156話 アルブラ動乱17
「ま、リアも色々と訳ありかもしれないけど、こっちにもちょっと退けない理由があってね。
君達の背後にあるその機械、実は結構問題があるブツなんだよ」
もっとも、リュウはわたしのそんな思いを知る由もなく話を続ける。
「……問題?」
いろいろな事が問題に思えてしまっているので、どれを指して問題と言っているのかがよくわかっていないんですけど!
「知らないと思うけど、その機械は元々帝国にあったものでね。帝国のPA研究所で研究されていた【PAの能力を増幅・強化させるシステム】、その開発用の機械なんだが」
「……そんな物騒なものが、どうしてアルブラにあるのよ!」
「なに、簡単なことさ。
システムとしての仕組み自体は確立していたし、機械における設定も問題はなかった。だが、最終的にシステムとしては完成しなかったのさ。もちろん研究所としても何とか完成させるつもりだったけど、システムの根幹に必要なモノが帝国内で得られなかったんだよ。
そんな状況が続き、暗礁に乗り上げてしまった時、一人の研究者がこう考えたんだ。
『だったらそれを得られる場所に行けば良い』
ってね。
……まったく、こんな機密性の高いものを外部に持ち出してまで開発させようとするなんて、研究者という生き物はつくづく理解しがたいモノだと思わないかい?」
「言いたいことはわからない訳でもないけど、それとこの状況がリンクしないわ」
リュウの話を全て理解しようとは思わないけど、理解しきれない状況にはしたくない。
「はははっ、そうだね。そうだろうね。
でも考えてごらんよ、これだけ大規模な機械を帝国領から王国領であるアルブラまでバレないように移動するなんて簡単に出来ると思うかい?
そしてこれだけのものをこんな場所に、そして秘密裏に運び実際にいろいろなテストをするなんて、とても普通じゃ考えられないよね」
「それは……そうだけど」
「なに、答えは簡単だよ。
そこで死んでる神官長、そいつが【革新派】の開発した新しいPAP技術に対し、【拒絶派】として早急に何かしらの対抗手段を持たなければならないと考えた結果さ。
アルブラでの派閥間のパワーバランス、そして自分自身の権力維持の為にも何とかしなければと思った。でも、そんなものがそう簡単には転がっているわけがない……と諦めていた時に、その男はちょっとした話を小耳に挟んだ。
『帝国で極秘裏に開発していたシステムが手に入るかもしれない。
しかも、それの開発に必要なモノは偶然にも入手可能な状態』
とね。そんな情報が自分の元に来てしまえば飛びつくしかないよねぇ?
場合によっては神官長としての立場だけでなく、【拒絶派】自体が衰退するかもしれない瀬戸際にいる状態を逆転できるかもしれない、まさしく夢の話なんだからさ」
「……」
確かにそんな上手い話を聞いてしまえば、つい動きたくなってしまうのを否定できないかもしれない。もっとも、わたしには出来そうも無いけど。
「ま、神官長は幸運にも帝国の研究者達と内密に連絡を取ることに成功し協業した結果、そこにある機械の設置と必要なものの手配、そして運搬の際に問題が出ないよう手筈を整えた。
まぁやったといってもアルブラ内に帝国の人間やPAが来ても問題が起こらないよう、対帝国用の防衛システムを解除したことと自由に研究が出来る場所、そして必要なモノを提供したってことだけどね。
で、その結果がこういうことになっている訳だ」
「……ロイズさん今の話は」
「すまんが初耳だ、というかグーデルが帝国と繋がっているということだって信じられない!」
「でも事実だ。機器の構築、場所の提供、運搬にかかる問題の解消、そしてこのシステムで必要となる人柱の準備。それらは全てグーデルが裏で手を回した結果さ」
「人柱?」
嫌な言葉に自然と辺りに目がいく。
『この場所、そして目の前のカプセルに入れられているマチュアさん……』
「まさか」
わたしの問いに対しリュウは肯定否定どちらとも受け取れるような曖昧な返事をするだけ。
「……リュウ、あなた一体何者なの」
「ん~歌って踊れる万能冒険者と言ったところかな?」
そう言うリュウは今までと同じような笑みでこちらを見る。
「というかさ、俺から見ればキミも十分に謎な存在だと思うけど?
【コーデリア・フォレストニア】。『PAW』を始めてから約二ヶ月あまりの異邦人。まだレベル19の神官でありながら緋蒼流格闘術を学ぶことで格闘神官の職業を取得する。
王国の初期村ことシーレフからアルブラへ移動し、アルブラ内でも特に癖があり、今まで異邦人なんか雇ったことが無かった爺さんのもと、PAの技術と知識を学ぶ。
得意な物は料理と白魔法、騎乗するPAはレア度の高いハマル……いやぁ、色々と盛りだくさんじゃないか?」
「そ、そうかしら? 至って普通じゃ」
「普通……普通ねぇ、俺の知り合いに僧侶や格闘僧、ならいるが、未だに神官職に就いた奴なんて聞いたことが無いが? しかも格闘神官なんて公式にもアナウンスされていない裏職業だ」
「へ、へぇ~……ほら、たぶんまだリュウが会ってないだけで」
「これでもクローズβバージョン、それよりも前のαバージョンから参加している最古参だが?」
「そ、そう……」
「しかもレベル20に満たないくせに、共和国でも有名な猛牛タウラスを格闘で倒すだなんて、呆れるとかいうレベルじゃねぇからな。正直、俺でも奴なら苦戦するぞ?」
「あれは集団戦闘の結果よ、わたしだけの戦果なんかじゃないわ。しかも武器の性能テストを兼ねた模擬戦だし……」
「はっ!」
「な、なによ」
リュウとしては今話した内容が気に入らないのか、一言そんな感じで発すると、一気に話し始める。
「集団だろうが模擬戦だろうが、レベルが倍以上……カンスト間際だった筈のタウラスをレベル20以下の、しかも格闘系の職業で倒す。どうやらリアはわかっていないようだが、その結果はお前が考えているほど軽いものじゃ済まされない。
正直な所、爺さんの庇護に守られているから無事で済んでいるようなものの、あそこにいなかったら今頃ログインする都度、毎分レベルで決闘の申請がされているか、下手したら闇討ちのターゲットにされていたっておかしくないだろうな」
「闇討ちのターゲットって……」
「そりゃそうだろ。誰だって自分がどれぐらい強いか知りたいし、他人の強さに興味もある。強者として名を馳せた【猛牛タウラス】を格闘で倒すような相手がいると聞かされたら、自分に自信がある奴なんざ誰でもお前と戦ってみたいと考えるさ。
そこには相手の事情なんて関係ない、自分が戦いたいタイミングで挑む。そう考えるのが必然的であり、普通の異邦人だよ。
……まったく、笑う人形や銀弾みたいな化物連中に囲まれすぎて判断基準がおかしくなってるんじゃねーか?」
リュウに改めてそう言われ、過去異邦人の冒険者に関連して起こったことを思い浮かべてみると、確かに異邦人の考えなんて予測できる訳もないことからも、『そういった考えも否定できないかもしれない』と思えてしまう。
事実、シーレフで蜥蜴男と戦ったのだって、こちらの思いなんか関係なくそうなったと言っても過言ではないし。
『でもあれは向こうが売ってきただけだからこれとは違う……よね?』
次回も予定通り来週の月曜日(12/3)にアップできそうです。
いつも読んでいただきありがとうございます。




