154話 アルブラ動乱15
「ま、とりあえずここから先は一人で行かせてもらうから。
グーデル神官長も道案内ありがとう。リアともここまで色々と縁があったけど、一旦ここで失礼させてもらうよ」
ガチン!
「リュウ!?」
懐から取り出した小さな歯車を祭壇の間にあるの依り代に軽く当てると、依り代の内側から何かが動いた音が。そしてその音と共に徐々にだけどリュウの姿が薄くなっていって……
「じゃ、また」
「クソッ!」
グーデルさんは慌てて掴もうとするけど、掴むどころか触れようとする前にリュウの姿は完全にそこから消えていった。結局、グーデルさんはその様子を鬼のような形相で見ることしかできず……
「グーデル神官長、これは一体」
「煩い!」
ファナさんに問いかけられるもののグーデルさんは答えることなくそれを一蹴。
そしてリュウが持っていたのと同じような歯車を取り出して依り代に当てると、先程と同じようにその姿を消していった。
「……えーっと、これはどうすれば」
「流石に私にもわからない。とりあえず誰か神官を捕まえて話を聞いてみるから、悪いがリアはここで待っててもらえないか」
わたしの問いかけに対し、ファナさんはそう言うと祭壇の間の外へと駆け出して行く。
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『どーしよ……』
さすがに一人残されると心許ないというか、どうしたものかと悩んでしまう。
『リュウがさっき言っていた【爺さんと定住者】。たぶん、それはトム店長とわたしのことだよね? じゃあ、リュウがああやってトム店長のお店に出入りしていたのはさっきの歯車を入手する為、その調査とか下調べの為だったっていうこと?』
裏切られたというよりかは、『まさか』という感じでちょっと心が苦しくなる。
『でも……あんなのどこにあったんだろう?』
一応、トム店長のお店で暮らすようになってから、建物内の部屋や倉庫を掃除したり片付けたりするのはわたしの日課だったわけで、その最中に金色に光る歯車なんて見た記憶が無い。
トム店長からは『俺が寝ている部屋の掃除はいらん、色々と物騒なものも置いてあるから立ち入り禁止だ』と言われていた。まぁわたしが見ていない以上、歯車はトム店長の部屋に隠してあったか保管されていたものだったと考えるのが一番スムーズな訳で。
「何にせよ今のわたしにはどうにも出来ないわよね」
残念ながらリュウやグーデルさんが持っていた【金色の歯車】なんてあるわけないし。
『はぁ、わたしが持っているもので代用とか……いや、さすがに無いよね』
いつも身に着けている皮袋の中を見てみても、そんな貴重なアイテムなんて……
「ん?」
そうやって袋の中をガサガサと漁っていると鈍く光るものが目に付く。
『これって』
「確かゲーニスの地底湖で玄武様に貰った巫女の印である【勾玉】だよね?
洞窟で貰った時も含めて、今までこんな風に光ったことなんて無かったはず。もしかして……」
逸る気持ちを抑えて勾玉を依り代に当てると、
ガチン!
「あっ」
さっき聞いた音を三度耳にした瞬間、わたしの視界に少しずつノイズが走ると次第にその模様というか砂嵐のようなものが荒くなっていき、最終的には視界全てがモノクロでザラザラとしたものに変わる。そして、それが収まった時に目にしたものは……
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「ここは……どこ?」
さっきまでいた神殿、そして祭壇の間とは全く異なる状態に思わず足が竦む。
床も壁も天井も全てが黒。材質が何かはわからないけど、とりあえず硬質的な物質であり、近しいものといえば黒い大理石といった感じ。それら全てに蛍光色に光るオレンジ色の線が上下左右と無差別に、それこそ幾何学模様か何かのように走ることで全体的な照明の代わりとなっており、通路全体を鈍い光で照らしていた。
『まるでここだけ現代……ううん、もっと先。それこそ近未来的と言っても過言じゃない感じ。あの神殿からこんな場所に来るなんて、正直思ってもみなかったけど』
言い方としては正しくないけど、ちょっと薄気味悪いというか……でも、
「何だろう、何かこの空気というか感じは知っているような……」
この感じ……確かにどこかで感じたことがあるような気がするけど、すぐには思い出せずにモヤモヤとしたものが頭の中に漂っている。
『どこだっけ……この肌がピリピリと刺すような感じをどこかで……』
「あ、そうだ! わたしが時神のモルフィス様に刺された……この世界での命の価値を変えてもらった、あの場所で感じたものと似ている!」
見た目ということで言えば、あっちは洞窟のような感じでこっちは近未来的と、似た部分を探す方が難しいレベルだけど、雰囲気というか漂う空気のようなものがすごく似ていると思う。
『……まさか、これって神様がいる場所で共通して感じるものだとか言わないわよね?
もしそれが本当に同じものだとしたら、ここにはメテオス神殿が祭る神様になる訳だから……機械神メテオス様がいる場所ってこと!?』
えっ? ちょ、ちょっと待って!
『だ、大丈夫、だとは思うけど』
ついあの刺された感覚が蘇ってきたことから、一瞬体中から冷や汗が出かけるけど。
でも、冷静に考えれば『ここで変なことをするつもりも無いから刺されたり痛い思いをすることは無い』という考えにたどり着き、つい本能的に取っていた防御的な体勢を解く……もちろん警戒は怠らないけど。
「――!」
「今のは」
そんなことを考えていた瞬間、どこか離れた場所から悲鳴のようなものが聞こえたような気がしたことで、不安な思いよりも何かが起こったであろう事へ意識が移る。
「……ハッキリとは聞こえなかったから確証は無いけど、たぶんあの声はグーデルさんのもの」
何か良くない事が起きたのは間違いない。正直なところ、本当はそんなヤバそうな場所には行きたくないけど……
『どうせここにいたって何も出来ないし、それこそここから出る方法だってわからないから行ってみるしかない……よね』
何があるかはわからないけど、もう進んでみるしかない!
次回も予定通り来週の月曜(11/19)に更新予定です。
何もなければ、ですが(´・ω・`)




