表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/288

176話 アルブラ動乱37(主人公視点ではありません)


【ベニ・ド・マルスナーの視点】



『強くてしなやかな攻撃、ブレない軸、恐怖心を持たないような間合いの取り方。

 あの歳で歴戦の戦士と同等の戦いをするなんてね……実は領主の館(あそこ)に陣取っているオバサンのように、外見は十代でも中身は三十・四十代とかだったり?』


 何にせよアイツとこれだけ良い戦いが出来るだけの女性、しかもそれが異邦人ともなれば、そうそういるとは思えない。

『ウチに生まれる異邦人にだってここまでのはいないわよ?』


 本当、これで彼女が異邦人じゃなくこっち世界の住人だったら、間違いなくアイツは求婚していたんじゃないかと思う。


『ここまでのイレギュラーレベル的な強さということから考えると、帝国にいた異邦人と言われている【傾国の騎士】を思い出させるけれど……まさか同じ血統とかじゃないわよね?』



 とある戦場で見た【傾国の騎士】……

 以前、彼女を戦場で見た際には、漆黒の鎧を身に纏い軍馬に乗る帝国軍人そのものの姿をしており、七色に輝く長剣を振るいながら突撃して来るその姿は、敵味方共に彼女に戦神を重ねたものだった。

 通常、亜人が多くいる集団へ好んで突っ込んでくるような物好きはいない。だが彼女は恐れもなく我々の方へ突撃してくると、騎乗した状態で無双とも言えるような活躍を見せ、ほぼ無傷の状態で突撃してきた所と反対側の方へ抜けて行き、その姿を見ていた帝国兵の士気を上げに上げた。


 そんな【傾国の騎士】とまではいかないものの、アイツと戦う目の前にいる彼女もまた、異邦人という枠組みから逸脱しかけているような冒険者だと思う。


『そりゃあ、正直なところ【傾国の騎士(アイツ)】の方が格段に強かったけどね』

 異邦人のクセしてウチらと同等かそれ以上の強さを持つ人間なんて、ハッキリ言って反則に近いだろうと思うけど、帝国の第一皇子と結婚して子を設けたと噂に聞いたことから、二度と前線には出て来ないと思う……出て来ないわよね?

 それにしても、



『惜しいわね、これ程強い冒険者とこんな場所で出会うだなんて』

 何となくだけど、彼女のことを知りたいと思った。

 何をしたことによりここまで強くなれたのか、どうしてアイツと戦いたいと言い出したのか、いったい何が彼女をそこまでせるのか。


 ……たぶんこの戦闘が終わってから聞くのは難しいだろう。彼女自身の問題もあるけど、ワタシ達も新たな戦場へと移動することになると思うから。

 そうだとしたら……



「隣よろしいかしら?」

「え、ええ……」

 彼女と一緒に会場へ現れた術士の隣に移動し、声をかける。


『彼女にしても、この娘にしてもワタシの接近に気が付けていない。そう考えるとレベル的にはそこまで高くは無いと思うのだけれど……』

 とすると、彼女はそんなレベルでしかないのにもかかわらず、アイツと互角に思えるような戦いが出来ているということになる。

 ……それはそれで恐ろしい話よね。



「アナタも彼女が勝つのは厳しいと見たようだけど理由を聞いても?」

 仲間である彼女の戦いについての意地悪な質問。だけどこの娘はその問いに答えてくれた。


『この娘も彼女が勝つのは厳しいと気が付いている。もっとも、気づいたものは二つの内の一つだけ。もう一つの差に気が付くことが出来ないのを責めるつもりは無いけれど、それがこの戦いのキーになるとは思う』

 そんな事を思った瞬間、



 バゴッ!  ガシャン!



「かはっ……」


 彼女はアイツの蹴りを正面から喰らうと、そのままフェンスに激突して血反吐を吐く。


 誘われる、もしくは自分から進んでアイツの脚に向かっていったような彼女の行動を側から見ている人達には不思議な光景にしか見えないのだろう。でも、そのタネと言われるモノはさほど難しいことではない。

 結局の所はアイツと彼女との間ありどうしても埋められない差なのだから……



『でもよく切り替えられたわね、ギリギリとはいえ間に合ったようだし』

 彼女は蹴りを喰らう寸前、今までとは異なる闘技を使い防御した。それにより致命傷とならなかったのを素直に賞賛する。

 もっとも、お友達の方は顔面蒼白になっているけど。



「まだ彼女はやるみたいよ?」

「リア……」


 しかし、彼女はあの攻撃を喰らった理由を気づけたのだろうか? それともただ無我夢中で立つことを優先させただけなのだろうか?



 それにこれだけ熱くなる戦いであれば、直にアイツの……ラルが【死撒剛腕(テンペスト)】という二つ名で呼ばれるスキルが発動するだろう。そうなればこの戦いを含め、色々な意味で更に混沌と化したモノに変わっていく。

 そうした場合、ただ立ったという事だけではその先にある結果を変えることなんか出来やしない。

 それに、



「アイツと彼女は決して埋められない差があるわ」

「……埋められない差?」

「ええ、それは『生き延びてきた』というこれまでの経緯を考えればとても簡単なことよ」

「生き延びた……簡単なこと? ……あっ」


「あら、気が付けたようね」

「おかげ様でね……リアとあの亜人との間に決定的な差があることに気が付けたわ」

「聞いても?」

「そうね、私が気が付いたことであれば」

「是非」

「リアとあの亜人との決定的な差……それは戦いに関する実戦経験。

 いくらリアが強くなったとはいえ、それでもこの世界に来て数カ月でしかないし、そもそも私達の世界で戦うことなんて習っていないわ。

 でもあの亜人は戦闘のプロであり、どう少なく見積もっても十年以上戦いの経験を積んでいる」


「正解よ、ちなみに十年じゃないわ。アイツは今年で二十五歳だけど、戦場に出たのは十歳だから十五年は戦いの経験を積んでいるわ」

「十歳から……」

「ええ、ワタシ達亜人であればそれぐらいの歳から戦いの場へ赴くことも普通にあるわよ?」

 十歳にして、アイツと対峙した敵軍の首を獲ったというのは、アイツの武勇として有名な話。

 ただ今の会話で重要なのはそこではない、



『彼女は戦うことを始めてから僅か数カ月であの強さなの!?』

 ありえない、そう思いたい。


 ……でもそれが本当だとしたら、今であれだけの強さ持つ彼女は【傾国の騎士(アイツ)】級になる可能性があるってことじゃないの!? だとすれば、例えこの場で彼女を殺したとしても異邦人としての能力で復活し、何れまたどこかで戦うこともあり得るのかもしれないということになる。



『ラルが負けるのもアレだけど、彼女が負けたとしてもそれを糧とすることで、更に強くなってワタシ達の前に現れることを考えておかなければならない……?』


 そんな未来を考えただけで、嫌な汗が流れるのをワタシは感じ取っていた。




 はい、今回も予定通りアップ出来たのですが、当初はこの倍の量になってしまいまして……話の切れ目がイマイチ上手く行かなかったことあり、今日は半分だけをアップしています。


 残りのもう半分については3/21の木曜日にアップさせて頂きますので、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ