168話 アルブラ動乱29
「リアさんも色々と大変だったと聞いています~
ですがそのおかげで【特別な領域】の事もわかりましたし、あそこにあった機械群の壊れていた状態から察すると、リュウと呼ばれていたあの男も重要な情報は入手できなかったと考えます~
……もっとも、私達もそれらについては何も得られませんでしたが、敵と考えるべきであろう彼らにも余分な情報が行かなかったことだけでも良しとしましょう~」
「そうですね、わたしも今回の件で彼とは因縁が出来ました。きっとこれからも色々な場面で会うことがあると考えます」
次どこで出会うかまではわからないけど、こういう関係となった以上は、何時いかなる場面においてでも接触や応対する可能性を考えた方が良いはず。
『それこそ、戦場だろうと何処だろうと問わずに……』
「でもこうやってリアさんから得た情報によって私達も色々と考えることが、そして対応していくことが出来ます。そういう面においてこれほど有難いことはありませんよ~
もし、可能であれば今後もリアさんが得た情報を私達に卸してくれませんか? 勿論、無料でとは言いませんよ~
その対価として金銭での報酬や、リアさんが神殿でより多くのことが出来るように権限の付与や開放など、私が出来る範囲であればですけどね~」
「ティグさんが出来る範囲での報酬……それはわたしが望むことも含まれますか?」
「リアさんの希望があまり無理なものじゃ無ければですが~」
『言質はとっておきたいけど……あまりに無茶な事を言うことで、二人の立場がかえって悪くなるようになったら本末転倒だよね。それにあまりにも露骨に話してしまうと、逆にそれを利用されかねないかもしれない。とりあえず……』
「わかりました。では、ティグさんが領主権限で出来る範囲でのお願いをしたいと考えます。ただ、それをお願いするにはまだそれほど貢献できていないと思うので、自信を持って請願できるよう務める努力を致します」
「あらあらそうですか~そういうことでしたら、私も私の出来る範囲でですが、リアさんの期待に応えられるように頑張らないといけませんね~」
「是非お願いします!」
今の言い回しから考えると、ティグさんも何の件でわたしがお願いしたいのかはほぼ察している。となれば、あとはわたしが頑張って成果を上げるのみ!
『時計を見て残りのログイン時間を確認……うん、まだ時間はある』
「それでは失礼致します」
「なかなかに慌ただしいですね~?」
室内ではまだ色々な話をしている中、わたしがそそくさと退室しようとしたのをティグさんはキッチリ見つけて話しかけてきた。
「はい、ティグさんならご存知だと考えますが、わたし達異邦人はPAWの世界に滞在していられる時間に制限があります。
今日わたしは『こちらの世界で午前0時』に来ています。今が午後二時ですから、滞在できる残り時間が10時間を切っておりまして……」
「あらあら~」
「目標が出来た今、わたしが少しでも頑張ることでお世話になった方々に報いることが出来るのであれば、出来る限り頑張ってみたいと考えています」
「その為にですか~そういうことなら仕方がないですね~。
でもあまり無理しちゃいけませんよ?」
「はい!」
ティグさんにそう言ってもらえるだけでも嬉しく感じるって、わたしもこの世界に結構浸かってきたのかな。
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「リア」
「はい?」
ティグさんとの話が終わり領主の間を出たところでファナさんに声をかけられた。
ファナさんはそのままわたしの前まで来ると『肩に糸くずがついているぞ』と言いながら肩をパパッと払いながら小声で話しかけてきた。
『とりあえず二人については私が目を光らせておく。なにかあれば連絡する』
『ありがとうございます』
『あと、マチュアから伝言だ……【無茶はするな、命を無駄にするな】と』
『……はい』
マチュアさん自身の方が大変なのに、わたしのことを気にかけさせてしまい却って申し訳ない気持ちになる。でも、わたしを色々なことで助けてくれた二人に対し、少しでも今の状態を良好なものへと変えられるチャンスがあるなら、多少の無茶でもやりたいと考えていることに変わりは無い。
「とりあえず今何ができるのかを考えながら動いてみたいと思います。さっきも言いましたが今日という時間の中においてはログイン時間が残り半日も無いものですから」
もっとも現実世界で深夜とかにログインすればもう少し余裕も出てくるけど、あくまでPAWの世界の翌日にログイン時間を分けるだけだから、それほど余裕を得られるわけでも無いし、さすがに学校を休んでまでログインするのは色々とダメすぎるような気がするわけで……
それに今動くことと後で動くこととでは、同じ動くという行動に対して同じ結果になるとは考えられない。それこそ遅れて行動したことで致命的な結果に繋がる可能性があると考えた方が無難だと思う。
「そこまで言うリアを止めたりはしないが、とにかく無理をしないようにな。
そう言えばマチュアから『戦いを経て成長した己を必ず見るように』とも伝言を受けていたな。リアとアイツとの死闘を見ていたと言っていたから、マチュアから見てリアの成長度合いが気になったんだろう」
「はい、きちんとチェックしておきます」
「そうそう、あとトムさんの所も顔ぐらい出しておけよ?」
「……あ」
そういえばすっかりトム店長のことを忘れていたし!
『PAPが街の中で暴れていた時には会えなかったから心配したけど、その後で無事だという話を聞いて、すっかり安心というか忘却していた』
うーん、これはこれで怖いかも!?
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「よぅ、店の仕事休んでまで領主の依頼をしていたとは良い度胸じゃねーか?」
それほど前回来てから時間は経っていないはずだけど、何故だか久々に来たような感じを受けたお店の中では、トム店長が口に咥えたパイプを吹かしつつこちらを睨んでいた。
「でも、あの、トム店長のおっしゃる通りティグさんからの直接な依頼だったので……」
「ほほぅ、誰かに依頼して一言俺に伝言を伝えるとかいうことも考えられないのかオメーは?」
「あ……はい、そう……ですよね。すみませんでした」
うん、これはトム店長の言う通りで何も言い返せない。
ここで『PAPが暴れていた時にトム店長だってお店にいなかったじゃないですか』なーんて言おうものなら、トム店長の熱量が大幅に上がってしまうことで、もっと面倒……じゃなかった大変な状態になりそうだし。
「あ? 何か言いたいような面してるようだが」
「いえ、全然。全然ですから!」
さ、さすがに色々と鋭い!
「んで、聞いた話じゃ街の中で帝国の黒いPA……半飛翔型のベガと遣りあったらしいじゃねーか。しかも蹴られるは撃たれるはボコボコにされたって話だが?」
「そ、そんなにボコボコには……」
「じゃ、勿論ベガにテメーの攻撃を当てたんだよなぁ。奴にどれぐらいのダメージ与えられたんだ? ん?」
「……はい、相手から主導権を取れずに終始押されてまともな反撃を当てることが出来ませんでした」
うぅ、きっちりとエグってくるし。
「はぁ……最初から素直にそう言えばいいんだよ。
テメーと奴とじゃ機体の能力・操縦者のレベル・装備した武装に至るまで全て劣っているんだ。負けて当然、勝ったら奇跡ってもんだ」
「確かに終始押される展開でした……でも、負けたとは思っていません。勝てなかっただけです」
確かに戦闘としては酷いスコアだとは思うけど、あの時・あの場面で倒されるところまで追いつめられなかったことだけは事実。
『次会う時までには色々と修練して、絶対に同じフィールドに立たせてやる』
「はっ、そんなもん一緒だ……って言いたいところだが、まぁそういう考え自体は嫌いじゃねーからそれぐらいは認めてやるわ」
「ありがとうございます!」
「ま、オメーにはまだまだ足りない事だらけで課題も多いからな。
テメーでそいつらをどう潰し、どう自分の中で伸ばしていくか。結局は何事も経験、そして最後はオメー自身の意思、気持ちの問題だ」
「はい」
そう、トム店長に言われて改めて思う。
今回やられた事や、自分自身で失敗したと思うことから逃げるのではなく、それらに真正面からぶつかって自身の手で進むべき道を掴みとること。それは決して簡単なことじゃないし、辛いしキツイし嫌なことも多いし、逃げ出したいこともきっとある。
だけど逃げていたって解決するかはわからないし、もっと酷いことになることすら考えなければならない。
『最後は自分の意思』
その意思によって選んだ道に後悔しないように……
はい、今日も予定通りアップできました。
ただ今回文章の校正がきちんと出来ていない(あ、いつもかもしれませんが)ので、
またおかしなところがあったらツッコミを……
あと、出来れば今週はもう一話アップしたいと考えています。
木曜か金曜あたりには……たぶん。
以前みたいに週に二回アップ出来れば一番良いのですがね(´・ω・`)
では、次回木曜アップ目指してがんばります~




