうものの、当初集団での戦闘で始まり、弓師が放った攻撃によって大ダメージを受けた優位な展開だった事。
そして武器を使うタウラスさんと強制武器解除との相性が良かったということからも、ラルさんとの戦いの中では参考とはし難い。
ただ、どちらの戦いでも【闘気練成】を使うことで大きなダメージを与えることが出来たのは同じことからも、この闘技を絡めた攻撃を使うのはマストになるとは思う。
あと、
『格闘同士での戦いがマチュアさんとの修練以外で殆どなかったのも何気に痛い……』
ただ、とにかく足りないものがあるという認識だけは持てたことをポジティブに考える!
……といっても、結局普通の攻め方ではラルさんに対し有効になりそうなものは浮かばない。ただ、浮かばないなら浮かばないで今まで使ったことが無いものも含めてアイデアを搾り出す。
『……うーん、どう考えても自分が持つ攻撃手段の中において、ここまで使用した闘技では良い結果が出せそうなものは無いと思う。
そうなると今まで使ったことが無い闘技でやってみるしかない……』
簡単に言えば【羅刹の息吹】とそれに関連した【嵐月】などの攻撃の闘技。一応ここに来る途中で新しく覚えた闘技については一通り読んではあるけど、実際に使ってみないことには博打の範疇を超えないし、そもそもまともな効果が出せるかも怪しく思う。
そしてこれに付随した問題として『それだけ強そうな攻撃を如何にしてラルさんへ当てるか』ということがかなり厳しく、それを考えるだけでかなり頭が痛くなる。
『わたしが使えるようなフェイントが効くとは思えないし、そもそも出すとわかっている技だったら簡単に対処されてしまう……』
きっと、今まで使ってこなかった闘技を使えばラルさんとしても(食らわないよう)的確に防御してくるだろうし、カウンターも含め迎撃するような闘技を使ってくるかもしれない。だからこそ、絶対に当てられるような状態を作り出す必要があるわけで……
『そんなものがポンポン出てくるようなら苦労しないし!』
こういう時にニーナならパパッと予想外な行動を考えられるんだろうなぁ……ん?
『パパッと……予想外……行動……』
自分でそう言いながらも気になったワードがわたしに何かを知らせる。そして、
『あった。あったけど……』
そういう使い方なんてしていないし、そもそも使ったことが一回だけしか無いということが自分の中で不安を煽る。それに成功したとしても、その後が色々と問題がががが。
でも、今の自分にはそれで突破口を開くのがもっとも可能性があるという思い込みを強く持つことで不安を打ち消し、先にあるかもしれない暗くなりそうな未来に対しても『これなら勝てる!』という何の根拠も無いポジティブ思考で強制的に上書きする。
「お、表情が変わったじゃねぇか、腹をくくったか?」
「ええ、とりあえず」
わたしはそう言うとバックステップでラルさんとの距離を離す。そして、
《闘気練成》
さっき受けた三割分の被ダメを攻撃に上乗せする!
『本来なら受けたダメージを回復せずに使うことで威力を増す闘技だから、回復した今だと一割ぐらいしか上がらない……でも無いよりマシだし!』
「チッ、それを使えるのか!」
「ええ、なるべく大きなダメージを与えたいので」
こちらが使った闘技を知っているラルさんはあからさまに嫌がる素振りを見せる。
『ラルさんが【闘気練成】を知っていたのがどっちに出るか』
効果を知っているということはそれに対する行動を取るはず。であれば……
「行きます! これから出すのが今のわたしに出来る最大・最強の闘技です!」
《羅刹の息吹》
『迷うだけ時間の無駄、それにラルさん自体の特殊なバフでこれ以上時間がかけられないのであれば、あとはとにかく最大の効果で最高の結果を得られるようにするだけ!』
さっきまで使っていた【修羅の息吹】を【羅刹の息吹】で上書き。それによりさっきまでとは異なる……それこそ異常と感じるレベルで体の中が熱くなる!
「おいおい、血みたいに赤い闘気なんか纏いやがって……そいつも知らねぇ闘技だぞ。かなりヤバそうじゃねーか!」
ヤバイとか言っているわりには顔がニヤけてますよ!
はい、本日も予定通りにアップできました。
ここ最近は予定通りにアップも出来ているので、なんとかセーフかなぁと思いつつも
誤字脱字が多くてやっぱりアウトなのかなぁ……とも(´・ω・`)
結構、対人戦の話が長くなってしまいましたがもうすぐ話も変わっていきますので
何卒よろしくお願い致します。
ちなみにまだ少しリアルが繁忙な状態になりつつあるので
ちょっと書く時間が取れない状況に……
なんとか週一の更新だけは維持できるように頑張りますので
引き続き生暖かい目で見ながら待っていただけると幸いです。
それでは次回4/1(月)予定のアップ目指して頑張ります!




