177話 アルブラ動乱38(主人公視点ではありません)
【ラル・グ・ダーズの視点】
『コイツは良い獲物だぜ。久々だぞ、ここまで熱くなれる戦いなんてなぁ!』
アルブラであのクソガキに従ってやっていたことなんて、これに比べれば戦闘行為なんていうのもおこがましい。それこそオレにとっては退屈しのぎにすらなっていなかったもんだ。
互いが出す一発一発の攻撃。高いレベルで繰り出されるその攻撃が、否が応でも頭の中を、そして体の芯を熱くする。こういった戦いこそオレが求めるもの。
『傭兵としてアチコチ戦うことでこれに近いものを味わうことは出来ていたが、今味わっているこの戦闘は今までと比べれても格別だ!
話だけ聞いていたがベニが戦場で見たと言う【傾国の騎士】とやらもこんな感じだったとしたならば、是非にでも一回はやりあってみたい!』
ベニからは『止めておけ』と言われていたが、こんな感じで楽しめる相手であれば戦いたくなるというのが戦士の性よ。是非とも戦うチャンスを与えて欲しいと切に願うぜ。
ま、今はそれよりもこの嬢ちゃんだ。
「いいぜ、いいぜ! もっと来いよ!」
「言われなくても!」
最初の手四つで互角だったのは素直に驚かされた。そしてそこからの炎を操っての奇策に、隙をついた豪快な投げ。極めつけは【剛気】を使わなかったらヤバかった闘技!
『アレだって先に嬢ちゃんが使った勁力系の闘技を見せていたからこそ、オレだって【剛気】を使う余裕があった訳だしな。あの技見てなかったらモロに食らってただろうよ』
もっとも、今だってこちらを上回るスピードで突きなどをして来るのは感心するレベルだ。だが、最初の闘技に比べればちょっと寂しいじゃねぇか……なぁ?
嬢ちゃんとしてもオレの闘技を気にしてだろうが、とにかく隙を無くした素早い攻撃をすることで戦いをコントロールしようとしているのが手に取るようにわかる。実際、オレとしても反撃としていくつかの闘技を使おうとしたものの、上手く攻撃してきやがるから煩わしくて使うタイミングが絞れねぇし。
『ただなぁ……』
悪くは無い。悪くは無いが……オレはもっと熱い攻防をやりてぇんだ!
『どれ、もうちょっと嬢ちゃんを焚きつけてやろうか』
最適な攻撃を繰り出す嬢ちゃんの動きは格段に速い。だが速いだけじゃ意味がない、気を付けなきゃそういう攻撃は読みやすくなっちまうからな。
というわけでちょっとだけオレの動きを変えてみるが……
スッ
『……ああ、残念ながら気が付かないか』
嬢ちゃんの攻撃とオレの攻撃。それぞれが相手の技を受けたり、動き出したタイミングに反応しているのは仕方がないこと。だからこそ、そのタイミングをちょっとズラしたり、相手に反応しづらいようなフェイントを交えた攻撃というのは、狡猾でありながらも実に当たり前な技となる。
さっきとは異なる、ほんのちょとした気の使い方。見ている奴等は元より、嬢ちゃん自身もそれに気が付かなかった結果が目の前に現れる。
バゴッ!
唐突に表れたオレの脚にぶつかった瞬間、嬢ちゃんの顔が驚きと悔しさに歪むのがわかる。
ガシャン!
「かはっ……」
そのまま振り抜くように蹴った結果、嬢ちゃんは広場の堺として立っていたフェンスに激しくぶつかると、そのまま力なく地面へ激突。衝撃が体中を回った結果か、口から大量の吐血をする。
『モロに食らったようだが……おいおい、まさかこれでお終いか?』
フェイント的に気を放ち、嬢ちゃんをさっきまでの攻防時よりも三歩左へ寄せた。ま、今までであればそこにオレの脚は無かったから嬢ちゃんも何気なく移動したのだろうが……残念ながら今ままでとは違い、そこにはオレの脚が待ち受けており、カウンターでキレイにヒットした。
傍から見ていた奴らからすれば嬢ちゃんが自分から食らいに行ったように見えるし、嬢ちゃんからしてみればあるはずが無いと思い込んでいた場所にオレの脚があったわけだ。
『技の筋は良いが、如何せんまだ戦闘の経験が少ないみたいだったから、ちょいと巧妙なフェイントをかけてみたら残念ながら見事にハマっちまったな』
でもちょっと手応えつーか、脚応えが悪かったが……まさか、
『【剛気】を使った防御から別の防御に切り替えたのか?』
あのタイミングで切り替える……大したもんだと思うし、そういった経験だけはしてきたのだろうと推測は立つ。そしてそこに滾る!
「もう終わりか?」
「まだ……まだっ!」
うーん、ヤル気はあるみたいだが体が言うことを聞かないみたいだな。
『……よしっ』
「ヒールで回復しな」
「……どういう意味ですか?」
さすがに警戒というか、こっちの思惑を計りかねているって感じか。
「なに、さっきも言ったが嬢ちゃんと戦う前にオレは嬢ちゃんの闘技を見せて貰っているからな。そのハンデ分を返しておかないと気持ち悪くて仕方がねぇし、勝ったとしてもイマイチ納得がいかねぇ気がしていてな」
「そんな理由で?」
「バーカ、そんな理由だろうと納得いかないものはダメなんだよ」
他人がどうだとか知ったことじゃねぇ、テメェが良いか悪いかだけよ!
「……後悔しても知りませんよ」
「ハッ、勝って気持ち悪いより何倍もマシだよ」
「わかりました、だったら遠慮なく! 《ヒール》」
「そうそう、そうやって素直に回復しときゃいいんだよ。コレで借りはナシだ……次は無ぇからな」
回復後に再び構えをする獲物をどう仕留めるか……今のオレにとってそれを考えるのが最高な時間だ。まぁそれにしても、
「よくあの場面から防御を切りかえれたじゃねーか」
「……鍛えていますから」
鍛えてねぇ……言うじゃねぇか!
「ま、でもどういうものであろうがここ一番という時に頭や手足が動いたのは嬢ちゃんが今まで経験してきたものが生きた結果だろうよ。なかなかに良い師と巡り、良い戦いと出会えて来たんだろうな。勝っても負けても体に直接覚えたものがしっかりと見に染み込んでいるぜ?」
「ええ、自慢の師と誇れる友人がいることでわたしはここまで生きて来れました。痛い思いも逃げたくなるような時もありましたが、一緒に頑張ってくれる人達がいたからこそ、こうやって再び立つことを後押ししてくれている」
「ははっ、他人の力だけじゃねーさ。キチンと嬢ちゃんが生き残る努力をしてきた結果だ」
どうにも異邦人つーのはこういう他人リスペクトというか、自分の力として得た結果を素直に受けない奴が多いな。そういうものって言えばそうなんだろうがな。
はぁ、オレにはよくわかんねー話だぜ。
「まぁ良いさ。それよりもオレに勝ちたいと思うなら早めに何とかしないとヤバイぜ?」
「早めに……って、まさかさっきから騒がしくなってきたアレですか?」
お、気が付いていたか。ま、あんな風に殴り合いが始まっていたらわかるか。
「ああ正解だ。悪りぃな、どうしても熱い戦いをすると周りに影響を出しちまうんだ。たぶんオレだけの特殊な闘技【戦気乱舞】がな」
「バッカス?」
「リア、急いで! それは変質型パッシブ、効果範囲系の厄介なものよ!」
「変質型範囲パッシブ!?」
「亜人にとっては攻撃力が上がるというプラスの効果でしか無いけど、普通の人間にとっては効果が強すぎて攻撃力の向上だけで収まらず、酔ったかのように気性が激しくなってしまうの!
今はまだこの辺りだけで済んでいるけど、継続的に効果範囲を広げ続けるから、このままいけば最悪街全部が範囲になるわ。そんなことになれば街全体で暴動が起きてしまう可能性が!」
おお、何かあっちの嬢ちゃんが詳しく説明してくれたが……あー、ベニが説明したのか。ま、オレが説明しなくて済んだから助かったがな。
「さ、周りもせっかく盛り上がってきたんだ。オレ達も負けないように熱くなろうじゃねぇか!」
今回のアップ前にたくさんの誤字脱字のご指摘をいただきました。
全て確認して修正をさせていただいております、本当にありがとうございました。
未だにあんなに修正個所があるとか……お恥ずかしい限りです。
ということで(話を切り替えて)今回は急遽二話に分けさせていただいたうちの後半です。
……わ、話数マシマシの為じゃないですよ(汗)
さて。
以前の戦闘シーンでも、こんな感じで相手側の心情や思惑なんかを書いていますが、意外にこれが楽しくて(笑)
自分の中では声もあてて話を書き出すと止まらなくなり、今回のような二話分という結果になってしまって……もう少し考えないとダメですね。
次回は主人公サイドに話が戻りますので、よろしくお願い致します。
次回は通常通り来週の月曜(3月25日)アップ予定です!
さ、アラアラな文章ですが一応もう一回見直しをしておこう……




