166話 アルブラ動乱27
「もし気を失っているリアを脱がそうとしたら、その瞬間に運営によって私のアカウントは即停止にされると思わない?」
「……あー、そう言われてみればそんな気が」
「ふふっ、いつもならこれぐらい直ぐに『そんなの有りえない』って答えているでしょうに。やっぱりまだ本調子じゃないみたいね」
「さ、さっき色々と昔の事とか思い出したりしてたから……」
「ふーん、そういうのもまた落ち着いたら聞きたいかも?」
いえ、できればそれは止めましょう!
「ちなみにリアの着替えはファナさんがしているから。ま、ファナさんにはリアの全てが見られていると思うけどそこは良しとしてもらって」
「なに、リアの場合は同性に見られて恥じるようなモノは持っていないだろ? それに下着姿ならば既にゲーニスで見せつけられているしな」
「あー、うーん……」
何か釈然としない言われ方のような?? というか全てってどこまでなんだろう……
「何にせよリアの目が覚めて良かったよ。たぶんあの部屋の惨状を見た限りでは、爆発の際に発生した衝撃が強く、それを間接的にダメージとして受けたことでリアの意識が刈り取られてしまったのだろう。
偶然とはいえ、あのフロアの天井が剥離し爆発を防いだことによってリアの命を救ったんだと思うぞ。運が良かったというか、日ごろの行いを神様が見ていて助けてくれたのかもしれないな」
「そ、そうですかね……というか、部屋の惨状って」
何だろう。あのフロアの天井が剥がれていたということも信じられなかったが、それよりも今聞いた『惨状』というワードが頭から離れない。
「そうか、リアは知らないものな」
ファナさんは改めてこちらを見直すと少しずつ説明を始める。
「リュウとグーデル神官長があの部屋からいなくなった後、私は神殿内にいた神官達にあの部屋のことを詳しく聞いた。そしてあの部屋から先に……神がその力を試すために作られたという【特別な領域】へ進む為には、特殊な【神器】と呼ばれるカギが必要であり、通常それは神官長が持っているものだという話だった。
ただ、非常時用にと予備のカギをお母様がお持ちになっていることを聞き出せてな」
【特別な領域】……あの変な部屋があった場所の事よね。
「私はお母様へ起きた経緯をご説明し、カギを借りてからあの部屋へ戻ったんだが、そこにリアの姿がなかったことから、きっと何らかの手段で【特別な領域】へ行ったであろうことを推測したんだが」
「はい、偶然というか手元にあった勾玉……ゲーニスの地底湖で玄武様より授けていただいたあの勾玉が例の場所にあった扉のようなものに反応していましてた。それを近づけた所、【特別な領域】と言われている場所に入れたみたいです」
「そうか、あの勾玉自体が山神様と話す為に必要なものだったな。玄武様は水神ヒューリム様の使い、そしてあの【特別な領域】は機械神メテオスの管理領域。
本来なら交わることの無い二つの神様の力と世界……だが起きていた非常事態に対し、そして二つの神様と間接的とはいえ繋がりを持ったリアだったからこそ、特別な加護を得たことであの場所へ入れたのかもしれないな」
「特別な加護……そうですね。実際、あのタイミングで行けたからこそロイズさんを」
そう言いかけて言葉が止まる。
「あの、そういえばロイズさんとマチュアさんは……」
何故だかついさっき聞いた『惨状』という言葉が頭の中で何度も木霊する。
『まさか、』
「あ、ああ。二人ともこの建物の別の部屋にいる」
「そ、そうですか。別の部屋に……」
ファナさんの返答にホッとしたのも束の間、その言い方に妙な違和感を覚える。
「無事……なんですよね?」
「マチュアはカプセルに入っていた事もあって無事だったよ」
「ロイズさんは」
「……生きてはいるよ。だが、あの部屋で起こったであろう爆発で受けた怪我が酷くて重篤な状態だ。何とか命は取り留めたが、正直なところ以前のような生活を送るのは無理だと思う。
それこそ、ただ歩くことですら以前の通りとはいかないだろうな……」
「そ、そんな……」
ロイズさんがそんなことに!?
「私と、あと同行してくれた神官達が【特別な領域】に入ってから暫くすると、耳を劈く程の爆音が聞こえたよ。幸いというか、あの領域の力や構造なのかまではわからないが、私達は被害を受けなかった。だが爆心地と思われる部屋は酷い有様だった。
リアはさっきも言った通り。マチュアについてはカプセルに入っていた事と、その前面で守るように立っていたロイズのPAが爆発からの壁となっていたこともあり難を逃れている。
だがロイズは自身のPA召喚と、そのPAをマチュアが入ったカプセルの前へと移動させる事を優先させたであろう結果、自身の身を守るだけの時間を作れずに……」
「えっ……」
ファナさんの話を聞き、頭の中が真っ白に染まる。
『わたしが……わたしがリュウを倒しきれなかったから』
あの場でリュウをしっかりと倒していればそんな爆発なんて起こらなかったはず。ロイズさんにそんな重症を負わせたのはわたしの責任だ……
「行かなきゃ……」
『ロイズさんとマチュアさんの所へ行って謝らなければ……わたしに出来ることであれば、どんなことをしてでも償わないと……』
「どこへ行く?」
わたしがベッドから足を降ろし歩き出した瞬間、ファナさんに呼び止められる。
「……ロイズさんとマチュアさんに謝らないと」
「残念だが、それは今許可できない」
「どういう……意味ですか」
言われたことの意味がわからず、思わずファナさんへ聞き返す。
「落ち着け」
「落ち着いています。ただ、行けない理由を知りたいだけです」
「リア、ファナさんはあくまで『今は行けない』ということを言っているのよ。
それにそんな今にでも暴れそうな……殺気に近いものを垂れ流しながら移動しようものなら、問題視されるどころか、下手をすればリア自身も監禁状態になり兼ねないわ」
「そうだぞ。色々と思う所もあるだろうが、一旦ベッドへ戻ってくれないか」
「……はい、わかりました」
二人に言われ、わたしは納得がいかないもののベッドへ戻ると腰を下ろす。
「すみません。ちょっと色々とあったもので……とりあえず二人と会えない理由を教えていただけませんか?」
とにかく話を聞かなければ何も出来ない。
「今から話す事についてはあくまで現時点での話だ。それを加味して聞いて欲しい」
「はい」
そしてファナさんは自身が知る限りのことについて話してくれた。
まず、二人と会えない理由については【特別な領域】にあった複数の機械群に関してだった。
あの機械群については神殿内の神官達にも機密事項として隠匿されており、詳細についてはグーデル神官長と彼に近しい一部の神官のみが知る内容だったこと。
そして既に死亡しているグーデル神官長の書斎をしらみつぶしに調べた所、巧妙に隠された戸棚から見つけられた書類の中にアレらについて詳細が書かれており、あの機械を使うことでPAの能力を向上させるチップが作れること、そしてアレらの出所が帝国だということが判明する。
しかし、機械群について最も詳しかったであろうグーデル神官長は既に他界。また、合わせて近しい存在だった神官達についても、いつの間にかその行方がわからない状況になっていた。
結局、機械群について関わっており、尚且つ生存し、その身柄を確保出来たのはロイズさんとマチュアさんのみということから、ティグさんは二人を重要参考人としてこの建物内で厳重に保護するとの方針を決めたとのことだった。
勿論、そんな重要人物となってしまった二人は室内から外部との接触は一切禁止されているわけで……
「保護と言いながら、それは軟禁と言いませんか?」
「……」
ファナさん自身もそう感じているらしく、明確な返答は得られない。
「リア、それはファナさんが決めたことじゃないわ、領主であるティグ様が決められた事よ。そうなるとファナさんにはどうしようもならないことをわかってあげて」
「それは……そうかも知れませんが」
『やむを得ない事』だと頭でわかろうとしても、心の中では納得しきれない自分に対しモヤモヤとしたものだけが残るのだった。
はい、今日も予定通りアップできました!
最近は日によってアクセス数が物凄く高い日などもあり、新規でいらっしゃる方が増えて嬉しい限りです。
合わせて誤字脱字の報告も頂き、大変感謝しております。改めてその多さに髪が抜けておりまして、やや不安が(苦笑)
一応、今の話が第一章みたくなっており、そろそろ(自分の中では)そのラストあたりをまとめたいと思っていますが、
書いている間につい脱線して他を掘り下げる状態に……
きちんとまとめないとダメですね(´·ω·`)
という訳で、また次回に向けてまとめておきます。
次回も月曜の2月4日アップ目指して頑張ります!




