167話 アルブラ動乱28
「それでマチュアさんはあの機械について、どういったモノだったのかは知っていたのですか?」
ロイズさんが重篤な以上、あとはマチュアさんに聞くことしかできないけれど……正直なところロイズさんと違って、マチュアさんがああいったPAやそれに関連する機械について詳しいとは思えない。
「ああ、察しの通りだよ。マチュアとしてもグーデルから協力するようにとの命令を受けていただけで、アレらについての詳細な内容は聞かされていないとのことだ。
……まぁ、あの領域へ機械が運ばれた時期と、マチュアとロイズの二人に対しシーレフからアルブラへ異動するよう、グーデルが働きかけたタイミングとは異なっている事までは分かっているから、二人がこれらの件について詳細を知らないのも理解は出来る」
「だったら」
「だが、知らなかったとはいえ帝国と繋がっていたような秘匿な件について、誰も責任を取らないという事にはなり得ない。マチュアもそれがわかっているからこそ、素直にお母様が出した指示を受け、この建物の中でロイズの看病をしながら次の指示を待っている」
『次の指示……それって』
ファナさんの口ぶりから推測できるもの、それは嫌な内容しか予想できない。
「リアも知っての通り、今このアルブラは色々な面で危険な状態になっている。
正体不明の軍団による南部侵攻から始まり、PAPに絡んだ件で重量人物だったダラスが襲撃され、今現在行方不明となっている件。そしてそのダラスが行方不明が発覚したのとタイミングを合わせたようなレイジー商会ナンバー2だったポーゼフ代表代行の暗殺。
それにグーデルの件に加え、公国からの救援要請まで……とにかく問題事しかない」
「えっ、ちょっと待って下さい! ポーゼフさんが暗殺って! あと公国からの救援要請っていったい何が起きているのですか!?」
ここに来て自分が知らない話がいくつも出てきたことに混乱しかける。
「そのままだよ。グーデルの行方がわからなくなったのと同刻、ポーゼフ代表代行が商会の応接室で何者かの手によって暗殺された。犯人も動機もわからないままだ。
そして公国の方は、自国の南部に位置する独立国家ロイゼンから侵攻を受け、同盟国で最も近いアルブラへ救援要請を出してきた」
「でも、同盟での救援とかって対帝国って話では?」
以前にマチュアさんから聞いた話を思い出し、思わず聞き返す。
「そうだな、確かに同盟での救援というのは同盟各国が帝国より侵略を受けた際のもので間違いはない。故にだよ、公国が王国に救援を出すのは」
「公国が救援を出す……侵攻してきたのは独立国でも、その裏に帝国がいると?」
ここに来てリュウの件といい、帝国の陰が見え隠れすることに嫌な感じを覚える。
「公国はそう見ているな。実際、独立王国……独国は亜人が主たる種族ということもあってか、個による生身での戦闘には無類の強さを発揮するものの、その反面、PAでの戦闘などは正直なところあまり得意とはいえない。
過去、独国が公国に侵攻した際も大多数は生身の兵士であり、PAは物資を運ぶことぐらいしかなかったと聞いている。
よって公国としても南部からの侵攻に対してはPA用の防護壁などよりも、対人戦用に特化した柵や砦を備えていた。だが、今回独国はそれらを苦にせず圧倒的な速度で侵攻し続け、ついには公都近くにまで迫っているらしい。
考えられない侵攻の速さ……それこそが独国軍による、過去とは異なるPAでの侵攻だと言う話だ」
「そこに帝国が絡むと?」
過去とは異なる侵攻……確かに今までとは何かが違うことが起こっているのだとは思うけど、それが帝国が絡んだという結論に結び付けるのは少々危険な気もするけど……
「リアにとっては想像しづらい話だと思うが、独国が不得手なPAを使い侵攻したという事実。それを彼らが保有する戦力のみで行ったと信じる者は、残念ながらこの世界の民であれば皆無に近いだろうな。
それに使者の話によると、先に落とされた公国の複数の街では独国が戦闘用に調整されたPAPらしき機体まで投入させいたとのことだ。しかし、彼ら亜人にはそういった先進的な技術など間違いなく無い。結果、どうしても今回の侵攻自体に」
「帝国が関与しているという予想が立てられる、と考えるのが自然だということですか?」
わたしの問いかけにファナさんは頷く。
「独立国家ロイゼン……、亜人に戦闘用のPAP」
これらもまた帝国の、それこそリュウが関わっているような話だとしたらゾッとする。
『いったいリュウと呼ばれたあの人はどこまで関わっているのよ……そして本当に全てに関与しているとしたら、一体全体どこまで・どういった考えをしていたというの?』
アルブラから公国・独国の事にまで、その全てにリュウが絡んでいたとした場合、頭を使った勝負というか色々なことを予測や計算する、所謂個々で終わらないレベルの戦争となるはずで……
『そんな大きな戦いとなった場合、どう考えても容易に勝てる訳が無い。というか、勝ち負け以前に個人でしかいられないわたしなんかじゃ同じ土俵に立つことすら出来ない』
ただ、
『公国が侵攻されている事よりも、今はグーデルさんが絡んでいたことによる間接的な状態とはいえ、マチュアさんとロイズさんにかかってしまった嫌疑についてどうにかしないと……』
王国と公国が大変なのはわかるけど、申し訳無いがわたしにとって二人を助ける方が先決。とは言うものの、いったいどうしたら良いのか皆目見当もつかない。
「……ねぇ、リア」
「何?」
これからどうすべきか考えていた所、不意にロキシーが声をかけてきた。
「その機械群とか言われることについて調査し、二人が深く関わっていないことを証明するというのは、中心人物だったグーデルさんが亡くなった以上かなり難しいことだと思うの。
たぶんそれが出来ているのであれば、とっくにティグ様が詳細な情報を収集していると思うわ」
「……うん」
王国のトップとして君臨する女王陛下の覚えがめでたいと言われるティグさん。そんな切れ者とされる人であれば、出来る範囲のことは既にやっていると思うべき。であれば同じようなことをしてもあまり意味がない。
「だからティグ様が得ていないような情報を入手し、それを功績とすることで、二人の状態が良好化するようなリカバリー策を取った方が良いと思うの」
「わたしが得た功績を二人の状態が少しでも良くするネタにするって事よね?」
そんな上手く物事を進められるのかな……でも、
『今のわたしに出来る事が……少しでも二人の助けとなれることがあるのだとしたら、そこにわたしが選ぶ選択肢なんて無い』
「……ありがとう、ロキシー!」
「ううん、どういたしまして」
そう決まればこんな所で寝ていられない!
「よしっ!」
「あー、色々とやる気になったところ悪いのだけど」
「はい?」
ファナさんは少し申し訳なさそうに話した内容。それはあの【特別な領域】での出来事をティグさんに説明して欲しいということだった。
……それはそうですよね。
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「……なるほど、あそこでそんな事があったのですか~」
「はい、最後はわたしも意識を失ってしまったので、その後リュウがどこへ行ったのかまではわかりませんが」
わたしが寝ていた部屋からファナさんに先導してもらう形で領主の間へ移動しすると、【特別な領域】で起こった出来事を説明した。
「あのリュウという異邦人、いったい何者かと思いましたが帝国に関与していた人物でしたか~
そんな人物が何のチェックもなくアルブラにいた事もそうですが、例の機械群も含めて本当にグーデルさんは余分な事ばかりしてくれましたね~」
そう言うとティグさんは軽くため息を吐く。
「あの時リアさんが話してくれていた黒いPAについて、そちらにも深く関わっていたとした場合……それが同一人物だったとしたら、彼はかなりの大物となりますな」
「黒い飛行型のPAとなると、ほぼ一人に限定されます。そんな帝国の重要人物がアルブラにいたとは」
「だが問題は起こったことも大事だが、今これからの事も考えないとならないぞ」
ティグさんの部屋に集まった重臣の方々や側近らしき人達も次々と意見を吐露する。
「後手に回ったのは痛いですね~、ですが我々はここから巻き返していく必要があります。公国からの救援要請にも応えたいですし難問ばかりですが、私は皆さんの協力があればどのような困難も乗り越えられると考えます」
「「「はっ!」」」
『凄い、ティグさんの一言でこの場にいた人達の感じが変わった。やっぱり領主をしている人の発言だと、それに対する影響が違うものなのね』
改めてティグさんの凄さを感じたのと合わせ、マチュアさんとロイズさんの件をどうにかするには、やはりこの人の力を得る必要があるのだと感じたのだった。
はい、本日も無事にアップできました!
少しずつ動き出した話と裏の舞台との整合を図るために色々と(日にちとか)数えていると、たまーに日時が合わないような気がする話もありますが、それも合わせて考えて話を修正加筆していくのも意外に楽しいと感じることが……
マゾでしょうか(汗)
さて、毎回誤字脱字のご報告を頂きまして、感謝とともに自分の校正の粗さに目眩がしています。
本当にスミマセン(´・ω・ `)
なるべく誤字脱字がないように心がけていますが、もし運悪く見つけてしまった場合には、気兼ねなくツッコんで頂けると幸いです……
では、次回2月11日(祝・月曜)にまたアップ出来るように頑張りますので、よろしければ引き続きお願い致しますm(_ _)m




