169話 アルブラ動乱30
※19/07/02 誤字・脱字修正しました
「まぁええ。それよりもちょっとオメーのPA出してみろ。良い機会だ、少し見てやる」
あれからトム店長は店舗の中にある整備室にわたしを連れて来ると、いきたりPAをこの場へ、出すように命じた。
「えーっと、この後使うかもしれないので……」
まだ何をどうするかまでは決まっていないけど、色々と聞いた話から場合によってはPAを使った戦闘も考えておく必要があると思う。
だとすると、いつ何が起こっても対応できるように手元に残しておかないと……
「いいからツベコベ言わずにサッサと出しやがれ!」
「は、はいっ!」
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『ううぅ……』
十分後、わたしはトム店長の前で正座です。
そしてわたしの型ハマルも装甲の所々が剥がされた状態で格納庫に立たされており、剥がされた箇所からは配線やギアなど中のパーツが丸見えになっています。
「で、これを見てどう思うよ?」
「……すごく、申し訳ない気持ちでいっぱいです」
型ハマルは重装な装甲を持ったPAという事もあり、見た目があまり変わっていなかったことも合わせ『それほどダメージは受けていない』と、わたしは勝手に思い込んでいた。
実際、操縦席のディスプレイに表示されているPAの各種情報においても、装甲の損傷具合やシールド・エネルギーの伝達率については【問題なし】と表示されており、早急に機能回復を行わなければならない状態とは思っていなかった。
ただし、あくまでそれらはPAという機械が持つ表面的な状態のことであり、装甲を剥がした内部とも呼べる部分においては、最初に稼動した時より僅かとはいえ傷んだり凸凹したりと、各種信号・エネルギーの伝達にほんの僅かとはいえ影響が出そうな箇所がいくつか散見された。
『内部はこんな事になっていたんだね……ゴメンね、ハマル』
装甲の下に存在する配線のズレ、PAにおける骨の部分にあたるプレートの僅かな歪み、そして関節部分のギアの細かなヒビや、ホバーとして駆動する部分に取り付けられている吸排気口のちょっとした変形。
それらはバンダナ男のPA(型フォーマルハウト)や、リュウのPA(型ベガ)との戦いによって受けた攻撃の残滓。
破損とまでは至らなかったものの、細部にまでしっかりとダメージが到達していた証であり、PA自身としては損傷として識別出来ず、自動回復では修復しきれない箇所。
『少しずつだろうが、それらの戦闘で受けた攻撃の衝撃や熱などが外装から装甲内部への伝播したことによって起きたんだろうよ』
と、わたしが戦った対PA戦の話を聞いたトム店長が教えてくれた。
「確かにこのレベルじゃあ、PAも損傷としてエラーは吐き出されんよ。
だがな、特にオメーみたいなPAのリペアスキルを持った奴だったら真っ先にこういう所までチェックし、己のPAがいつでも最高の状態で使えるようにしておかなければならん。
それこそがPAに最も近い位置にいる存在とも言える【リペアスキルを持つメカニックの本分】じゃよ。PAにとって唯一の存在、搭乗者以外で己の命を預ける互いに信頼を持つべき関係だ……わかるな?」
「はい、本当に反省しかできません……」
自分としてはディスプレイに表示される情報だけでチェックできると高を括っており、偶に戦闘中に発生すると言われる能力低下など、突発的に発生する異常事態については『ただ運が悪いだけ』だと思っていた。
だけど、
『PAで戦闘などを行っている際に不意に起こる障害や機能のダウンは運の問題だけではなく、こういった表面化されない部分における小さなダメージの蓄積の方が原因となっているもんだ』
とトム店長に言われ、ハッとしたのが正直な所だった。
「テメーのPAにどれだけ力を、どれだけ熱を注げるか。その質と量が高く多いかによって、それを受けたPA自身もまた、己の主人と言える操縦者に応えようとし、持っているモノ以上の性能を発揮する。
これはオカルトなんかじゃねぇ、人とPAとの信頼の結果よ」
「はい」
「オメーは良くも悪くもまだまだ中途半端よ。だがな、PAに注ぐ情熱なんざテメー自身のレベルに左右はされん! 如何にしてPAと向き合い、理解し、信頼を得るか。それによってPAもまた強くなろうと努力するんじゃよ。
……いいな、絶対に忘れるんじゃねーぞ!」
「はい!」
こういった感じで叱られるというか、厳しく接してもらえるのも現実を含めかなり久々な感じがする。だからこそトム店長の期待を裏切らないよう、わたし自身がもっと出来ることをキチンと見直す必要があるのだと改めて思うと共に、トム店長の凄さを再認識するのだった。
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「でもこうやってPAの装甲を外すことで、改めてこの型ハマルという機体は特殊なんだと感じますね」
「ほぅ、どんな所が気になった?」
本当は直ぐにでも街へ行ってティグさんのから信頼を得られるような、そしてそれを得たことによる評価によってマチュアさん達を間接的に助ける術としたかった。
だけどわたしが焦って行動したところで自体が好転すると思えなかった事、そして焦った行動がかえってマイナスとなるかもしれないという事も考えられたことから、まずはトム店長の元でわたしのPAをメンテナンスすることに。
そして改めてPAの外側ではなく装甲を外した内側も見てみることで、他のPAとは異なる特異性を見ることができた。
「はい、友人の型デネブや型シリウスを修理やチェックついでに見せてもらった際にはそれほど感じなかったのですが、こうやって型ハマルの内側を見てみると装甲の厚さもそうですが、装甲自体が二重のようになっていたりするのが特徴的に感じたもので」
「ま、確かにPAの外装としては装甲が一重なのが普通だな。だが、オメーの言う通りハマルはメインの外装の下にもう一枚装甲を装備することで二重になっている。
その理由はわかるか?」
「そう……ですね、最初に思ったのはハマルの戦闘方法というか、スタイルでしょうか。
普通のPAであればある程度の距離から射撃、そしてその後の近接戦闘へ移行するのが主体となると考えますが、ハマルの場合はどちらかというと特攻や強襲がメインになることから、相手に突っ込む前に落ちないように装甲を厚めにしているということかな……と」
「ふん、間違いじゃないが、それだけじゃねぇ。
ハマルの特徴とも言えるホバーは他のPAじゃ見られねぇ特殊な機能だ。
ホバーは機動力に優れちゃいる。だからこそオメーの言うとおり、戦う相手に対して初手で食らいつく役目を担う事が多い。だかな、初手に攻撃したあとにダメージがあるからと言って外野でボーっと戦場を見ていて良いのか? 違うだろ」
「はい」
「初手でハマルが相手陣営にダメージを与えることで、そこを起点に味方は突っ込むことが出来るようになるだろう。だがな、そうやって一点を突破できるようになった後、そこだけが戦線のポイントとなっちまうと、相手も手持ちの戦力をそこへ集中することが出来ちまう。
それじゃあダメなんだよ。
相手にとってイヤなのは一つの戦線に対し複数の戦闘箇所を作られ、設定した防衛線に対応し辛くなるような多数の穴を開けられることだ。いくら高い戦力を持っていようがそれらをアチコチに散りばめていたら意味がねぇ。
そうやって相手の防衛線の至るところに現れ、食らいつき、穴をぶち開ける……それがハマルのもっとも得意とする戦術だ。
しかしな、そうやって食らいつくにもハマルがボロボロじゃ意味がねぇ。そんなポンコツ状態で顔を出せば、無駄に落とされて……ハッキリ言えば犬死になるだけだろうな」
「……」
実際、わたしからみても戦う相手がアチコチに出てきたらイヤになると思うけど、そうやって顔を出す度にボロボロになっているような状態だったら、多少無茶をしてでも止めようすると思う。
『そうやって嫌な相手を落とすことで、味方の士気も上がることになる……と思うし』
「ま、そうやってダメージが無い状態で別の戦線に突っ込むことができるように考えられた結果、ハマルはメインとなる外装を取外すことが、そして容易に強制換装が出来るような仕様になっている。故にハマル自体がある程度のダメージを覚悟した作りであると共に、ドックに戻って外装の換装をすることで、即再出撃が出来るようになっておるんじゃよ。
勿論、その分換装できるような外装を持つことで機体の総重量が重たくなり、どうしても起動時の瞬発力や戦闘時の跳躍力が劣っちまうのは、性能とのトレードオフとしちゃあ仕方がねぇって事だがな」
「なるほど……でも予備の外装なんてそう簡単には持てないような?」
「そうだなぁ、実際にハマル使いを最近見ないから何とも言えねぇが、ちょっと前ならハマル使いであれば二台目のPAもハマルを持つことにより、敢えてそれを予備装甲兼パーツ補充用としたもんだがな。
あとは別途新規で外部装甲を買ったという奇特な奴もいたとは聞いたが……」
「奇特って……なんだか聞くのも怖いのですが」
「軽く見積もっても一千万Gだろうな、外装一式で」
「ヒィィッ!?」
無理無理無理無理っ!
手持ちで50Gしかないような貧乏冒険者には、一千万Gなんて夢のまた夢……天文学的とは言わないまでも、途方もない金額であることに変わりはないし。でも、
『……いつか、必ず予備の外装用意するからね』
とりあえずハマルに謝っておくことにします、はい。
はい、という訳でなんとか2月14日のバレンタインに今週二話目をアップすることが出来ました!
これもひとえに読んでくださる方々のおかげです。
やっぱり訪問者数とか増えると頑張れます!
そして本当に誤字脱字の酷さに我ながらションボリを通り越して、ただただ申し訳無いと頭を垂れるだけです。スミマセン……(´・ω・ `)
ご指摘抱いた箇所については全て修正しましたが、もし他にもあれば容赦なくツッコんでいただけると喜びます!
さて、バレンタインであっても特別な話を書けるほどのスキルも無いので普通の話ですが、こんな感じで少しだけでも話をアップできるタイミングがあれば、次回も以前の如く週二回アップしたいと思いますので、よろしければ引き続き読んで頂けますよう、お願い致しますm(_ _)m
それでは次回、また翌月曜日2月18日にアップ出来るように頑張ります!
※次々回ももう一度木曜アップとか出来ればベストだけどなぁ……




