165話 アルブラ動乱26
「……ここは」
ぼんやりとした視界の中で見える天井や家具など調度品の数々は見たことが無いものばかり。それはここが現実世界におけるわたしの部屋ではなく、PAWの世界だということを推察させた。
『誰もいない、知らない部屋……か』
少し周りを見渡しても誰もいない。なんとなくそれがちょっとだけ寂しく思える。
『記憶の最後に残っているのは、あの部屋全てが白で埋め尽くされたこと……』
リュウが何かをした。それが何かまではわからないけど、とにかくわたしの意識が途切れるぐらいのものだったのは確か。
『以前、PAに乗っていた時にも気を失ったことはあったけど、あの時はわたしが受けたダメージが高いことから安全装置が働き、強制的にPAWの世界と切り離されていたけど……今回はそこまでじゃなかったってことかな?』
それでも全身に感じる重さがいつもとは異なっているのが感じられたので、それそうなりに大きなダメージを受けたのは推測できる。
……もっとも、どのレベルかまではわからないけど。
「えーっと今の時間は……」
視界の端に映る日付と時間をチェック。
『日付はそのまま、時間はまだ午後1時なんだ。ということは、リュウがしたアレの後からはそれほど過ぎていないのね』
元々、前回ログインした時の件 (PAPと黒いPAについて)を早くファナさんに伝えたかったこともあって、こちらの世界で午前0時過ぎ(現実では16時)という、普段はログインをしないような早い時間に入っていた。
それらを踏まえ改めて思い出してみると、今日という日だけで考えた場合には随分と長い時間ログインし続けていることになる。それはこの世界に来るようになってから、初めてログインの制限時間についてを考えてしまうようなレベルだったりする訳で。
『今まで制限時間がギリギリになるほどログインし続けたことは無かったけど、確かこっちの世界で24時間までしかいられなかったはず……だよね』
ログインした時間から計測すると、(眠る事さえしなければ)一応まだ半日近くはログインすることは可能な状態。ただ、その場合にはログアウトしてから(こちらの世界で)二日間は確実にログインができなくなる。
『ま、わたしがいなくても【もう一人のわたし】がいるから大丈夫だけど』
心配事が無いと言えば嘘になる。マチュアさん、ロイズさん、それにみんなのことも。
『何にしてもあれから何がどうなったのかを知りたい。とりあえずベッドから出て……』
起きようと腕に力を入れたその瞬間、
ズキッ!
『んっ!?』
・
・
・
「んキャッーーー!」
体をゆっくりと起こそうとして力を入れた途端に全身の筋肉から凄まじい痛みが、それこそ体中を稲妻が爆走するかのように伝播する! それは自分でも恥ずかしいと認識できるぐらいの大きな悲鳴であり、痛みと自分が出した声の恥ずかしさとで、わたしは直ぐにベッドの中へとUターンする。
『なっ、なに今の痛み!!』
さっきまで少しぼやけていた視界も、今の痛みで一瞬にしてクリアに。
「……び、びっくりした!」
以前に那緒と要さんの策略によって参加させられたトライアスロンの翌日、これと似たような感覚というか目の覚めるような痛みを感じたことがあったけど、感じたという意味では、それと比較するのも憚られるぐらいのもので、あまりの痛みにおかしな笑いが出かける。
慌てて腕や足を見てみるけど、やっぱり外傷や何かの痕とかは無さそうに見える。
『ということはやっぱり筋肉というかそっちの痛みってこと!? っていうか、あの時の滅茶苦茶恥ずかしかったことまで思い出しちゃったし……』
今さっき感じた色々な感情とトライアスロン後の自分の醜態を思い出し、ベッドの中が異様に熱くなっていく。
……というか熱い!
「……はぁ」
こんな場面であの二人を思い出すなんて、わたしはまだまだあの二人から巣立てて無いってことなんだろうなぁ。
『いま二人は今どんなPAWをしているのかな?』
現実世界では会うものの、こっちでは久しく会っていない事もまた、懐かしさと寂しさとを思い出させる材料となり、不意に心の中がザワザワとしたものへと変わっていく。
カチャ
「すっごい悲鳴があがったけど! ……って、どうしてベッドの中で丸まってるの?」
そんな時、開いたドアの音と共に聞きなれた声が。
わたしはそれを確認すべく、かけられた毛布の中から顔を出す。そして驚いた声をあげた顔が見知った人のものであることを認識すると、波立っていた心が少しずつ落ち着いていくのが自分でもわかった。
『ほんと、自分でもこういう所がアレだと思うわ……』
「なんだかすっごい久々な感じがするね、ロキシー」
「ふふっ、私からしたらそんなに時間は過ぎていないのだけどね」
まぁ、わたしと違いロキシーはロキシーのやりたいことをこの世界でしていたわけで、自分とは異なったロキシーだけの時間を過ごしていたはず。
時間の感じ方なんて人それぞれであり、一概には言えないのだろうけど、少しだけとはいえ何となくそれが羨ましくも思えた。
「それにしてもリアって本当によくPAWの中で気を失うわよね……もしかしてファナさんが言う通りそっちの気が」
「す、好き好んでそうなっているわけじゃないからね!」
う、うーん……気を付けないとそんなイメージが定着しそうで怖い。
「ねぇロキシー、わたしってどんな状態でここへ来たか知っている? というかここって?」
「ここ? ここならリアも来たことあるわよ。 ま、聞かれた質問に答えるなら、ここはティグ様の住まいである領主の館ね。ちなみにこの部屋はダラスさんが収容されていた部屋と言えばわかりやすいかな」
「ダラスさんが……」
そっか、ダラスさんがいた部屋かぁ……って、
「ちょっと待って! ダラスさんって確か意識不明の重体だって話じゃ」
「それがね、ここに運ばれて来たダラスさんが本人じゃなかったの。偽者……別人だったと言うのが正解かしら?」
「別人って……だって襲撃された時に火だるまになったダラスさんをここへ運んだって」
「……うん、私もそう聞いていたわ。でもこの部屋で包帯を解いた際に現れた男性は別人だったの。いつどこでダラスさんが偽者と変わったのかはわからないけど、それだけは確かよ。
一応、その男性に聴取はしているようだけど、その男性も『なぜ自分がここにいたのかわからない』と言っているだけじゃなく、自分自身のことすら分かっていないらしいわ。
勿論、偽証じゃないか看破できる神官が立ち会っているから間違いないって話よ」
「そんな……」
いったい誰が、何の目的でそんなことを?
コンコン
「失礼していいかな」
「あ、はい」
そんな話をしていると、ドアをノックする音と共にファナさんが入ってくる。
「すみません、気を失っていたようで」
「ああ、とりあえず気が付いて良かったよ。私があの部屋へ着いてリアの所に駆けつけた時には、正直生きているか心配したほどだよ」
「そんな大袈裟な……」
「いや、さすがに私も全身の肌を浅黒い紫色に染まったリアを見たら驚くさ。外傷はそれほどでも無かったが、何をしたらあんな事になっていたのか……
まぁ、今見る限りでは肌の色も戻ったようだし、何にせよ無事で良かった」
ファナさんにそう言われ再び自分の腕や足を見返すけれど、そこにはいつも見ている自分の……
「あれっ?」
「どうかしたのか? どこか痛むとか」
「あ、いえ。痛いとか肌がというのは無いのですが、よく見たら着た記憶が無いシャツだな~って」
「それなら私がリアの服を着替えたけど? シャツに限らず下着まで全てお着替え〜」
「ふぇっ!?」
ロキシーの思いがけない発言に、思わずフリーズする!
言われてみると、確かに今身に着けている下着もわたしの記憶にはない物で……
「ロ、ロ、ロキシー?」
「んー?」
いや、なんでそんな舐めるような視線を!?
はい、本日も予定通りアップできました!
今回から話が主人公に戻っていますが、
ちょっとだけ話がアッチコッチに行っているような
感じですよね……
その辺りは文才が乏しさ故ということで(´·ω·`)
精進します!
それと誤字報告も本当にありがとうございます。
いやぁ、メインはスマホで書いているとはいえ
濁点と半濁点の誤字が酷い!
アルブラがアルプラとかトリブルがトリプルとか
なんかもう、自分でも乾いた笑いが出る始末。
……本当に恥ずかしい限りです。
さて、次回も予定通り1/28(月)にアップできるように頑張ります!
※年度末やら色々あってリアルが多忙になります。
場合によって更新が遅れる場合もありますが、
なるべく頑張ります。
……でも遅れたらゴメンナサイ……




