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155話 アルブラ動乱16


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「声が聞こえたのは……確かこっちだったよね?」

 迷路とまではいかないものの、特殊な床の模様のせいで走りづらいというか、方向がわからなくなりかける。でも、とりあえず声がしたであろう方に向かって走り続けて数分、


「……えっ」

 走り続けた先、開けっ放しになっていた扉をくぐった先の状態に思わず言葉が詰まる。

 そこは今までの通路と同じような材質の壁や床、そして光の模様が存在するものの、ここまで来るモノとは広さを始め色々と異なっていた。



 部屋の広さは祭壇の間を数倍大きくした感じ。わたしが乗るPAでも余裕で入りきるぐらいの高さ(たぶん七~八メートル)があり、今までの通路の高さや幅等から考えると全く別モノだといっても間違いない。

 そしてこの部屋の中に設置してある様々な機器たち。それらは神殿内というだけでなく、この世界に来てからというレベルで初めて見るようなモノばかり。


『病院とかで見るような検診機器みたいなモノや、医療施設に置いてあるような特殊な形状をしたカプセル。そして精密機器を扱うような工場でしか見ないようなロボットアームみたいなものまで……

 いったいココは何なのよ……ってアレは!』


 部屋の大きさと見慣れない機器に目が奪われていたけど、そんな機器が立ち並ぶ向こう側で二人の男性が戦っている姿が目に入る。しかも、片方の男性は傍目から見てもわかるほど大怪我をした状態で、目にした直後に体がフラっと揺れたかと思うと、そのまま床へ倒れこむ。



「ロイズさん!」

 倒れたロイズさんの元へ駆け寄るとその状態の酷さに息をのむ。


 そして駆け寄って来たわたしを見るもう一人の男性。彼は驚いた表情でこちらを見ていた。


「まさかリアがここに来れるとは……いや、君ならそういったことも起こしかねないと考えておいた方が良かったかな?」

「誉め言葉として貰っておくわ……リュウ」


 視線の先に立つリュウを睨むと、彼に対し隙を見せないようにしながらロイズさんが受けている傷の状態を調べる。



「ロイズさん、大丈夫ですか!」


『酷い傷……でも、武器を持っていないはずのリュウがどうやってこれだけの傷を?』


 遠目ではわからなかったものの、上半身を中心として鋭利なもので斬られた傷や、刺突されたような傷が複数存在していた。そしてそれらの傷によってかなりの出血をしているのが一目瞭然であり、とてもこのまま放置できない状態に思わず息をのむ。


『武器の類は全て神殿に入る際に没収されていたはずなのに……それにこれは』


 ロイズさんの受けた傷、その所々が毒か何かによって爛れており、なるべく早めに治療しないと悪化していくのは明らか。でも、リュウを前にしたこの状況でロイズさんの治療を完全にすることは正直難しい。


『見えない武器、なんてモノは無いと思うし……他人から見つけられることが出来ないようなストレージをリュウが持っていて秘密裏に武器を携帯していたとか?』

 そんな話は聞いたことがないけど、これだけのダメージを受けたロイズさんを見ると色々な考えを穿ってしまう。



『って、とにかく今はロイズさんを』

 色々と気になることはあるものの、今は目の前のロイズさんの治療を優先しないと!



《ヒール》



『本当はミドルヒールやキュアポイズンを掛けたいけれど、リュウに対して隙を見せられないこの状況じゃこの魔法が精いっぱい』

 それでも目いっぱい思いを込めたヒールにはそれなりに回復力があり、徐々にではあるけどロイズさんの顔色が良くなっていくのがわかる。



「すまない、大丈夫と言えれば良かったんだがな……俺はご覧の有様だよ。それにグーデルにいたってはもう……」

 そういうロイズさんに言葉通り、そこから少し離れていた場所に倒れていたグーデルさんの目は大きく見開かれ、その瞳には既に光が灯っていないことからも既に手遅れなのは明白な状態だった。


 そんなグーデルさんが横たわっている後ろ、大人一人が優に入るほどの大きなカプセルが室内に走る灯りに反応し鈍めな光を放っていた。そしてその中には、


「……マチュアさん!?」

 神殿内で会うはずだったもう一人、マチュアさんの姿がそこにあった。


 普段の神官服とは異なり、ゆったりとした肌着のような服を身に着けたマチュアさんはカプセルの中に満たされている液体の中に浮かんでいた。その瞳は硬く閉じられ、液体のせいなのかとても血色の良い顔色に見えないことから『まさか……』と嫌な予感に苛まれる。



「マチュアなら仮死状態のようなものだから心配はいらないよ、時間が経てば普通に目を覚ます。

 ……もっとも、そこの男がそれまで待ってくれないようだから困っているんだけどね」

 ロイズさんはそう言いながらリュウの方を見る。


「いやぁ、それだとなんだか俺が悪者みたいじゃないか? 俺としてはその機械の中に入っている資料(チップ)が欲しいだけなんだが」

「欲しいだけ……そう言いながらグーデルを殺したの誰かな?」


「!」

 やっぱり、リュウがグーデルさんを……



「俺としてはその資料(チップ)が欲しい。だがアイツはそれを拒否した。戦って勝つことでしか資料(チップ)を得られないということになったんだから、結果としてああなっても仕方が無いだろ?

 貴方だってそうだ。資料(チップ)さえ渡してくれれば、俺は貴方を傷つけることなくここから退散することができたのに」

 そういうリュウは残念がるような素振りを見せてから、わたしたちの方を見る。


「さっきも言った通り、お前が欲しがっている資料(チップ)はこの機械を止めなければ入手できない。そしてお前は強制的に止めてでも、この機械の中に入っている資料(チップ)が欲しい。

 だが、この機械を強制的に止めることは中に入っているマチュアに重大な影響を与えることになるのを俺は知っている。そういうことが分かっているのにも関わらず、俺がこの機械を強制的に止めてまでお前に資料(チップ)を渡すことはあり得ないだろ?

 ならばこそ、そうならない為にも俺はこの命にかえてマチュアを守り切る!」

「言うねぇ~さすが笑う人形(ラフィング・ドール)を口説き落としただけはある」


「どうしてリュウがマチュアさんの事を知っているの!?」

「そりゃ、まぁ有名人だからね。その人も、そしてその旦那さんもさ」



『有名人だから』

 確かにルナさんだってマチュアさんのことを知ってはいたけど、それはルナさん自身が情報収集能力に長けているというか色んなことを調べることが好きであり、マチュアさんのこともその延長線上で得られた結果だったと思っている。実際、ニーナはマチュアさんのことを知らなかったわけだし。


 そんなルナさんぐらいしか知らなかったような情報を、同じようにリュウが知っていたのをおかしいとは言わないものの、これまでの経緯も踏まえてマチュアさんの(それらの)ことを詳しく知っているのを普通と考えるのは少々虫が良すぎるような気がする。




『……なに、この感じ。でも、どこかで……』

 不意にさっきまで感じていたものとは異なる、肌が粟立つ嫌な感覚に包まれる。しかも、この感じは以前にどこかで感じたことがあるような気が……


『嫌な感じ……でも、だからと言ってここからは逃げるなんて選択肢はない』

 負傷したロイズさん、そして静かに眠るマチュアさんを前にして、わたしに逃げるという選択肢が生まれるはずも無かった。




次回、予定通り11/26(月)にアップできるように頑張ります!


いつも読んでいただきありがとうございます。


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