158話 アルブラ動乱19
「と・に・か・く、一発殴られなさいよ!」
ブン!
「殴られろとか言いながら蹴りを出すか~? でも、さっきの蹴りに比べて脚の角度が甘いから大したことないし」
「う、うるさい!」
調子が狂うというか、いちいち反応がムカツク! と、とにかく
「下着の一つや二つぐらい見せてあげるから、素直にやられなさいよ!」
とにかく一発入れて気分的にスッキリしないと! ……でも、
『どうなってるのよ!?』
出来るだけ頭を熱くせず、間合いを詰めてから冷静に攻撃を繰り出すものの、掠りすらしないリュウの回避能力の高さに内心舌を巻く。
ハルやタウラスさんなど今まで戦ってきた人達との場面において、わたしの【攻撃全てがガードされる】ことはあっても、【攻撃全てを避けきる】相手なんて今までいなかった。
「いや、本当にすごいから。ま、ちょっとだけ俺の回避力が高かっただけだし」
リュウはこちらに対してちょっとだけ構えを取っただけ。
その自然体に近い状態からこちらの攻撃を避けきってしまう技術の高さはハルよりもずっと高く、正直マチュアさんのレベルに近いと言っても過言ではない。
「余裕じゃない……」
こうなったら意地でも攻撃を当ててやろうじゃないの!
『もっとスピードを上げて!』
グンッ!
『もっとコンパクトに!』
バッ!
『隙なく高速で技を繰り出す!』
バッ、バババババッ!
……だけど、
『どう! して! 攻撃が! 当たら! ない! のよっ!』
突きや蹴り。そして単発な攻撃だけじゃなくそれらを絡めた連携技も出しているのにも関わらず、全ての攻撃が完全に避けられる。
しかもその避け方自体、傍から見たらギリギリに避けているようにしか見えないかもしれないけど、一番近い間合いで見ているわたしの目には、リュウが取る一つ一つの動作に一切の無駄がなく、どれも最小の動きだけで避けきれているのがハッキリと見えていた。
「うん、とくに女性ならリアのように下着に拘って欲しいよね~」
「うるさいって言ってるの!」
『と、とにかく焦らないように、クレバーに……』
今の自分に出来る最良の攻撃でリュウに一撃当てようとするものの、当たる気配すら感じられない状態に、そしてリュウの挑発的な言動に対してどうしても熱くなっていく。
そして、連続で技を出し続ける疲労度と当たらない事から来る不快感、そしてリュウの安い挑発によって色々と溜めこまれ、自分自身のコントロールが徐々に甘くなり始めたその時、
ズブッ
わたしのラッシュが一瞬途切れた瞬間、その合間を見計らったかのようにリュウの手刀が突き出される。一応、視界の範囲内だったことからギリギリのタイミングで避けた、その筈だった。
でも、
「痛っ!」
しかし、避けきれなかった証ともいうべき傷が左肩に出来上がると、傷口から流れ出る鮮血がわたしの神官服を赤く染めていく。
『見えなかった……指か腕が伸びた!? それともスキルか何かで??』
どういう過程によって受けた傷かが正確にはわからないものの、リュウの攻撃がヒットしたのは明らか。気を付けるなんて簡単には出来ないけど、とにかく相手の攻撃に最大限注意して戦うしかない!
『今のもギリギリで避けてからは同じで、そこからのカウンター攻撃だった。そういう感じで狙ってくるのなら、こちらもフェイントに表裏を入れて読み切らせないように……』
「行くわよ!」
ザッ!
タウラスさんとの戦いで使った、低い姿勢からの高速移動で一気に間合いを詰める。そして低い姿勢から上に伸びるように
《通天崩》
タウラスさんの時に使った時は、体内で作成したエネルギーを拳に溜めて使っていたけど、今回それはなし。
『リュウ自体がカウンター狙いだから、あくまで見せ技的に出すのみ』
ビュッ
そしてわたしが出した通天崩は予測通りリュウに見切られ、今までと同じように避けられる。
「あっぶね~拳が唸って通り過ぎたぞ」
そんな事を言いながらも、リュウは既に反撃の体制に。
『よしっ!』
体が伸び切る前、通天崩を出した際の軸足に無理矢理力をかけると、縦に伸びようとした力を横に変換し、生まれた反動を利用して、
《裏拳》
ブンッ
「うおっ!?」
リュウは驚いてみせるけど、すぐさましゃがんで裏拳を避ける!
『ここからもう一つ……動いて!』
ミシッ
裏拳を出した際の軸足から力を無理矢理腰へ伝播させると体の中から変な音が。でも、
『出す!』
シュッ!
伝播した力を腰から脚へ流し、そこから
《連環転身脚》
しゃがんだリュウに向かって出したミドルキック!
「うはっ!」
リュウは驚きながらもしゃがんだ態勢からバク転することで、この攻撃すらもギリギリで避ける。でも、
『今のは悪くなかったはず! あんな感じで』
「ん~残念ながらそれは無理かな?」
わたしの攻撃を避けきったリュウはそう言うと、既にバク転から普通の態勢に戻っていた。
そして両手を軽く振ってから指先を揃えると、左右それぞれを手刀の状態にして構え、さっきまではとは打って変わり一気に攻めへ転じる!
「疾ッ!」
『速い!』
リュウの手刀。構えから放たれたそれはさっきの攻撃とは異なり、手刀の形が霞むほどの速度で迫ってくる。とにかく避けられると感じた攻撃は避け、避けられない攻撃はガードに撤しようとするけど……
ザグッ
「……えっ」
遠い間合いで振り下ろされたリュウの手刀はわたしの腕に斬撃を与え、辺りに鮮血を飛び散らせる。そして、
ズガッ! ガガガガガガッ!
「……が、はっ」
リュウが右手から繰り出した手刀の斬撃は避ける間もなく命中。そしてそこから繋がった突きの連撃は手刀の斬撃からのコンビネーションになっているのか、わたしにガードをする間を与えることを許さず、結果的に全ての攻撃がヒットしていた。
『攻撃を……避ける……以前に、全部……当たって』
避けたはず、でも当たってしまった攻撃に対し頭が混乱しかける。
何故だか間合いが図り切れないリュウの手刀。その攻撃全て受けた結果、大ダメージとなったことから意識が刈り取られかけ、思わずその場で倒れそうになる。でも、
「クッ!」
不意に横を向いた瞬間に目に入ったカプセル、そしてその中に浮かぶマチュアさんの姿。それを見た瞬間、手放しかけていた意識を再び握りしめると、歯が折れるほど食いしばることでなんとか耐えきる。
「ははっ、今の攻撃を耐えきるか! 一応、かなり本気の攻撃だったんだぜ?」
「ハァ、ハァッ……」
「しかも、さっきの攻撃はちょっと特別仕様にしてあったんだが全然効いてないみたいだし……やっぱりリアもかなりイレギュラーだな」
「……ただ、負けられないだけよ」
特別仕様……きっとそれはロイズさんが受けていた毒系のダメージのことだと思う。
『イヤリングのおかげで毒は凌げたみたいだけど、いつまでも凌ぎ切れるなんて思うのは都合が良すぎるわ。とにかく何とか反撃というか、攻撃を当てるための手段を考えなきゃいけないけど……』
かと言ってリュウに攻撃を当てる方法が全く考えつかない。
「さすが緋蒼流格闘術の門下生。いや、既に十分な使い手として認識しても問題ないぐらいだな。さっきの大技の連携といい、今の攻撃に耐えきれたタフさといい、正直驚くべきものだと思うぞ?」
「褒めてくれているみたいだけど、それじゃまるでわたしが出した技にでも問題があるっていうのかしら?」
「いや、そういう意味じゃないが……ま、良いっか。気にするな」
すっごい気になるんですけどね! とはいえ、今はそれどころじゃない。
『もっとフェイントを絡める? それとも一気に掴みに行って投げ? それとも……』
どう考えてもこの状態を突破できるだけのものに結びつかない。
「なぁ、素直に負けを認めるというか、諦めて機械に入っている資料をくれないか?」
「……マチュアさんが目を覚ますまで待つなら譲歩するわ」
「いや、残念ながらそこまで待つのは楽しくないんでね、悪いがさっさと入手したいんだ」
「楽しくないって……どういうつもりよ!」
何かはぐらかすようなリュウの喋りにイライラとするものの、現時点で他に出来得る手が思い浮かばない事に臍を噛む。そんな時微かに聞こえる声が……
『……聞こ……える、……リ……ア……』
「!」
今の声は
『……マチュアさん?』
目だけ動かしカプセルを見るけど何かが変わったようには見えない。でも、さっき聞こえた掠れるような声は間違いなくマチュアさんだったと自信がある。
これって精神会話?
いつもより長くなってしまいました……
とりあえず次回も予定通り、12/17(月)にアップできるように頑張ります!




